その7:七不思議の7つの話をすべて知った生徒は、7日後に死ぬ(3/3)
「――って言われたんですよ! ひどくないですか?」
「確かに、それはひどいね。2人とも、大変でしたね」
怒り心頭に発したあたしと意気消沈したりんごちゃんが時計塔を出たところで、園芸部員の3年生、滝川先輩とばったり出くわし、あたしが放送委員長に対する不平不満をぶちまけたら、ちょうど園芸部員でお茶会をするところだったということで、あたしとりんごちゃんも飛び入り参加させてもらうことになりました。生徒会にシュプレヒコールを上げたい気分の今のあたしには、ティーパーティーなんてぴったりです。
園芸部員ご自慢の西洋庭園に案内され、アウトドア用のテーブルと椅子のあるところにきました。滝川先輩に促されて腰かけます。
近くには1メートルくらいの高さの、赤紫色の花をつけた木がありました。りんごちゃんと「この木の下に死体が埋まってたりね」なんて軽口を叩いていると、滝川先輩が花を摘んで軽くすすぎ、ポットに入れ始めたので、りんごちゃんと一緒に苦笑いを浮かべました。
「あ、あれ? あ、あなたたちは、その、な、七不思議の取材の時の――」
三浦先輩と他の園芸部員数名もやってきました。三浦先輩があたしたちをおびえた様子で見つめていましたが、滝川先輩が事情を説明すると納得してくれました。
滝川先輩がカセットコンロで煮沸したお湯をポットに入れ、全員のティーカップに注いで回ります。花の色とは違う空色のハーブティーが注がれました。
「うわぁ! すごくきれいですね!」
「今日はウスベニアオイのハーブティー、いわゆるマロウブルーです」
感動して黄色い声を上げるあたしとりんごちゃんに、滝川先輩が解説してくれました。園芸部員のお茶会は、ハーブを鑑賞しながらそのハーブティーを楽しむのが慣例らしいです。
りんごちゃんは器用にも、右手でメモを取りながら、左手でスマホを操作して写真を撮ったりしています。記者魂は死んでないみたいでほっとしました。
「さ、佐伯さんと、く、栗山さん、でしたよね? そ、その、マロウブルーは、おふたりにぴったりなハーブティーだと思いますぅ」
「そうなんですか?」
あたしとりんごちゃんは同時に口を付けます。――あれ? なんか、薄いです。香りは豊かなんですけど、口に広がるのは芳醇な香りばかりで、まるで白湯を飲んでるように味が薄い気がしてなりません。こんなもんなんでしょうか?
ふと隣を見ると、こちらを向いたりんごちゃんもそんな表情をしていて、2人とも笑ってしまいました。やっぱり1年D組食べ物3人娘はそのあたりの感覚も似通っているのです。
「た、滝川さん、レモンは?」
「もちろん、準備していますよ」
ああ、なるほど。レモンで味をつけるんですね。りんごちゃんがペンを走らせているメモ帳をのぞき込んでみると「ウスベニアオイ、マロウブルー、空色、レモンで味付け」と書いています。あたしと共通認識です。
「よーく見ててね」
滝川先輩があたしのティーカップにレモン汁を2、3滴落としました。言われた通りあたしとりんごちゃんが見つめていると、レモンを滴下した端から薄いピンクに変わっていきました。
「えっ、マジっ!? めっちゃすごいんだけど!
「すごいです! 三浦先輩、これも酸性かアルカリ性かで色が変わるんですか?」
「え、えっと、そうです。アントシアニン系の色素はアルカリ性では青色ですけど、レモンのクエン酸で酸性になると赤色になるんです。リトマスゴケの主成分とは異なりますけど、色の変化は似ています。他にも、ムラサキキャベツとかもアントシアニン系色素で有名です。赤くした後でも、にがりや重曹などを加えてアルカリ性にすると元の色に戻ります」
三浦先輩はやっぱりすごく化学です。その胸も、絶対化学の力で大きくしているに違いありません。それも、シリコーンとか安直な化学ではなく、もっと根源的に化学です。
滝川先輩がみんなのマロウブルーをピンク色に染めていきます。他の園芸部員も黄色い声で喜んでいます。りんごちゃんのカップにレモン汁を滴下する時には、りんごちゃんはスマホで動画を撮っていました。
その後は普通のお茶会でした。みんな言いたいことがたくさんあるみたいで、時に楽しそうに、時に激しい感情をさらけ出して、いろんな話を二転三転させます。
あたしとりんごちゃんが、先ほどの放送委員長のグチを並べても、三浦先輩は嫌な顔一つせず、両手で持ったティーカップで口を隠し、上目遣いでこくこくとうなずきながら漏らさず聞いてくれました。すごくかわいいしぐさです。愛でたくなります。
「わ、わたしも、ゴシップ誌は、問題あると思います。じ、実は、わたしも、17回ほど特集組まれてしまいました。さ、3年になってからはまだ一度もないですけど」
「えっ!? 『ゴシップ星愛』って月刊誌ですよ!? 2年で17回って、4分の3近く三浦さんの特集じゃないですか!?」
りんごちゃんがかなりびっくりしています。っていうか、放送委員はどんだけ三浦先輩のこと好きなんですか。
「そういえば部長、自分のゴシップの特集すべてスクラップして、秘密のノートにまとめていましたよね?」
「た、滝川さん! な、なんで知ってるんですかぁ!?」
「だってたまに嬉しそうに読み返しているじゃないですか」
「わ、わーっ! だ、黙っててくださいですぅー!」
ポット片手に微笑みながら語る滝川先輩に対し、三浦先輩は顔を真っ赤にしてあたふたしています。薄々気づいていましたが、やっぱり三浦先輩はあたしたちとちょっと違った感性を持つアレな人でした。きっと放送委員もそれを知ってて特集を組んでいたんでしょう。
りんごちゃんが必った笑顔を浮かべています。その気持ち、すごく分かります。
「そ、それで、ビーガンの記事を書くことになったので、また三浦さんにお話を伺ってもいいですか?」
「も、もちろんです! あ、あの、差し出がましい提案で恐縮なんですけど、ど、同好会設立を呼びかけたらいかがでしょうか?」
「同好会、ですか?」
星愛女学院で同好会と言えば、委員会や部活の垣根を越えてテーマに合わせた集まりのことです。例えば、写真同好会が最も有名で、写真を撮る技術は今や一部活にとどまらずあらゆる分野で役に立つので、よく集まって技術交流しています。原則、兼部の禁止されている女学院の抜け道みたいなシステムです。
「いいですね! あたし、ビーガン同好会やってみたいです! ねえ、やろうよ、りんごちゃん!」
「えっ!? でもさ、私ってそういうキャラじゃないじゃん?」
「いやいや、何を今さら。あたしも手伝うからさ、一緒にやろうよ!」
あたしの食いつきっぷりに、りんごちゃんはやや怖気づいていますが、まんざらでもないといった顔をしています。
「わ、わたしもできるだけお手伝いしたいと思いますぅ」
三浦先輩が両手でカップを持ったまま、上目遣いでりんごちゃんを観ました。
「あずきちゃんと三浦さんが手伝ってくれるなら、やってみようかな? 委員長をぎゃふんと言わせたいしね」
「今時ぎゃふんって。りんごちゃん、言葉のセンスが古いよ!」
「えー、そうかな? 逆に新しいんじゃない?」
あたしとりんごちゃんは声をあげて笑いあいました。
嫌なことはもう忘れてしまって、今はもう少しだけ午後のティータイムを楽しもうと思います。
りんごちゃんが書いた特集記事のおかげでうちの高校にビーガンブームが到来し、ビーガン同好会が結成されるのは、もう少し先の話です。
これが、あたしが体験したうちの高校の七不思議の話です。
まあ、学校の七不思議って実際のところ、そんなに怖くないですよね。単なるうわさだったり、審議が確かめられなかったり、そんなことも多いですし。
えっ? 結局、1年D組食べ物3人娘って誰かって?
あたしこと、栗山あずきでしょ?
それに、友達の佐伯りんごちゃん。
あとは、えっと……あと1人いたような気がするんですけど、まあ、そんな話はどうだっていいじゃないですか。
今回はこのあたりでおしまいにしたいと思います。
最後まで聞いてくれて、ありがとうございました。
最後まであたしの話を聞いてくれてありがとうございます!
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