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020_Eランクダンジョン

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 020_Eランクダンジョン

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 ビッグボアLv12の重量は300キロ、体高2メートルほどの赤色の体毛をした大きなイノシシである。

 その巨体の突進力は簡単に止められず、ジュンなど軽く跳ね飛ばす威力がある。そこからついた異名は、壊れた暴走車である。

 随所に魔道具が使われた魔動自動車という乗り物があるが、その魔動自動車が壊れて止まらなくなったという意味である。


 バリッバリッバリッバリッドカンッ。

 轟音と共に閃光が迸り、ポルテの目と耳を麻痺させた。

 開いた口が塞がらなくなるような光景を目にしたポルテは、大量のビッグボアの死体とジュンの顔を交互に何度も見た。


「うわぁ……。兄ちゃん、凄いね」

「これが僕の魔物の狩り方なんだ。これを10回くらい繰り返せたら、良いかなって思っている」

「え!? 10回……?」

「うん、10回」

「兄ちゃん、それは無理だよ」

「どうして?」

「だって、これだけのビッグボアを解体するのに、オイラ1人で2時間はかかるよ」

「そんなにかかるの?」

「これでもかなり速いんだよ。オイラは解体士だからそれで済むけど、他の奴なら1日かかっても終わらないと思うよ」


 ただ魔石を回収するゴーレムやスライムとは違うのだと、40体前後のビッグボアの死体を前にして首を横に振るポルテ。

 そもそも、1日で40体のビッグボアを狩るような冒険者パーティーはない。

 これだけで金貨3枚以上になり、5人パーティーがポーターの取り分を引いても、1人当たり大銀貨5枚と銀貨7枚になる。

 Eランク冒険者は、1日に大銀貨1枚稼いだら多いほうだ。大銀貨5枚ともなると、それこそ何日もダンジョンにこもってやっと稼げる金額なのだ。


「僕も手伝うから」

「まあ、オイラの仕事だから、がんばるけどね」

「主様。連れてきていいのか?」

「うーん……解体の目途が立ったらにしましょうか。ルルデさんも解体を手伝ってください」

「解体を手伝うのは構わないが、ロックゴーレムの魔石を取る時も見ただろ? 私はウサギの解体さえできないぞ」

 解体できないと胸を張るルルデを見て、それもそうかとジュンは納得した。だが、そこでジュンは諦めなかった。


「何事も練習ですよ、ルルデさん」

「むぅ……分かった」

 3人で解体を始めた。

 ポルテは解体士というだけあって、解体スピードは速く品質も良い。

 ジュンも村にいた時はウサギなどを狩っていたため、解体は比較的得意のほうだ。ポルテには敵わないが、それなりの手際である。

 さて、ルルデだが、本人が思っていたよりも酷かった。肉と毛皮はとても売れるものではなかった。


「姉ちゃんは、ビッグボアの首を切って血抜きをしておいて、それだけでいいよ」

 このままでは売り物にならない残骸が大量にできてしまうと思ったポルテが、ルルデを血抜き係にした。

 3人、いや、主に2人で1時間半ほどかけて45体を解体した。

 思ったより時間がかかったジュンの前に、さらなる問題が発生する。


「兄ちゃん。オイラ1人でこれを全部持つのは無理なんだけど」

 ビッグボアの肉で需要がある部位は10キロ。つまり、目の前には肉だけで450キロが積まれている。

 さらに毛皮も1体から10キロほど取れるので、肉同様に450キロが積み上げられている。 

 魔石は大した重量ではないが、肉と毛皮だけでその重量は900キロにも及ぶ。

 ジュンのアイテムボックスは200キロ収納できるが、今は服や雑貨などが入っていて、容量の余りは170キロほどだ。

 アイテムボックスを使っても、まだ730キロもある。


「どうがんばっても、オイラでは100キロも持てないよ……」

 思わぬ問題に、ジュンは頭を回転させた。

「では、一度地上に戻りましょうか。素材は魔石と肉を優先して持って帰って、一番お金にならない毛皮は捨てましょう」

「かなり捨てることになるけど、いいの?」

「お金には困っていないから、今回は構わないよ」

 ジュンのアイテムボックスに肉を170キロ収納し、ジュンが50キロ、ルルデが150キロ、ポルテが80キロを持った。

 これで450キロの肉を全て持ち帰ることになる。毛皮は残念だが、全く持ち帰ることはできなかった。それでもジュンとポルテは必死に肉を運んだ。


「姉ちゃん、力持ちだな」

「ふふふ。力には自信があるぞ」

 ポーターのポルテをはるかに上回る150キロの肉を、ルルデは軽々と持っている。こういった力仕事や戦闘こそが、ルルデの得意分野である。

 それに対してポルテは必死の形相だ。元々レベル5だったポルテは、この狩りで一気に3レベルも上がってレベル8になった。それでも、80キロを持つのは厳しい。

 毛皮は仕方ないが、肉はできるだけ多く持ち帰りたいと、その小さな体の倍以上の重量を根性で持っていた。


 冒険者ギルドに魔石と肉を持ち込んだ3人のその姿は、かなり目立っていた。明らかに異常な量の肉を持ち帰ったのだから、目立つのも仕方がない。

 アイテムボックスからさらに170キロの肉が出て来たのだから、もっと目立った。


 前回大量の魔石を買い取ってもらった時、買取専用のカウンターを教えてもらった。今日はそちらの買取専用カウンターに、大量の肉を持ち込んだ。

 買取カウンターはほとんどが男性職員だった。女性も居るが、年齢がジュンの倍以上のお姉様であった。

 その中で暇そうにしていた中年男性職員に買取を頼んだ。

「こりゃまた、大変な量だな」

「すみません。お手数をおかけします」

「そう下手に出られると、調子が狂ってしまうんだがな……」


 ボサボサの茶髪をした中年男性職員は、呆れながらも査定を行った。

「肉の430キロは問題ない。だが、20キロはダメだ。誰が解体したか知らんが、そいつにはもう解体をさせるな」

 その言葉に、ジュンとポルテは頷いた。

 ルルデは不満そうな顔をしている。解体はしたくないが、あえて言われると気に食わない。


「今回の納品の代金は、金貨2枚、大銀貨6枚、銀貨4枚だ」

 魔石は1個で銀貨3枚、肉は10キロで銀貨3枚。

 魔石は45個あったので銀貨135枚、肉は430キロ分で銀貨129枚になった。

「身分証を出してくれ」

 代表としてジュンの身分証に入金してもらった。


「あんた、ジュンと言ったか。昨日も魔石を持ち込んでたろ?」

「はい。そうです」

「もしかして、あの後からダンジョンに潜って、これだけのビッグボアを狩ったのか?」

「ダンジョンに入ったのは、今日の昼前です」

「はぁ? ……マジか?」

「マジです」

 中年男性職員は開いた口が塞がらなかった。

 今は昼の2時過ぎ。3、4時間でこれだけの数のビッグボアを狩るのは常識ではない。どうやったらそんなことができるのかと、想像力を膨らませたが思い浮かばない。


 そんな中年男性職員の名前はジョンソン。だらしない髪型をしていても、この冒険者ギルドで買取や経理の担当幹部である。

「ヤベー奴が出て来たな……」

 と呟くジョンソンは、ジュンたちを半眼で見つめた。


「ポルテ、身分証を出してくれるかな」

 ジュンは大銀貨8枚と銀貨7枚をポルテの身分証に移した。

「こんなにもらえないよ」

「3等分したらこの金額だよ」

「おいらの報酬は10パーセントでいいんだ。それにおいらはポーターなのに、肉を80キロしか運んでないんだ。10パーセントだって多いくらいだよ」

「ポルテ、主様がそれでいいと言っているんだ。もらっておけ」

「でも……それじゃぁ、大銀貨3枚をもらうよ」

 10パーセントに少し上乗せした額をもらうと言ったポルテに、ジュンは首を振った。


「僕たちは明日もダンジョンに入るんだけど、明日もポルテにポーターを頼みたいんだ。それと、ポルテが信用するポーターをあと5人くらい連れてきてくれるかな。そのお金は、その手間賃ということで」

 ジュンは返金を受け取らず、明日もポーターをして欲しいと頼んだ。しかも、あと5人程ポーターを連れて来てほしいと頼んだ。今回の金額には、その手間賃も含めると。


「他のポーターを集めることはできないかな?」

「できるけど、それでも多いよ」

「それは僕がいいと言ったんだから、いいと思うよ」

「むむむ……」

「ポルテ、主様は引かないようだぞ。もらっておけ」

「はぁー。分かったよ。もらっておく。でも、明日は僕を含めて6人のポーターになるけど、お金は40パーセントね」

「それだと少なくないかな?」

「いいよ。どうせ、もっとたくさん狩るつもりなんでしょ?」

 ジュンは微笑んで頷いた。明日は最低でも4回狩りたいと言う。

 ポルテは4回と聞いて、苦笑した。

「それじゃあ、6人じゃ足りないよ」

「持ち帰れないものは、放棄するからいいよ」

「勿体ないよ……」

 ポーターの性か、できるだけ素材の放棄はしたくない。だが、持ち帰る量には限度がある。

 そこでポルテは頭をフル回転させた。なんとか無駄になる素材を減らすために考え抜いた。


 

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