025_勇者パーティーとハイエナと……
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025_勇者パーティーとハイエナと……
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ここはルディオル王国の王都にある王宮内。
荘厳な大広間において、勇者ドミニクとその仲間たちが国王と謁見していた。
国王は柔和な表情をし、勇者と仲間たちを丁寧に対応している。
「レンドルブ渓谷の魔物討伐、ご苦労であった」
渓谷と言っているが、レンドルブ渓谷はダンジョンである。ランクとしてはDランクなので、それほど強い魔物が出るわけではない。
勇者が順調に育っていることが確認できて、国王はご満悦なのだ。
「勇者ドミニクが我が国に居れば、魔族も簡単には手出しできぬわ。ハハハ」
魔族の国、魔王国という国がある。勇者という戦力があれば、その魔王国は簡単には攻めてこれないと国王は嬉しそうに語る。
ただし、魔王国がこの国に攻めてくるというのは、この国側の妄想である。魔王国はちゃんとした国で、この国よりもよほど裕福な国だ。わざわざ貧乏国家を攻めて負債を抱える必要などないのである。
そういった現実を見ることのできない者たちが、この国の貴族には多いのだ。
「まだまだ力不足にございます。もっとレベルを上げて、魔族に対したいと思います」
「うむ。驕らず上を見るその姿勢は、さすがは勇者である。ドミニクの言動は賞賛に値する。何か褒美を与えたいと思うが、何が良いかの?」
「それでは、ゾンダーク帝国にあるダンジョン都市に赴く許可をいただければと思います。ダンジョン都市にはAランクまでのダンジョンがあると聞いていますので、そこで修業したく思っています」
もっともらしい理由をつけているが、このドミニクは国を離れて羽を伸ばしたいだけなのだ。
その後ろに控える4人の仲間は全て女性である。剣聖イシュナ、聖騎士レイリーン、聖女ルミナス、魔導士ミリアが居て、イシュナとレイリーンはすでにドミニクのハーレム要員である。
聖女はドミニクに言い寄られているが、まったく相手にしていない。ドミニクの女癖の悪さを知っているのもあるが、スキル・魅惑がルミナスに効果がないからである。
また、ルミナスは新入りのミリアを、ドミニクの毒牙から守るように立ち回っている。
そのミリアだが、自分がジュンを見放してしまったことで、ジュンが命を絶ってしまったと思い込んでいた。
そのため、心の中にぽっかりと穴が開いてしまい、虚しさが彼女の心を蝕んでいる。
ジュンが崖から身を投げたのではなく、ドミニクによって崖から落とされたことを知らない彼女は、ドミニクの優しい言葉に依存し始めていた。そうならないようにルミナスが目を光らせているのだが、ドミニクのミリアへの執着は相当なものである。
ルミナスがドミニクの本質に気づいた時、すでにイシュナとレイリーンはドミニクの毒牙にかかっていた。
2人がドミニクに依存するのは、ある意味仕方がない。同じ国の出身である2人は、ルミナスと違ってドミニクと親しいからだ。
だが、2人とドミニクの関係性は、ルミナスには理解できないものだった。何度も説得を試みたが、2人は逆に心を閉ざしてしまった。
「うむ。さすがは勇者ドミニクである。そのことは許可を与えよう。また、ダンジョン都市での滞在費は国が出そう」
今回のダンジョン都市行きも、本来なら不要なものであった。国内にもダンジョンはあり、わざわざ他国へ行く必要などないのだ。
ルミナスはドミニクの背中に、ため息を吐きかける。
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ルディオル王国の王都にある屋敷の一室。
その中には2人の人物が顔を突き合わせて、テーブルの上に置かれたペンダントを見つめている。
ペンダントは楕円の銀に彫金が施されており、細かな模様が美しい。
「間違いない。これをどこで?」
髭面の中年男性は、同じく中年のオオカミ獣人にペンダントの出所を確認した。
「骨董品店にあったのを見つけました」
30過ぎオオカミ獣人の男性が、ペンダントを発見した経緯を語った。
「その骨董品店はジュリア様から買い求めたのか?」
「このペンダントがジュリア様のものか、確信がもてませんでしたので深く追求しませんでしたが、どこかの村から流れてきたものだと言っておりました」
「ふむ、その骨董品店でこのペンダントのことを聞き込むのだ」
「はい!」
オオカミ獣人は部屋を出ていく。
この部屋の主である中年男性は、バルバトス皇国の外交官であり大使として王国に駐在している。
部屋を出て行ったオオカミ獣人は大使館つきの武官である。
問題のペンダント、いや、ペンダントの持ち主が問題なのだが、ジュリアという人物はバルバトス皇国の皇女であった。
しかし、16年前にジュリアは失踪している。当然ながら皇国としてはジュリアの行方を探したが、まったく発見できずにいたのだ。
あれから16年が経過し、思わぬところで皇女ジュリアの手がかりが掴めた。
せっかくの手がかりなのだ。
大使はジュリアの行方を何が何でも探し当てると鼻息を荒くした。
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「今日はよろしく頼む」
「あなたは……登録の時の」
「ドルドと言う。ずいぶんと派手に暴れているようだな」
ドルドの視線は獲物を狙う獅子のそれであった。
鋭い視線だが、不思議と怖さは感じない。なんとも不思議な感じがした。
「お前の奴隷か?」
ドルドはルルデに視線を向けた。同じ獅子獣人ということで気になったようだ。
「彼女はルルデさんと言います」
「ルルデだと?」
「私の名に、文句でもあるのか?」
「お前はバーダムの娘か?」
思わぬ名前を聞き、ルルデの目が大きく見開かれた。
「……バーダムは私のオヤジだけど、あんた、なんでオヤジの名を知っているんだ?」
「バーダムは俺の弟だ。15年ほど前に娘が生まれたと聞いて見に行ったことがあるが……なんで奴隷なんかしている? バーダムはどうした?」
まさかの血縁者との遭遇に、ルルデとドルドは顔色を変えた。
しかも、15年ぶりに再会した姪が奴隷になっているのだから、ドルドとしては納得のいく回答が欲しいと思うのが当然であろう。
「むぅ……ポーターと冒険者たちが集まってきた。話は後だ……」
「……分かった」
「ジュン。ルルデがなぜお前の奴隷をしているかは知らないが、ぞんざいな扱いをしたら、俺が許さんぞ」
ドルドの視線は先程のものではなく、剣呑で殺気のこもったものだった。その殺気を受けて、ジュンは1歩、2歩と後ずさった。
「止めろ! 主様に敵対するのなら、オジキでもぶっ飛ばすぞ!」
ルルデがジュンとドルドの間に割って入ると、ドルドは殺気を放つのを止めた。
「……後から話を聞かせてもらう。今は、予定通りにダンジョンに入るぞ」
ドルドからの殺気は止んだが、剣呑さは消えない。
「おいてめぇら! 今日はジュンの邪魔をするんじゃねえぞ!」
「「「はいっ!」」」
ジュンの狩りの方法は独特のものである。だから、ハイエナをするのは構わないが、自分たちの邪魔をしないようにジョンソンに徹底してもらった。
ドルドもそのことを聞いていたので、ジョンソンが集めたポーターと冒険者たちにそう言い聞かせたのだ。
ジュンは冒険者ギルドが集めたポーターをパーティーメンバーにした。最大15人までパーティーを組める。これによって、ジュンが倒した魔物の経験値が15等分される。これは、ジュンにとって大きなメリットだ。
Eランクダンジョンに入っていくと、昨日ビッグボアを狩った場所付近に到着した。
あれだけ残したビッグボアの死体は綺麗さっぱりなくなっている。これがダンジョンの特徴で、魔物でも冒険者でも死体がダンジョンに吸収されて消滅するのだ。
どういった構造や仕組みなのか誰も知らないが、冒険者の誰もが知っていることである。
「ルルデさん。お願いします」
「分かった!」
ルルデ1人が走り出した。それを見ていたドルドは、何をするのかと首を傾げる。
ジュンとポルテたちポーターは動く気配もない。おそらく、ビッグボアを発見してここまで連れてくるのだろうと、ドルドは考えた。
その考えは間違いではないが、自分の考えが甘かったことを後から気づくドルドである。
30分ほど経過したところで、ルルデが大量のビッグボアを引き連れて戻ってきた。
それを見たドルドは舌打ちをした。魔物を連れてくるのを、ルルデが失敗したと思ったのだ。
「お前たちは下がっていろ!」
背中に背負った大剣を抜いたドルドを、ジュンが手で制止する。
「何をするっ!?」
「これは予定通りの行動です。邪魔をしないでください」
「何!?」
ジュンはルルデとその後ろに続くビッグボアから目を離すことなく、ドルドにそう語った。
「ドルドのおっちゃん。邪魔をしないって約束だぞ。ほら、下がった、下がった」
「むぅ」
ジュンはともかく、ポーターであるポルテたちがまったく焦っていないことに違和感を感じたドルドは、渋々後に下がった。
「主様!」
「はい! サンダーレイン!」
サンダーレインの発動時間は15秒と長い。だが、時間短縮Lv3の効果によって4.5秒短縮されて10.5秒で発動する。
大量のビッグボアが迫る光景を見ているポーターと冒険者たちにとって、10.5秒というのは非常に長い時間である。逃げ出したとしても、ポーターと冒険者たちを責めることはできない。
続々と逃げ出すポーターと冒険者たちを背に、ドルドは剣を鞘に戻すことなくジュンたちの行動を見つめていた。
ルルデがジュンの横を通り過ぎたところで止まった。ドルドは訝しげに2人の行動を注視するしかできない。
そこで空に雷雲が立ち込めていることに気づいた。その刹那、雷雲から数多の雷が放出され、地面を埋め尽くしていたビッグボアを貫くのだった。
「なっ……なんということだ……」
ジュンが冒険者登録する時、そのステータスを確認しているドルドは、ジュンが珍しい雷属性の中級魔法であるサンダーを覚えていることに、驚きを覚えた。
レベルに対して圧倒的に高い知力値と抵抗値にも驚いた。それ以上に、今、驚いている。
「ドルドのおっちゃん。終わったから、ポーターと冒険者たちを呼び戻したほうがいいよ」
「むっ……そうだな。ちょっと行ってくる」
ポルテに促されなければ、しばらく放心していたことだろう。ポーターと冒険者たちを連れ戻すと、すでにルルデの姿はなくジュンとポルテたちポーターがビッグボアを解体していた。
「姉ちゃんなら、魔物を探しに行ったよ。オイラとジュンの兄ちゃんが解体している間に、ルルデの姉ちゃんが魔物を探して連れてくるんだ」
この答えで、ドルドは理解した。これは戦いや狩りではなく、虐殺なのだと。
ジュンはあの圧倒的な魔法で、ビッグボアを一度に大量に虐殺している。そのビッグボアを集めるのが、ルルデの役目なのだと理解した。
「なんてこった……」
本当にとんでもない新人が現れた。
これならビッグボアを400体近く狩ってくるのも不思議ではない。ドルドの目の前には、すでに100体ほどのビッグボアの死体が転がっているのだから。