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019_解体士のポルテ

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 019_解体士のポルテ

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 Eランクダンジョンの入り口前では、ポーターが自分たちを売り込んでいた。

 ポーターにはランクはないが、それなりの格というものがある。駆け出しはEランクダンジョンの前で、冒険者たちから雇われるのを待つことになる。

 ポーターにおいては年功序列が基本でEランクダンジョンの前には、若いポーターが今日の仕事を得ようとして冒険者たちにアピールするのだ。


「主様もポーターを雇うのか?」

「そうですね、ポーターがいると解体もしてくれるみたいだから、雇うのもいいかもしれませんね」

 Eランクダンジョンに数日こもる冒険者が多いため、食料や水を運び込まなければいけないし、長く狩りを続けようと思うと武器や防具の予備や、メンテナンス用の器具も必要になる。

 Eランクダンジョンのポーターの相場は、総額の10パーセントで最低保証が1日銀貨5枚になる。

 ロックゴーレムの魔石が1個で大銅貨9枚なので、高額に思えるかもしれないが、Eランクダンジョンに出てくるビックボアLv12を1体倒すと、魔石と肉と毛皮の換金額は銀貨8枚前後になるからそこまで高いわけではない。


 そんなポーターの中に、小柄な少年の姿があった。茶色の髪から覗く丸い耳が特徴のタヌキの獣人に見える。

 ジュンも小柄だし、冒険者でもポーターでも小柄の少年はそれほど珍しくない。女性だっているのだから、小柄でも戦い方によっては活躍できるのが冒険者なのだ。

 ただ、その少年は他のポーターたちのように積極的に売り込みをすることはなく、建物の影でジッと冒険者たちを見つめていた。


「どうしたのだ、主様」

「いえ、なんでもないです」

 ルルデに声をかけられて少しだけ視線を外して戻したら、その少年がジュンの目の前に立っていた。

「え?」

 先程まで建物の影にいた少年が、目の前にいることにジュンは驚いて声を出した。

 そんなジュンに、少年は屈託のない笑みを浮かべた。


「兄ちゃん、オイラを雇ってよ」

「え、僕?」

「うん。兄ちゃんだよ」

 ポーターにとって冒険者選びは重要だ。冒険者の稼ぎがよければ、ポーターの稼ぎも良くなるからだ。

 たとえば、総額で大銀貨5枚の稼ぎの冒険者パーティーであれば、ポーターの取り分は最低保証の銀貨5枚で終わる。

 しかし、金貨1枚を稼ぐ冒険者パーティーであれば、ポーターの取り分は大銀貨1枚、つまり銀貨10枚になる。

 より多く稼ぐであろう冒険者に自分を売り込むのは、ポーター収入に繋がる大事なことである。


「なんで僕たちなの?」

「だって、兄ちゃん強そうに見えないもん」

「へ?」

 普通は強い冒険者を選ぶのに、強そうに見えないジュンを選ぶことに違和感を感じた。

「へへへ。冒険者ってのは、自分をより強く見せようとするじゃん。でも、兄ちゃんは武器は鉈だし、防具も大したことないよね? 全然強そうじゃないじゃん」

「まあ……そうだね」


 昨夜、ジュンは溜まっていたCHSCで、能力を上げた。


 魔力+60(CHSC200ポイント)

 知力+25(CHSC250ポイント)

 抵抗+25(CHSC250ポイント)

 器用+10(CHSC100ポイント)


 実際にはレベル16でも、ジュンの場合はそのレベルが強さに直結しない。

 今のジュンの知力は105である。魔法使いのジョブで言うと、レベルが25程度の値だ。レベル25でEランクダンジョンに入るのは遅いくらいだ。


「弱そうに見えるのに、なんで僕なの?」

「父ちゃんが言ってたんだけど、本当に強い奴は、その強さを隠すんだって」

「君は僕が強さを隠していると思っているの?」

「うーん、分かんない。でもね、普通はね、そんな貧弱な装備でダンジョンに入らないんだよ。周りの冒険者を見てみなよ、皆しっかりと武器と防具を揃えているよね。つまり、兄ちゃんは武器と防具が要らないくらいに強いと思うんだ」

「なるほど……でも、僕がそういったことをまったく考えない弱い冒険者だったら、どうするの?」

「そうなったら、自分に冒険者を見る目がないと諦めるよ」

 この少年はとても頭が良いのだと、ジュンは感じた。

 それに要領も良さそうだ。何より、嫌味のない人懐っこい笑顔を自然にする。


「分かったよ。君をポーターとして雇うことにするよ」

「やったー!」

「僕はジュン。こちらはルルデさん。君の名前は?」

「ルルデだ」

「オイラはポルテだよ、よろしくね」

 自分が入れそうな大きな背負い袋を弾ませて、喜びを体全体で表すポルテ。


「こんなガキじゃなく、俺を雇えよ。そいつより多く荷物を持ってやるぜ」

 ポルテを押しのけて、クマの獣人がズイッと出てきた。

「何すんだよ!?」

「はんっ。お前のような奴がポーターだって? どれだけ荷物を持てるんだよ、あぁんっ」

 かなり大柄なクマの獣人は、小柄のポルテを鼻で笑った。


「おいらはたくさん持てるぞ!」

「だったら、俺を持ってみろよ。持てるのか、チビ」

 下手すれば自分の3倍はありそうな巨体は、軽く100キロはあるだろう。これほどの巨体のクマ獣人を持ち上げるのは、小柄なポルテには難しいとジュンには思えた。

 しかし、ジュンはこういう人物を仲間にする気はない。ポーターも仲間だと考えているからだ。このような強引なやり方をする人を仲間にする気はない。


「すみませんが、僕はポルテを雇うことにしました。お引き取りください」

「おいおい、こんな奴に魔物の素材を預けたら、盗まれるぞ」

「ポルテがそういったことをしたことがあるのですか?」

「こいつはスラム出身だ。これまでさんざん盗みとかしてきたはずだぜ」

「オイラはそんなことしてないよ!」

「はんっ。犯罪者が犯罪者だって公言するわけないだろ」

 このやり取りを聞いている限り、このクマ獣人の言っていることはただの思い込みであり、なんの根拠もないことだとジュンは判断した。

 ジュンはジョブが文字化けしていたことで、村ではまるで犯罪者のように扱われることがあった。

 そういった嫌な過去を思い起こさせるクマ獣人の言葉は、とても気分の悪いものである。


「あなたの言うことはよく分かりました」

「そうか、俺はデルタって言う。よろしくな!」

 ポルテがポーターになってから、こうやって多くの仕事を横取りされてきた。だから今回もかとポルテの表情が曇っていく。


「いえ、僕はポルテを雇うことにしましたので、デルタさんは他を当たってください」

「こんなチビの犯罪者を雇うと言うのか!?」

「チビは否定しませんが、犯罪者というのは何か証拠があって言っているのですか?」

「うっ……」

「まさか、証拠もなくポルテを犯罪者扱いしているのですか?」

「そ、そんなもんは……」

「他の冒険者を当たってください。デルタさんがたくさんの荷物を運べるなら、引っ張りだこでしょ。こんなところで、ポルテの仕事を取らなくてもいいじゃないですか」

「ちっ、後悔するぞ!」

 デルタは地面に唾を吐き、捨て台詞を残していった。


「ハハハ! 主様は良い奴だな!」

「そんなことないと思いますよ。デルタさんが言っていたことは何の根拠もないことだったから、相手にする必要はないと思っただけです」

「うぅぅ。兄ちゃん、オイラ、嬉しいよ! オイラ、兄ちゃんに一生ついていくよ!」

「いやいや、一生って……大げさだよ」

 ジュンの足にしがみついて喜びの涙を流すポルテ。


「なんだかダンジョンに入る前に疲れちゃったよ」

 やっとのことでポルテを引きはがしたジュン。

「兄ちゃん、オイラがんばるからね」

 人好きする良い笑顔を向けるポルテは、さっきまで泣いてジュンの足にしがみついていたことを忘れているようだ。


「ほら、行くよ~」

「ポルテ、待って」

「なんだい、兄ちゃん」

 ジュンはステータスボードを触り、何かをした。


「え?」

「仲間申請したから、承諾して」

「でも、仲間申請をうけちゃうと、戦ってないオイラにも経験値が入っちゃうよ」

「それでいいんだ。僕は経験値よりもほしいものがあるからね」

「でも……いいの?」

「いいよ。ほら、行くんじゃないの?」

「……分かったよ。ありがとう、兄ちゃん!」

 ステータスボードから仲間申請することで、経験値が仲間にも入る。

 その分、ジュンに入る経験値は少なくなるが、ジュンにとって経験値は少ないほうが逆にいい。

 そのほうが同じ魔物で多くのCHSCを稼ぐことができるのだ。


 対してポルテは荷物持ちだけでは経験値を稼ぐことができない。

 本来はレベルを上げるために、お金を払って冒険者を雇わなければならないのだ。

 ポーターは小金が溜まったらそうやって経験値を稼いでレベルを上げ、能力を上げるのが普通である。

 それなのに、ジュンから思わぬ仲間申請を受けた。ポルテにしてみれば、お金をもらってレベルまで上げられるのだからとても嬉しくてありがたいことである。


「へー、ポルテは解体士なんだ」

 ステータスボードから仲間申請ができ、申請を受ける側は受諾と拒否ができる。仲間になると、お互いのジョブとレベルが見えるようになるのだ。

「うん、そうだよ。だから、解体は任せてね!」

「心強いね」

「兄ちゃんのこのジョブはなんて読むの?

効率厨(アフィセンレーター)って言うんだよ」

「初めて聞くジョブだね」

「まあ、簡単に言うと魔法使いかな。ちょっと違ったことをしているけど、僕の戦い方は魔法使いのそれだから」

「ふーん。そうなんだ。で、そっちのライオンの姉ちゃんも難しいジョブ名だね」

 奴隷の場合、自動的に主人にステータスが見えるようになる。仲間が奴隷を連れていると、その仲間にも奴隷のジョブとレベルが見えるようになるのだ。

「私は黄金戦士(ゴールドソルジャー)だ。それとライオンではなく、獅子(しし)と言え」

「分かったよ、獅子ね。姉ちゃんのジョブも初めて聞くけど、2人は珍しいジョブのコンビなんだね」


 3人のジョブについて確認が終わり、ダンジョンに入る。

 ダンジョンに入る前に、ポルテをポーターとして連れていく登録をしなければならないが、それはすぐに終わった。


 ダンジョンに入ってジュンの戦い方を説明しながら進んでいく。ポルテは珍しい戦い方だと、首を傾げた。

 ルルデもそのことには激しく同意していた。



 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+


 ●ジュン・ステータス

【ジョブ】効率厨(アフィセンレーター)

【レベル】16

【経験値】0/5100

【生命力】70/70

【魔力】215/215

【腕力】24

【体力】33

【知力】105

【抵抗】100

【器用】72

【俊敏】37

【スキル】チェーンスコア

【感覚スキル】聴覚強化Lv2

【補助スキル】時間短縮Lv3

【下級魔法】エアカッター

【中級魔法】トルネド サンダー

【CHSC】677

【身分】冒険者

【賞罰】



 

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[気になる点]  ポルテがポーターになってから、こうやって多くの仕事を横取りされてきた。だから今回もかとポルテの表情が曇っていく。 これは、デルタに横取りされたという事? それとも、他のポーターも含…
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