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その4:学校の花壇には死体が埋まっている(3/3)

「それで、ここの花壇には誰の死体が埋まっているんですか?」

 りんごちゃんがシャーペンとメモ帳を構えた臨戦態勢に入って、ロリ巨乳な園芸部の部長、()(うら)先輩に詰め寄ります。死体が埋まっている前提です。

「し、死体ぃっ!? そ、その花壇に、し、死体が埋まっているんですかぁ?」

 三浦先輩は目をまん丸くして驚いたかと思うと、目に見えてガタガタ震え始めました。まだ乾ききっていない瞳から涙があふれてきます。

「だって、そうですよね? このアジサイ、真っ赤ですよ。血を吸って育ったからじゃないですか?」

 りんごちゃんが先ほどの元バスタブのプランターをシャーペンで指し示します。それを見て三浦先輩はようやく事態を飲み込めたようです。

「ち、違いますぅ! アジサイは土のペーハーによって色が変わるのですぅ! 酸性なら青色、アルカリ性なら赤色になるんですぅ!」

 手をバタバタさせながら説明する三浦先輩に対し、りんごちゃんは勝ち誇ったようなしたり顔で反論します。

「私は(だま)されないよ。リトマス試験紙は酸性で赤、アルカリ性で青になるでしょ?」

 りんごちゃんはきっと、色が逆、と言いたいのでしょうが、酸性かアルカリ性かで色が変化するという点で認めている以上、もうすでに論理的に負けていると思います。

「う、嘘じゃないですぅ! リトマスゴケは色素がペーハーで変色しますけど、アジサイはアルミニウムの濃度によって色素が変化するのです。土壌のペーハーによってアジサイが吸収できるアルミニウムの量が変化するから、アジサイは土壌のペーハーで色が変わるのです! 血の色が赤いのは鉄分のおかげですから、有機分子の構造で赤い植物の色素は全然関係ないです!」

 三浦先輩が科学的に説明してくれました。すごく化学です。というか、説明している時の三浦先輩は生き生きしています。

 ここまで言われると、さすがのりんごちゃんもぐうの音が出ません。悔しそうに歯噛(はが)みしています。

「じゃあ何かないの!? 七不思議に代わる怖い話とかないの!?」

「そ、そんなこと言われても、え、園芸部には怖い話とかはないですぅ」

 鋭い目つきでにらみつけ、イライラした声でメモ帳をシャーペンでコンコン叩いています。このままでは三浦先輩の死体が花壇に埋められてしまいそうです。

 その時、ふとプランターに視線を移したあたしは背筋が凍るような思いをしました。

 バスタブの縁に泥だらけの手首がだらんと垂れ下がっています。爪が割れて赤黒くなっていて、小指に至ってはドロドロに腐った肉の隙間から白い骨がのぞいています。ボロボロの袖は女学院の制服っぽいですが、学年カラーにはない黒色だったので何年生かは分かりません。

「ちょっ! りんごちゃん、あれっ!」

 肝がつぶされそうな想いになりながらも、あたしはりんごちゃんの腕を引っ張りました。

「何? あずきちゃん、いま大切なとこなんだけど」

 りんごちゃんがキッと視線を突き刺してきます。こっちもなかなか怖いです。

「今、そこの花壇から手首がっ!」

「えっ!」

 「え、ええっ!?」

 りんごちゃんと三浦先輩が同時に花壇に注目します。あたしも再び目線を送りますが、先ほど見えた手首はどこにもなく、ただただ赤いアジサイがきれいに並んでいるだけでした。

「何もないじゃん。あずきちゃん、そういうのやめてよ」

 りんごちゃんが頬を膨らませて()()(くさ)れます。

「おかしいなぁ」

 見間違いだったのでしょうか? 一抹の不安を抱えつつも、プランターをいくら観察しても痕跡(こんせき)すら残っていません。

「ほ、ほらぁ、園芸部には怖い話なんてないんですぅ!」

 三浦先輩が心の底から安堵したようにほっとため息を洩らしました。その表情は、単に死体なんかなくてよかった、という意味合い以上の何かを含んでいるような安堵感があります。

 けれど、りんごちゃんはいけ好かないみたいで、攻勢を強めます。

「そもそも、あなたのその胸の方が怖いんですけど。何食べたらそんなに大きくなるんですか?」

 ビシッとシャーペンで三浦先輩の胸を指し示します。正直、そこはあたしも気になります。

 三浦先輩は再び顔を真っ赤にして両腕で胸を覆います。だから、そのしぐさは逆に胸を強調してしまうのでやめてほしいです。

「し、知らないですぅ! き、気が付いたらすくすく育ってきちゃったんですぅ!」

「どうせ牛乳じゃないの? 毎日牛乳飲んで、毎日牛乳風呂に入ってるんですか?」

「ぎゅ、牛乳ですかぁ? わ、わたし、牛乳飲むとすぐお腹壊しちゃうので、と、豆乳とかアーモンドミルクを飲んでるですぅ」

 りんごちゃんの目が鋭く光りました。特ダネをつかんだ! と言いたげな表情をしてすばやくメモを取ります。

「他には?」

「ほ、他ですかぁ? わ、わたし、お肉とかお魚とか苦手なので、お野菜とかお(いも)とか果物をよく食べますぅ。で、でもそれじゃあタンパク質や脂質が不足しがちになるので、大豆とかナッツを意識的に食べていますぅ」

「なるほど、菜食主義とは意外ね」

 なるほど、あたしも参考になります。菜食主義者がみんな巨乳かどうかは疑問ですが、ビタミンやミネラルだけでなく、栄養価を総合的に評価した食事をしていそうなので説得力があります。

 要するに、バランスが大事ってことです。

「あずきちゃん、聞いた?」

 りんごちゃんがあたしに視線を送ってきました。その意図しているところは通じます。なんてったって、1年D組食べ物3人娘ですから。

「うん、ばっちり」

 あたしはこくりとうなずきました。

「豆乳とアーモンドミルク、買い占めるよ!」

 りんごちゃんの言葉を合図に、あたしとりんごちゃんは購買の食品ブースへ駆け出しました。



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