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その7:七不思議の7つの話をすべて知った生徒は、7日後に死ぬ(1/3)

 ってあれ? もうおしまいですか?

 七不思議と言ったら、夜中に使われていない教室に幽霊が集まって授業をするとか、夜の誰もいない体育館でボールをつく音や掛け声が聞こえるとか、夜中に異世界に行けたり段数が13段になったりする階段とか、4時44分に見ると自分の死に顔が見えたり異世界に連れていかれる鏡とか、泳いでいると誰もいないのに足を引っ張られるプールとか、夜中に誰もいないのに校内放送が始まる放送室とか、トイレの花子さんとか、もっと定番なものがあるはずです。

 それに比べたら、うちの女子高の七不思議はインパクトがいまいちです。

 だいたい、七不思議の7つ目が七不思議の7つの話をすべて知った生徒は、七日後に死ぬとか、怪談自体は6つしかないのですから、7つ知りようがありません。自己()(じゅん)です。

 放課後の教室でりんごちゃんに七不思議をまとめた新聞記事の原稿を見せてもらった時、そういう(むね)のツッコミをオブラートに包んで伝えました。

「あずきちゃんは細かいね。七不思議なんてそんなもんでしょ?」

 なんだか七不思議に失礼な言い方です。その割には取材中、ものすごくビビっていた時が多かった気がします。

 そもそも、動くピアノの話がガールズバンドで活躍している女性のインタビューになってますし、園芸部の花壇には死体が埋まっているどころか園芸部の部長の胸には豆乳が詰まっているという見出しでビーガン食特集になってるし、サーバー室と時計塔で働く委員会ってもうこれただの活動報告です。

「それでね、あずきちゃんにお願いがあるんだけど、いいでしょ?」

 りんごちゃんが顔の前で両手を合わせて頼んできます。

「いや、内容が分からないと何とも――」

「豆乳おごるから!」

「もちろん! あたしたち、友達じゃん!」

 1年D組食べ物3人娘はいつだって固い絆で結ばれています。困っている時は互いに支え合う、美しい友情でつながっているのです。

「今日ね、委員長に原稿見てもらうの。でもさ、うちの委員長、ちょっとアレだからね、あずきちゃんに一緒に来てほしいの」

 なんだかりんごちゃんの言葉には嫌な予感があります。だってうちの高校の図書委員長がアレで、保健委員長がアレなんですよ? 放送委員長がアレじゃないわけないじゃないですか。

 別に委員長に限らず、部長の中にもアレな人が多いような気もします。もちろん、うちの部長もアレですし、園芸部部長の()(うら)先輩もアレといえばアレな気もしますし、料理部部長の軍曹がアレなのはうちの寮での出来事が物語っています。

 もしかしたら、組織のトップというものはアレな人が多いのかもしれません。

 それを考えると、次期トップと(もく)されるうちの美術部の副部長である梶原(かじはら)先輩や、うちの寮長で風紀委員の副委員長でもある(たか)()(はら)先輩もアレになってしまうのでしょうか? まあ、若干アレの片鱗(へんりん)が見え隠れしている気もしますけど。

「ほら、あずきちゃんってアレ耐性高いでしょ?」

 なんだか不名誉な認識をされている気がします。それに、図書委員長がアレを退治する現場に立ち会う体験を立て続けにしたばかりなのですから、あんまりアレアレ言わないでほしいです。

「いやいや、いい意味で、だって! はちみつローストカシューナッツもおごるから付き合ってよ!」

 あたしが苦い顔をすると、りんごちゃんはあわてて()(つくろ)います。ビーガンを(よそお)っていますけど、はちみつはNGです。にわかはこれだから困ります。まあ、ビギナーということで勘弁してあげましょう。

 りんごちゃんに誘われるまま購買に寄って豆乳とカシューナッツを手に入れ、その足で放送委員の本部がある時計塔に来ました。

 こうやって時計塔の目の前に来ると、その大きさと荘厳さが身に沁みて伝わってきます。なるほど、魔物が棲んでいると噂されても無理もありません。

 ドキドキしながら時計塔の中のエレベーターに乗り、放送委員の本部に着きます。ワンフロア丸まる本部らしく、いろんな学年の放送委員があわただしく行き来しています。

 りんごちゃんに先導されながら廊下を歩き、大きな両開きの扉の前まで来ました。すごく立派です。お偉いさんです。

 りんごちゃんがノックしました。しかし、中から応答がありません。見た目の雰囲気から放送委員長の部屋であるのは間違いなさそうですけど、何度ノックしても反応がありません。

「りんごちゃん、ちゃんとアポ取ったの?」

「そんなダジャレ言わなくても、ちゃんと取ってるよ」

 ダジャレ? ああ、りんごとapple(アポゥ)ですか。全然意識していませんでした。りんごちゃん、おもしろくないです。

「あれ~、あたしに用? ()(えき)ちゃんと、そっちは見ない顔だね~」

 あたしたちが扉の前でぐずぐずしていると、耳に嫌な感じを残すようなねっとりとした声がかかりました。

 声の持ち主に目を向けると、ひょろりと背が高く、アッシュグレーのロングヘアーの女性が歩いてくるところでした。あの髪の結い方は確かフィッシュボーンとかいって、三つ編みよりセットがめんどくさい髪型です。

 黄色い制服にパープルのスカーフ、間違いなく放送委員長です。

 だいたい、名字にちゃん付けする人って()(さん)(くさ)いです。あたしの中ではすでにアレ認定です。

「あ、委員長、今日は校内新聞の原稿を直接ご指導していただけるという話で――」

「あ~、はいはい、いいよ~、入んな」

 緊張しているりんごちゃんの声とは対照的に、緊張感のない放送委員長の言葉が(さえぎ)ります。ああ、あたし、この声聞いているとイライラしてきます。

 放送委員長が大きな扉を開け、部屋の中に入ります。

「あ~ちょっと、君」

 あたしたちが続いて入ろうとした時、放送委員長が首だけで振り向いてあたしを見つめて言い放ちました。

「さすがにね~、外部の人は困るな~。帰ってくれる?」

 正論ですけど、なんか気に障る言い方です。どうしてこう、人を不快にさせる能力に長けているんでしょうか?

 むすっとした顔で抵抗の意を表していると、りんごちゃんが助け舟を出してくれました。

「今回、取材協力してくれた栗山(くりやま)あずきさんです。彼女も関係者なので、一緒にいても構いませんよね?」

「関係者? ふ~ん、君があの栗山ちゃん、ねぇ~」

 放送委員長がにやっと口の端を吊り上げます。あたしを見つめる目が、人を値踏みするような、心の奥を見透かそうとするような、闇色の瞳をしています。

「いいよ~、今だけ許可したげる」

 にっと一瞬歯を見せて笑うと、興味をなくしたように前に向き直りました。やっぱり、何か腹立ちます。

 あたしは不服な思いを顔に出しながらも、放送委員長とりんごちゃんに続いて部屋の中に入りました。



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