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022_サンダーレインと疑惑

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 022_サンダーレインと疑惑

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「主様。行ってくるぞ」

「はい、お願いします」

 1日休みを入れて、また8人でビッグボア狩りを行う。

「今日はちょっと違う魔法を試そうと思う。驚かないようにね」

 雷魔法・サンダーレインを使いたくて、ジュンはうずうずしていた。ポルテたちポーターに新しく取得した雷魔法・サンダーレインを使うと忠告した。


 雷魔法・サンダーだけでも凄いのに違う魔法と聞いて、ポルテたちはジュンがどんな魔法を使うのか興味が湧いた。

「なあ、ジュンさん。どんな魔法を使うんだ?」

 ケットが興味津々といった顔で聞いてきたが、ジュンは内緒だと言う。


 ルルデが帰って来る。大量のビッグボアが血走った眼をして、ルルデを追いかけて来る。

 雷魔法・サンダーレインの発動時間は15秒。時間短縮Lv3によって30パーセント短縮されて、発動時間は10.5秒。

 ジュンは10.5秒の距離を目測して、雷魔法・サンダーレインを発動させた。


「主様!」

「うん! サンダーレイン!」

 上空に雷雲が立ち込め、発動の時が来た。

 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ。

 雷雲から無数の(いかづち)が地面に向かって落ちる。腹の底に響く重低音がジュンたちを襲う。

 雷が落ちるごとに十数頭のビッグボアが吹き飛び、高電圧が一瞬にしてその体を駆け抜けて命を散らした。


「「「「「「ひぇぇぇっ」」」」」」

 心づもりはしていたが、ここまで大規模な魔法だとは思ってもいなかったポーターたちは恐慌状態に陥った。


 雷の雨が止むと、そこには無残に横たわるビックボアの姿と焼け爛れた地面があった。

「すごいな……」

 ルルデはポーターのように恐慌状態にならなかった。昨夜、ジュンが雷魔法・サンダーレインを取得したことを聞いていたこともあるが、肝が据わっているということもある。


「兄ちゃんの魔法だから、凄いんだろうとは思っていたけど、想像以上だったね……」

 ポルテが立ち上がって、お尻についた土を払った。

「初めに言ってくれて良かったぜ、あんなのをいきなりぶっ放されたら、ちびっていたところだよ」

 ケットは冗談半分、本気半分で頭をかきながら言った。他のポーターたちも何度も頷いた。


「主様、今のが上級魔法なのか?」

「はい。上級雷魔法のサンダーレインと言います」

「次からはこのサンダーレインで殲滅するんだな?」

「それが魔力が足りないので、今だと4発しか撃てないんですよ」

「あと3回か。だが、もっと多くのビッグボアを連れてくれば、その分は回数を減らせるんだろ?」

「そうですが、それをすると、ルルデさんが危険ですから」

「ならば、決まった。次は倍のビッグボアを連れて来るぞ!」

 その言葉を言った瞬間に、ルルデは駆け出した。ジュンは止めようとしたが、遅かった。

 そして、今の倍と聞いたポルテたちは、顔を青くした。今でもひいひい言って解体しているのに、倍になったら地獄だ。


 ジュンたちから離れたルルデは、ビックボアの数を調整しつつ徐々に数を増やした。

 その分、時間とトレインからはぐれるビッグボアを出さない絶妙な調整をしていた。ルルデの耳と鼻は、そのためにフル稼働している。

 1つの群れで10体から15体ほどのビッグボアが居る。7つの群れを率いたルルデは、ジュンの姿を視認した。


 ルルデの姿が次第に大きくなっていく。その後ろでは土煙が上っている。

 さらに近くなると、ビッグボアの赤い体が密集しているのが見えた。ルルデから炎が出ているかのような錯覚を起こさせる程だ。

 ジュンはタイミングを測り、雷魔法・サンダーレインを発動させた。

 大地に雷が落ちるたびに、腹に響く振動がある。圧倒的な力が、ビッグボアを蹂躙した。

 ポルテたちポーターには、まるで雷神が怒り狂っているように見えた。


 雷が収まると、ビッグボアの死体で地面は埋め尽くされていた。

「主様。やったな」

「ルルデさん。あまり無理をしないでください」

「無理はしていない。主様のおかげで、レベルも上がっているからな」

 無理どころか余裕で大量のビッグボアを引き連れてきた。30分程休みなく走っているが、それでもルルデの息は上がっていない。


 ポルテたちポーターが死んだ魚のような目をして、ビッグボアの死体の解体に入った。

 ルルデには少し休憩を取ってもらい、ジュンはCHSCを確認した。

「あ、100チェーンだ」

 今回の狩りで202ポイント増えた。つまり討伐したビッグボアの数は102体である。素晴らしい戦果だった。


 その後、時間を置いて2回の狩りが行われた。その2回もそれぞれ100体を超える数のビッグボアを狩ったジュンは、ほくほく顔で地上へ戻った。

 この日、討伐したビッグボアの数は367体。稼いだCHSCは717ポイントである。

 これからは今日以上の狩りができるはずなので、CHSCはもっと多くなるはずだ。ジュンの頬が緩んだ。


 しかし、冒険者ギルドに入ったジュンたちは、ギルドの職員に囲まれた。ルルデは牙を剥いて職員を威嚇した。

「Eランクのジュンさんですね。私は当冒険者ギルド警備部のロッシといいます。少し話を聞かせてもらえますか」

 ロッシは茶髪に白髪が混じった初老の男性で、落ちついた雰囲気のある人物だ。

「主様になんの用だ」

「ルルデさん。下がってください」

「しかし……分かった」

 ルルデは渋々下がったが、いつでも飛びかかれるように身構えている。

 ポルテたちポーターは何があったのかと、戦々恐々としてやり取りを見守った。


「話をするのは、構いません。ただ、見ての通り、大量の素材がありますので、その買取をしてもらってからでもいいですか?」

「素材は買取カウンターに預けてもらって構わない。しっかりと査定もさせよう」

 ジュンたちは大量の肉と魔石を買取カウンターに預けた。そして、ロッシに案内されて会議室のような部屋に入った。ジュンとルルデ、そしてポーターたちも一緒だ。


「さて、本日のことだが、ある冒険者から被害の報告があった」

「被害……ですか?」

 ジュンはなんのことか分からず、首を傾げた。

「Eランクダンジョン内で、ジュンさんたちにトレインを擦りつけられたというものだ」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

 8人が一斉に疑問の声が出た。


「そんなことはない! 冒険者が居ない場所を使っていたんだ!」

 トレインを担当しているルルデが、声を荒げた。ジュンに止められなかったら、ロッシに飛びかかっていただろう。

「冒険者からは大量のビッグボアを擦りつけられた。命からがら逃げ延びたと聞きました」

 ジュンは以前ルディオに聞いた、性質の悪い冒険者の話を思い出した。人の足元を見てくる奴が居ると。おそらく今回のことはそういった冒険者による、嫌がらせの一環なんだろう。

 しかし、ジュンたちが故意にトレインを起こしているのは事実。これを否定はできない。そして、そのトレインによる被害者が出たとしても、否定できない。ジュンは苦虫を嚙み潰したような表情をした。


「その冒険者たちは無事だったのですか?」

 ルルデが失敗するとは思わないが、絶対ということはない。念のため、ロッシにそのことを確認した。

「全員無事だった」

「防具はどうですか?」

「防具? どういう意味かな?」

「防具が酷く傷ついていたり、酷く汚れていたりしましたか?」

「傷は多少あったかもしれないが、酷いものはなかった」

 ジュンは安心して、ふーっと息を吐いた。


「それで、冒険者ギルドは僕たちをどうするのですか?」

「トレインの話が本当(・・)だった場合、冒険者たちは無事だったから、ジュンさんへのペナルティとしてダンジョンへの立ち入り禁止と、被害に合った冒険者たちへの金銭的な賠償ですね」

 おそらくその冒険者たちは金銭的な賠償を狙っているのであろう。その目的はジュンでも理解できた。

「その話が嘘だった場合は?」

「ジュンさんへの業務妨害として、こちらも金銭的な補償をすることになりますね」

 これはダンジョンの中で起こったことなので、事実確認と処罰は冒険者ギルドの判断で行える。

 国とは一定の協力関係にあるが、冒険者ギルドはある程度の治外法権が認められている組織なのだ。


「僕たちはトレインの擦りつけに関して、完全否定します。そんな勿体ないことはしません」

 チェーンスコア(C H S C)を稼ぐためにやっているのに、他の冒険者に魔物をあげるという勿体ないことはしない。

「勿体ないというのは、どういうことかな?」

「僕は特殊なジョブを持っています。ですから、特殊な魔物の狩り方をしているのは否定しません」

「それはトレインについては否定しないということかな」

「はい。トレインは僕の成長にとって、とても大事な条件です。それを他の冒険者にあげるなんて勿体ないことはしません」

 ロッシは腕を組んで唸ってから、ジュンにその狩り方やジョブについて詳しい情報を求めた。


 こういった嫌がらせがあるのだから、ジュンの狩り方は他の冒険者の知るところになっていることだろう。つまり隠す必要はない。

 ジュンはロッシに自分の狩り方を教えた。魔物をトレインさせて、一気に殲滅するというものだ。

 レベルからは推測できない、そういったことができるだけの力があるのだと。


「なるほど、ジュンさんの主張は理解した。その狩り方でしか成長できないなら、他の冒険者にトレインを擦りつけるのは勿体ないだろう」

「必要でしたら、ステータスボードを確認してください」

「念のため確認させてもらおう」

 ジュンはロッシにステータスボードを見せた。冒険者登録をする時に受付でゴツイ獅子の獣人に見せてからかなり成長しているものだ。

 その歪な能力値を見てロッシはジュンの話が本当なのだと思った。しかも、上級雷魔法・サンダーレインまで持っている。それはレベル17ではあり得ないことだ。


 ロッシはジュンだけでなく、ポーターの六人にも話を聞いた。全員同じ内容で、トレインを擦りつけたところは見てない。ただしルルデが大量のビッグボアを引き連れて来て、最後にジュンが倒すところしか見てないというものだ。


「本日は帰ってもらっていいだろう。ただし、明日の昼前にもう一度ギルドへ来てくれ」

 ジュンたちは帰ることが許された。だが、嫌疑が晴れたわけではない。


 

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