028_ルルデとドルド
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028_ルルデとドルド
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「わざわざ来てもらってすまんな。そこに座ってくれ」
防具を買いに行った後、冒険者ギルドでドルドに面会を求めたら、ジュンたちは会議室のような場所に通された。
今日はルルデの話なので、ポルテたちは来ていない。家でゆっくり休んでいることだろう。
お茶を出すドルドの不器用さが、ジュンには見ていられない。
「僕がやりますよ」
「む、そうか……頼む」
ジュンは客だが、自分では美味しいお茶は淹れられないことを知っているドルドは、素直にジュンに任せた。
もちろん、ルルデもこういったことは苦手というか、壊滅的に才能がない。
宿でもジュンの世話をしようとするのだが、服を畳もうとすると破り、お湯を入れるだけなのにお茶が不味いのだ。
ジュンが3人分のお茶を淹れて出す。それを飲んだドルドが、ホッと息を吐き美味いと漏らした。
「すまんな。客にお茶を淹れさせてしまって」
「構いませんよ。でも、ルルデさんもこういうことができませんが、血筋ですか?」
「主様。それくらいできるぞ!」
その反論にジュンは返事をせずに、ジト目で応えた。
「……分かった。私は不器用だ。認めるから、そんな目で見るな」
「はい、ルルデさんは不器用です。それをしっかり認識してくれたら、僕からは言うことはありません」
「その調子なら、2人の関係は良いものなんだろうな」
ドルドが目を細めて2人を見ていた。
ジュンは背筋を伸ばし、ドルドに向き合った。
「まず、バーダムのことを聞きたい」
「オヤジは死んだ。族長戦に負けた時の傷が治りきっていないのに、狩りに出て魔物に喰われたのだ」
「族長戦に出たのか?」
「ああ、決勝まで行ってよい試合をしたが、負けた」
「相手はメッサーラか?」
「そうだ。メッサーラもかなり手傷を負ったが、オヤジのほうが一歩及ばなかった」
ドルドは「むぅ」と唸り、腕を組んだ。
「だが、ルルデが奴隷に落とされる意味が分からん。なぜ奴隷になったのだ」
「私はジョブが文字化けして読めなかった」
「ジョブが文字化け? なんだそれは?」
ルルデは自分のジョブが文字化けして読めなかったことを語って聞かせた。
ジョブが文字化けしている自分が、獅子獣人の里に居るのがいたたまれなくなったルルデは自ら奴隷落ちを望み、奴隷商人アルパチーノに買われてこのダンジョン都市にやってきたのである。
里の誰かに奴隷にされたわけではなく、自分の意志で奴隷になったとルルデは語った。
「僕がルルデさんを買ったのは、つい最近です。ドルドさんは実際に見てもらったので分かると思いますが、魔物を集めてくれる相棒が欲しかったからです」
「ジュンの狩りを見て、度肝を抜かれた。しかし、ルルデの役割は極めて危険なものだ。一歩間違えれば100体の魔物に袋叩きにあうのだからな」
「私はそんなヘマはしない」
ルルデが不満そうに反論する。
「ダンジョンに入るのですから、危険はつきものです。どんな人でも、危険をゼロにすることはできません。ですが、リスクは少なくしているつもりです。ルルデさんの能力で対処できない魔物なら、あの役割を任せたりはしませんので、安心してください」
ジュンの言っていることは、普通のことである。ダンジョンの中に入る以上、危険はつきものだ。それは元冒険者であり、現冒険者ギルドのギルマスであるドルドが一番よく知っていること。
「だが、奴隷は冒険者ではない」
「はい。そのことは大事なことなので、魔物との戦闘を前提にした奴隷をお願いしました」
「私はそれを了承して、主様に買われたのだ」
奴隷にも権利があるため、魔物と戦いたくない奴隷を戦わせることは禁止されている。その場合は、ダンジョンに連れて行くことも禁止になる。
「ルルデが納得して買われたことは、分かった。そこで、ジュンに、いやジュン殿に頼みがある」
「なんでしょうか」
「ルルデを解放して欲しい。ジュン殿がルルデを買った時の3倍を支払う。もちろん、解放にかかる費用も俺が出す。どうだろうか」
ルルデはジュンの相棒として、なくてはならない存在だ。今ルルデに抜けられたら、新しい人材を捜して育てるまでに、時間がかかってしまう。
しかし、ドルドが言うことは理解できる。姪が奴隷に落とされているということは、心配や不安で一杯なのだろう。
ただ、十数年も会っていない姪に、そこまで肩入れするものなのかとジュンは疑問に思った。
「俺は冒険者になって里を出て、バーダムは衛士として里に残った。あいつとは2年前に会ったが、その時は元気だったので俺も安心していたんだがな……。あの時に族長戦に出るなんてひと言も言ってなかった。それにルルデがこんなことになっているとも思わなかった。伯父としては反省するばかりだ」
ドルドはバーダムと数年に1回の頻度で会っていたようだ。
バーダムが族長の護衛としてこのダンジョン都市にやって来ると、ドルドに会っていた。護衛なのでルルデを連れて来るわけにはいかなかった。
ただ、会う度に毎回ルルデの話になった。バーダムには愛しい娘であり、ドルドには可愛い姪なのだから。
「僕は構いません。誰も奴隷でいたいとは思わないでしょうから」
「本当か!?」
ドルドが身を乗り出して、ジュンに顔を寄せる。大柄なドルドの圧が凄い。
「ちょっと待った!」
ルルデが立ち上がって、話を進める2人に待ったをかけた。
「私は今のままでいい。それに恩を返すために、一生主様についていくと決めているんだ」
「奴隷のルルデを大事に扱ってくれた恩は、俺も感じている。その恩は、俺からも返すつもりだ。だが、ジョブが文字化けしているルルデでは、いずれ頭打ちになる。そうなったら、命にも関わるんだぞ」
「そうじゃない!」
ルルデは文字化けが直ったことをドルドに喋りそうになって、喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
文字化けが直ったことを話せば、その方法を聞かれるだろう。それは、ジュンの秘密かもしれない。ジュンにどうすればいいか、視線で問いかける。
ルルデの視線の意味を理解したジュンは、頷いて返した。そもそも、文字化けを直す方法を秘密にしているわけではない。ただし、危険な方法なので、公にするつもりはないだけだ。
「私の文字化けは直っているんだ。だから、私は戦える!」
「なっ!? 文字化けが直っただと……」
文字化けを直すには、魂に一定以上の負荷がかかることが条件だとジュンは語った。
「つまり、ジュン殿も文字化けだったのか?」
「はい。僕もジョブやスキルなどが文字化けしてました。ある人に崖から落とされ、なんとか助かって文字化けが直りました」
「崖から落とされたのか?」
「はい。でも、ある人に助けられ、僕はこうやって新しい人生を歩む決心をしたのです」
「そんなことは聞いてないぞ」
「吹聴して回るような話ではないですから」
ルルデとドルドの視線を感じ、ジュンはニヒルに笑う。
「同情とか要りませんからね。僕は崖から落とされて、今の力を得たのです。この力を極めることが今の僕の目標なので、過去を振り返る気はありません」
「そうか。ジュン殿も大変な人生を送ってきたのだな」
「主様の話は分かった。だが、私の文字化けが直ると教えてくれたのは、主様だ。これは一生をかけて返す恩だ」
「むぅ……。ルルデの言うことはもっともだ。我ら獅子獣人は恩に報いる誇り高き一族。文字化けを直してくれたジュン殿には、一生をかけて恩を返さねばならない」
「僕は恩とか貸しとか思ってませんから、そんなに気にしないでください」
「「そうはいかない!」」
ルルデとドルドの声が揃い、ジュンがその圧に押される。
「だが、奴隷でなくても恩は返せる。奴隷から解放されても、ジュン殿の下で支え続ければよい」
「でも……」
「ドルドさんの言う通りですよ。奴隷じゃなく仲間として今まで通り、僕を手伝ってください」
「むぅ……分かった。私は一生、主様に仕えることを改めてここに誓う」
この後、アルパチーノの店で、ルルデの奴隷契約を解除した。
ドルドはジュンに何度も礼を言い、ジュンが引いていた。
ルルデはドルドの家に住むことになった。ルルデは拒否していたが、ジュンとドルドがタッグを組んでそうするように説得したのだ。




