その4:学校の花壇には死体が埋まっている(1/3)
さすがに動くネタが終わってよかったです。学校の花壇が勝手に動く、とか言い出したらどうしようかと思いましたよ、本当に。
まあ今さら学校の花壇が動いたところで驚きも怖さもありませんけどね。
だいたい死体が埋まっているという話はうちの寮でもう充分です。
すっかり寝不足になってしまったあたしは1か月ぶりぐらいに午前中の授業で爆睡してしまいました。
1時間目の数学の授業が始まったと思ったらすぐに眠り込んでしまい、授業の終わりを告げるチャイムが鳴って目を覚まし、授業丸まる寝ちゃったなと思っていたら放課後でした。1時間目の始まりのチャイムで眠りに落ち、復活したのが6時間目の終わりのチャイムとか、あたしの昼休み返せ! と腹が減るどころか腹が立ったものです。
しばらく寮では安眠できそうもないので、こういう日々が続かないとも限りません。非常に困ります。
「あずきちゃん、爆睡だったね。何かあったの?」
にやにやした笑みを浮かべたりんごちゃんがあたしの元にやってきました。
「まあね。りんごちゃんもご機嫌みたいじゃん。どうしたの?」
あくびをかみ殺して尋ねると、りんごちゃんは目を輝かせて言いました。
「あのね、次の七不思議なんだけどね、知ってる? 部室棟の前にある花壇には死体が埋まってるらしいの!」
冒頭にも言いましたけど、もう一度言わせてください。
死体が埋まっているという話はうちの寮でもう充分です。
「死体って、誰の?」
あきれた顔を向けますが、りんごちゃんは全く気にしません。
「もちろん、園芸部の人のよ! それに、その花壇にはその園芸部員の子の幽霊が出るらしいのよね!」
どうして死体が埋まっているという話を、目をらんらんとさせて話せるのでしょうか? 今のりんごちゃんは分かりません。1年D組食べ物3人娘とはいえ、分かり合えない部分もあるのです。
「それで?」
「もちろん、今から取材よ! あずきちゃんも来てよね!」
はつらつとしているりんごちゃんを見て、何となくそう来るんじゃないかな、と予想していました。
「いやでもほら、あたし部活あるし」
「大丈夫! 部室棟の前なんだから部室に向かうついででいいよね?」
いや、美術部の活動は特別教室の集まる実習棟にある美術室で行われるので、あたしには何のメリットもありません。委員会に属するりんごちゃんは部活動はすべて部室棟で行われると勘違いしているのでしょう。
そんな反論をする暇もなく、りんごちゃんに腕をつかまれて引きずられるようにして部室棟の前の花壇まで連れてこさせられました。
部室棟の花壇といってもそれなりに数があります。プランターサイズのものからちょっとした大広間ぐらいの広さの畑まで様々です。田舎の私学にはだだっ広いという言葉が似合うほど敷地の広さがあるのです。
りんごちゃんが連れてきた花壇は部室棟の入り口横にある畳1枚くらいの大きさのバスタブみたいなプランターでした。っていうか、これバスタブです。古くなったバスタブを再利用しています。言うならば、バスタプランターです。
そのバスタプランターには少しくすんだ、それでもきれいな赤色のアジサイが植えられていました。
「たぶんここね。この花壇に死体が埋まっているのね!」
「いや、死体を埋めるにはちょっと小さくないかな?」
「あずきちゃん、アジサイは普通青いのに、どうしてこのアジサイは赤いと思う?」
りんごちゃんがあたしの質問の答えにならない問いかけをしてきます。
まあ、言われてみるとアジサイは普通青とか紫とかそういう色をしている気がします。
「そういう品種じゃないの?」
「違うよあずきちゃん、このアジサイはね、死体の血を吸って育ったから赤いのよ!」
りんごちゃんが息を荒くして力説します。何というか、安直でありがちな思想です。
「桜の木の下には死体が埋まっているって言うでしょ? あれと一緒よ! だから桜もピンク色をしてるの!」
もう論理の順番がおかしいです。要するにりんごちゃんは赤とかピンクの花の色は人間の血で色づいていると言いたいのでしょう。それが本当なら世界中の赤い花の下の地面には死体が埋まっていることになってしまいます。
「りんごちゃん、だいぶ無理がないかな?」
「いいから、掘り起こすよ! ビッグニュースを!」
このままだと、放送委員の1年生が部室棟の花壇を掘り返したというビッグニュースが発掘されそうです。
あたふたしながら止めるあたしをよそに、りんごちゃんは花壇を掘り始めました。一応、アジサイのないところを選んでいる当たり、ひとかけらの優しさを感じます。ひとかけらですけど。
「わっ、わぁーっ! なにしてるんですかぁーっ!? やめてくださぁーい!」
突然、あたしたちの後ろから頭の悪そうな甲高い声が聞こえてきました。失礼を重々承知ですけど、すごく頭の悪そうな声です。
あたしとりんごちゃんは思わず振り返りました。