その4:学校の花壇には死体が埋まっている(2/3)
あたしたちを呼びかける声の持ち主は、青のセーラー服を着た、小学生みたいな女の子でした。こちらに向かって走ってきます。
青色の制服は3年生です。こんな小さい先輩、軍曹以来です。あ、軍曹っていうのはうちの寮の料理当番長なんですけど、この子とは印象が180度違います。その話はまた別の機会にします。
加えて、走ってきたこの子はかなりの巨乳です。よく、女性の大きな胸をスイカやメロンに例えられることがありますが、ああなるほど確かにスイカかメロンが入っていても不思議ではありません。いや、カボチャ? キャベツ? ヤシの実? とにかくそんな感じです。
その胸が大きくて頭の悪そうで小柄な先輩があたしたちの目の前で止まると、ぜえぜえと息を切らせています。
さすがのりんごちゃんも手を止め、振り返りました。
「誰? この体と頭の栄養が全部胸に行っちゃったみたいな子は?」
りんごちゃん、さすがにそれは言葉にしてはいけないフレーズだと思います。あたしも我慢していたのに。
「ひ、ひどいですぅー! わ、わたしはともかく、花壇は勝手にいじっちゃダメですぅー!」
わたしもいじっちゃだめだと思います、先輩。
けれど、この先輩はすっかり涙目になってしまいました。もう愛くるしいを通り越して、いじりたくなるオーラが全開です。
「いま私たちは七不思議の取材中なの。分かったら私たちの邪魔しないでお母さんのところに帰ったら?」
りんごちゃんが険しい顔をして辛辣なことを言います。いつもより強気です。視線が先輩の胸に釘付けなので、理由は察して余りあります。
「そ、そんなぁー! ひどいですぅー!」
対する先輩は、胸を両手で隠しながらボロボロと涙を流しています。けれど胸を隠しきれていません。逆に細い腕の間からこぼれ落ちそうに垣間見える胸がより強調されているように見えてしまいます。
「りんごちゃん、さすがに言いすぎじゃない? 世の中には胸しか取り柄のない女の子だっているし、胸しか誇れるものがなくても先輩だよ? はーいよちよち、大きなおっぱいでちゅねー」
「ふぉ、フォローになってないですぅ!」
あたしは顔を真っ赤にして泣く先輩の頭をついつい撫でてしまいました。本当は胸も触りたいです。だってあれ絶対、スイカかメロンかカボチャかキャベツかヤシの実が入ってますって!
「まあそれもそうね」
ほら、りんごちゃんもうんうんとうなずいて同意してくれました。やっぱり、あの胸にはスイカかメロンか――
「あんまりかわいくて、うらやましい胸をしていたから嫉妬しちゃいました。すいませんでした」
りんごちゃんが先輩に向かって頭を下げます。ああ、そっちか。
「そ、そんなぁ、謝らなくていいんですぅ! わ、わたしがロリ巨乳だなんて一部の男性の性的対象にしかならない体をしているのが悪いんですぅ!」
先輩が涙目であたふたしながら、なぜか謝り返してきました。すごく自尊心と自己肯定感が低いです。
「あ、あの、お2人のお名前とご所属を伺ってもよろしいでしょうか?」
少し落ち着いた先輩が様子をうかがう小動物の様な上目遣いに尋ねてきます。なんだかそのしぐさにキュンキュンします。すごくいじりたいです。
「1年D組、放送委員の佐伯りんごです。いま校内新聞のために七不思議の調査をしています」
「あたしは栗山あずきです。1年D組、美術部で、まあ今はりんごちゃんの付添というか、渋々付き合っている感じです。あの、先輩は?」
「す、すみません! じ、自分が名乗っていないのに、失礼ですよね? も、申し遅れて恐縮ですが、さ、3年A組、園芸部で部長をしています、み、三浦翠です」
しどろもどろに三浦先輩は自己紹介をします。
部長、ということは三浦先輩は相当すごい人ということになります。
普通の高校の部活でも部長といえば、能力的に優れていたり、人望が厚かったりする人がなることが多いと思います。
しかし、こと星愛女学院に至っては、天才的な専門的能力と部長としての権限の執行能力が認められ、生徒会に任命された人しかなれません。副部長がそのまま部長に慣れないことも珍しくないですし、部長不在のため主将やキャプテン、リーダーといった形で代表を立てる部活もありますが、部長とは立場も権限も雲泥の差です。
なので、三浦先輩が見た目的にも言動的にもとても部長の器には見えません。それを言えば、うちの美術部の部長もそんな器には見えません。生徒会はまともに仕事をしているのでしょうか?
ともあれ、園芸部の頂点である三浦先輩と出会えたことは、七不思議の真相を知るチャンスでもあります。
七不思議の噂の審議について、三浦先輩に尋ねることにしました。
軍曹について興味のある人は、
前作『栗山あずきの独り言~うちの女子寮ではコミュ力が試される件~』の
『その4:先輩が料理当番を代わってくれない』をぜひ見てください!