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その5:図書室には秘密の地下室がある(2/3)

 図書室の蔵書整理の手伝いに行くメンバーを美術部のみんなでじゃんけんして決めました。

 最初、あたしともう1人の1年生、沙梨衣(さりい)ちゃんが選ばれましたが、上級生がいないと問題だとか、ごたごたの蚊帳(かや)の外にいた沙梨衣ちゃんが行くのはとんだとばっちりだとか、あたしがじゃんけん弱すぎるとかで、結局秋月(あきづき)先輩とあたしが行くことになりました。

 なんだがっかり、という感情を全身で表現してしまったあたしを見ても、秋月先輩はあっけらかんと笑い飛ばしてくれました。先輩のこういうユニバースのように器の広いところは好きですし、尊敬します。まあさすがに鈴木と呼ばれるのは嫌みたいですけど。もはや別人ですしね。

 そして、秋月先輩といえども美術室を出るときはきちんと緑のセーラー服を着て、むやみに脱ぎだしたりしないので、隣を歩いていても恥ずかしくはありません。

「そういえば先輩、先輩は学校の七不思議とか何か知ってますか?」

 図書室に向かう道中、あたしは秋月先輩に尋ねました。りんごちゃんに情報収集してね、と念押しされたのもありますけど、ここまで来たらあたしも興味が沸いてきたという理由もあります。

「七不思議ねー、保健室の人体模型が動くとか?」

「有名なんですね、それ」

「まあ定番だしねー。他に何かあったっけか?」

 秋月先輩が斜め上を見上げて想像を巡らせています。あたしはそんな先輩の顔を見つめていました。先輩のはらはらとほどけやすいセミロングはきっとポニーテールが似合うんだろうな、といつも思います。ただ、先輩が髪を縛っているところは見たことがありません。

「そういえば、図書室にも何かあったなー。秘密の地下室があって、そこから異世界に行けるとか、モンスターのような獰猛(どうもう)なうめき声が聞こえるとか」

「図書室の本棚の裏には隠し部屋があるとか、普通の人には見えない魔術所があるとかも割とよく聞く話ですよね」

「うんうん、そういった(たぐい)だったかな?」

 そこまでくると怖い話というよりは、陰謀論に近い噂です。

 ただ、せっかく図書室に行くので、仕事がてらに少し調べようと思います。

 そんなやり取りを先輩としているうちに、図書室に到着しました。

「うぃーっす! 蔵書整理手伝いに来ました」

 秋月先輩が図書室に入るや否や、いつも部活に来た時と同じテンションで声を掛けました。

 しんと静まり返った図書室に先輩の声が響き渡ります。すごく恥ずかしいです。

 貸出カウンターにいる3年生の先輩に睨まれてしまいました。

「先輩、図書室なんですから静かにしてください」

「おお、そうか。悪い悪い。こういうの苦手なんだよなー」

 あたしが声を抑えて注意しても、秋月先輩の声音は全く変わりません。お約束すぎて困ります。

 どうしたものかと思案を巡らせていると、(かし)の木の杖が突かれる個気味いい音が聞こえました。

「諸君は美術部の者か。早速で助かる」

 セーラー服の(えり)を立てたさっきの図書委員長です。もともと声が小さいのに、図書室バイアスがかかってかなり聞き取りづらいです。もしかして、セーラー服の立てた襟はやっぱり集音能力を向上させるためでしょうか?

「えっ? 何て? あずきちゃん、聞き取れた?」

「先輩がうるさいので静かにしてほしいと言っています」

 ここぞとばかりに図書委員長の()を借ります。いや、違うんです。きっと図書委員長もそう言いたかったと思います。部室ですっぽんぽんになるような人には何言っても変わらないんだろうという図書委員長の諦め感情に助け舟を出しただけです。

「あはは、すいません」

 秋月先輩はようやく声のトーンを落として話しました。けれど、普通の人の話し声くらいは音量があります。努力は認めますが、もう少し頑張ってほしいです。

「美術関係の書物はこっちだ」

 そう言って、図書委員長は杖を突いて歩き始めます。その音も結構響きますけど、いいんでしょうか?

「えっ? あずきちゃん、図書委員長は何て?」

「先輩の声の大きさにあきれていました。さ、行きましょう」

 参ったなー、とつぶやいて先輩は頭をかいています。そうです、そういう声でしゃべってほしいです。

 そして、あたしが先輩をリードするふりをして図書委員長についていきます。これで万事解決です。

 天井までびっしり本が詰まった幅のある本棚の迷路をすり抜け、とある一画にたどり着くと、図書院長は足を止めました。

「このあたりの書物が諸君らの持ち場だ」

「えっ? あずきちゃん、図書委員長は何て?」

「このあたりの本があたしたちの仕事だそうです」

 そうはいっても、かなりの量があります。本棚3つ分、下手したら1000冊ぐらいありそうです。見ただけで気が遠くなりそうです。

「うわー、すごい量だな。しかもおもしろそうなほんばっかりだ!」

 先輩のテンションが上がっています。声量が図書室に入ってきたときと同じに戻ってしまいました。

 しかもこれは確実に、部屋の掃除を始めたのはいいものの、開始3分で懐かしい漫画を見つけてしまい、一気読みしているうちに1日が終わってしまう現象が起こるフラグが立っています。絶対今日1日では終わりません。

「それでは、よろしく頼む」

 図書委員長は全く変わらぬ様子で一言残すと、杖を突きつつ去ってしまいました。

「えっ? あずきちゃん、図書委員長は何て?」

 相変わらず聞き取れない先輩が本を片手にあたしに尋ねてきます。っていうか、もう読み始めています。聞き取れないではなく、聞いていないです。

「1年生には別の仕事があるって。あたし、行ってきますね」

 七不思議の情報を集めたいあたしは、適当に抜け出す口実を作って、先輩から離れました。我ながら悪女です。

 けれど、図書室の秘密の地下室を図書委員に見つからないように探索するのは至難の(わざ)です。とりあえず、それらしい情報がないかこっそり集めることにします。

 手始めに、図書委員長の後を追うことにしました。やっぱり図書室に一番詳しい図書委員長に聞くのが手っ取り早いでしょう。

 しかし、思ったよりチャンスが早く来ました。受付にいた3年生の図書委員が足早に近づいたかと思うと、図書委員長に耳打ちしました。

「地下のサーバー室の件、お手数おかけしますが、よろしくお願いいたします」

「うむ」

 図書委員がこくりとうなずきあました。

 なんてことないです。女学院で管理しているクラウドのサーバーが図書室の地下で管理されているということだけでした。おそらく、うめき声というのも空調かなんかの駆動音だと思います。

 答えは出ても、自分の目で確かめたい。そんな思いは1年D組食べ物3人娘の中では共通見解でしょう。好奇心が騒ぎ始めます。

 図書委員長はゆっくりとした足取りで、カウンターの奥にある図書委員向けのスペースに入っていきました。

 これは困りました。受付にいる図書委員の目を盗んでカウンターの奥の扉に入るのは一筋縄ではいきません。何か策を練らないといけません。

「あの、すみません」

 あたしは受け付けの図書委員の先輩に話しかけました。

「はい、何でしょうか?」

「あの窓の外にUFOが!」

 あたしは適当に後ろの窓を指差します。

「本当ですかっ!? 至急確認します!」

 受付の図書委員の先輩は、ささやき声でもかなり驚いた様子を見せ、急いでカウンターから出てあたしが指差した窓の方へ向かいます。

 こんな古典的手法を使うあたしもあたしですけど、引っかかる先輩も先輩です。

 あたしはこの(すき)をついて、カウンターの奥の扉へ入ります。



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