鉄の槍が貫く空・アルマテリア
【アルマテリア】
――天を突くようなビル群が並ぶ国。アルマテリア。ここの空気は、喘息持ちの母さんには苦しく感じたようで、話しながら舌を出して、父さんがよく吸っていた煙草の銘柄を口にしていた。
どうやら、当時のアルマテリアの空の味は「煙草の味」なのだそうだ。
正式名称は、アルマテリア合衆国。名前の通り、複数の州たちが連邦政府のもとで明確に権限を持ちつつ統合されている連邦共和国だ。ここで言う権限とは、ざっくり言うと法律のこと。これは君たちの方が詳しいかも知れない。
また、就職する際に、宗教上の理由で働けないことがあってはならないとか、人種や生まれた場所で人を差別することはダメだとか、そういった類の団体も存在する。この国は、表向きは複数の種族が仲良く暮らしているが、火種も多い。
なぜなら、世界中から色んな人種が出稼ぎにやってくる。仕事の奪い合いだからだ。不景気になるとよく揉め事が起こる……と、悪口のようになってしまったが、最先端の技術を持っている国家だからか、街並みが面白い。プロジェクションマッピングという最先端技術を用いて、黒い槍のようなビル群等に光でいろんな色や模様を付ける。イルミネーションも圧巻だ。
人工の街。夜のアルマテリアは、立ち込める煙にさえも色がついて、幻想的なのだそう。煙さえも景観の一つにしてしまうのだ。技術というものは素晴らしい。
アニメーションにも優れていて、こどもから大人まで楽しく観られるような内容のものが多くある。世界中の人たちに人気であり、映画館は長蛇の列ができている。労働者の娯楽でもあるのだ。アルマテリアは働く人の国家というイメージがあるが、だからこそ大衆娯楽も流行る。息抜きは必要だからだ。
一番は料理。安くて美味しい物が多い。特に海の幸で有名なパンタレア産の魚介類や海藻類などが多く輸入されている。州によって異なるが、共通して提供されているファストフード店には必ずといっていいほど、イカのフリットがある。それを甘じょっぱ目のケチャップにつけて食べるのだ。少し衣がべちょッとしているが、美味しいらしい。
イカはどの宗派も食べて良いものとされており、商売人にとって、パンタレア産のイカは、安く手に入り、調理もしやすいため、大変重宝がられている。アルマテリアの人々は原産地にこだわる癖があるから、こんな言葉もよく聞く。
「これ、パンタレア産ですか?」
美味しいかとか、何が入っているかとかの前に、原産地を尋ねる者が居たら、アルマテリアの人だと思っていいだろう。母さんも、真似して言ってみたが、撥音が可笑しかったのか、現地の人に笑われてしまったらしい。
そして、これは教訓なのだが、決してアルマテリアの水は飲むなということである。高確率で当たる代物だ。宝くじならどれだけよかったか。母さんもその被害に遭ってしまったらしい。恨めしそうに語っていた。
だけど、良いこともあった。
走るバスの数が多いから、乗り過ごしてもまた次のバスが来る。アルマテリアの人々は一秒一秒を生きているのだと感じたという。電車も隈なくつながっており、乗り心地も良いのだそう。
煙の立ち込める、むせ返るような煙草のような味の空。アルマテリア。一秒単位で働く現地人たち。国境も宗教も超えて、それなりに均衡関係を持って働いている。そんな人たちの娯楽は、今も大事に残っていて欲しい。
――こくりとオニオンスープを飲む。少し冷めてきたようだ。たまねぎの甘さが抜けて、中途半端なしょっぱさが残る。空が明るくなるにつれて、母さんが遠くなるような、そんな気がした。