女神が恋した空・カンポス
【カンポス】
――とにかくいろんな色の天使の彫刻の多い国だった。それらは全てウレラムゥという女神の遣いである。ここでいうところの女神は、唯一神に近い物があった。しかし、決して排他的ではなく、万物を受け入れる許容の深さもあった。
そもそもウレラムゥとは何なのか。それは、この惑星。言ってみれば命そのものだ。だから、あらゆる宗派も人種もその一部として受け入れていたのだろう。
カンポスは、特に踊りの大好きな国だ。市場に出かけても、ダンサーが多い。とても独特で、主に長い首をくねらせてキリンのように踊る。その時の装飾品は天体そのものを表す、藍色。ブレスレットやネックレス、大きなイヤリングに使われている。
民族衣装については、男性の場合、紺の布でできた薄いベールをつけなくてはならない。そして肌を露出することは厳禁なのだ。美男が多い国とされ、ウレラムゥを誘惑する悪い男というイメージになる。女性の場合は、服装は自由だが、髪型はウレラムゥより長くてはいけないというルールがある。髪の毛には魔力があるとされ、それ以上の力を持つものは、魔女とみなされる。
カンポス人はこの点から言って、とても見分けやすい。自国のルールに誰も不満は持っていないし、それが原因でいざこざが起きたという話も聞いたことが無い。
空を見上げれば、必ずといっていいほど吊り上げられた大量の天使たちを拝むことになる。肝心のウレラムゥの彫刻は、大聖堂ズーシーに収められている。その高さ120m。
見に行った母さんが言うには、大聖堂は吹き抜けになっていて、晴れている日にウレラムゥの彫刻を拝みに行くと、オーロラのような緑のベールがかった空が見られるらしい。
「カンポスの空の味は、クリームソーダみたいよ」
よく、そう言っていた。
ただ、ちょっとした不満も口にしていた。それは、街頭でダンスをしていた女性にいきなり、
「払わない人は普通じゃない。みんな払っています」
という言葉をかけられて、現地で10万円分の価値の通貨を渡してしまったことだ。もちろんそんな手に嵌るのは旅行者だけ。「あの時は、いいカモにされた」と笑いながら話していたっけ。なんだかんだで楽しそうだったカンポス。
クリームソーダ味の空。今はどのような色に染まっているのだろう。そして、カンポスにウレラムゥの加護はいきわたっているだろうか。この惑星をつかさどる女神。そして大量の天使たち。賑やかな市場の人々。母さんは、その広く繋がった空から見ていることだろうな。
ここは、カンポスのお祈りの言葉で締めくくろうか。
「ジェルミラール・ジェルミラハレム・イヴァウレラムゥ」
(我らの存在の証明・我らの存在の現身・女神ウレラムゥ)
こくりとオニオンスープを飲む。
流れ星が弧を描きながら一つ落ちた。