救出のはなし
天井の破片だった。
ルイスがピクリと眉を上げる。
続いて破片のように軽いものではなく、重い音が床に響いた。
破片に交じり、大きな音を立てて現れたのは落ちるように降りてきたロイと、それを追って転がるように降りてきた大男だった。
ロイは大男から逃げるように跳び、床やベンチに体を打ち付けながら大男から距離を取った。
よろよろとした足取りからは足が痛いというより、顔を殴られて視界が良くないのと、頭を殴られてバランスが取れないことからくるようだった。
それでも懸命に大男から離れようと足をもたつかせる。
その途中で、思いがけない人物に気が付いたロイは、切れて痛む唇を無理やり動かして声を出した。
「る、ルイスさん……?」
「あいつはどこだ」
「い、イルゼさんを、お願いします……」
イルゼが付けた赤い絵の具以上に真っ赤な顔になっているロイは苦しそうに息をした。
既に意識は朦朧としているようだった。
ロイは、すぐ傍にあったベンチに手をかけ、体を支えようとする。
しかし血で滑ったのか思ったより腕に力が入らなかったのか、支え損なってカクンと床に倒れこんだ。
意識が飛びそうだったのか口が動かないのか、それ以上何も言わないロイはそのまま崩れ落ちた。
崩れたロイを雑に引き上げ、その腫れた顔をと頭からの流血を確認したルイスは、「致命傷じゃない。お前は後回しだ」と言いながら、ポイとロイを脇に放り出した。
イルゼがロイの服に付けた血は、返り血だと思ったのかそれともロイが吐いた血だと思ったのか、特に気にしていないようだ。
大男は、ボロボロになって倒れこんだロイの姿を半笑いで見つめていた。
弱弱しく怯えながら逃げる獲物を悪戯に追い詰めて楽しむ、嫌な目つきだった。
ルイスは、そんな大男とロイの間に入るようにすっと立ち上がった。
星のある日の夜のような深い藍色の瞳と、黄土色にゆがめられた目が正面から対峙する。
大男はニヤニヤ笑いを再開し、ポキポキと指を鳴らしながらユラユラとルイスに近づいてきた。
「よォよォ、イカした面の優男だねェ。
……兄ちゃんもここに来た嬢ちゃん探してるのかァ?でもなァ、兄ちゃんは振られちまったから、尻尾巻いてさっさと逃げてクソして寝て忘れちまった方がいいぜェ。嬢ちゃんはお前みたいな優男じゃなくて、俺みたいな強え奴の方がいいんだって……」
ガギャァァァン!
と。もの凄い音がした。
最後まで言う事さえさせてもらえなかった大男の頭がルイスによって殴り飛ばされ、その巨体が教会の朽ちたベンチにぶつかって、それをひしゃげさせた音だった。
大男は呻くことさえ許されず、辛うじて胸を上下させながらのびていた。
容赦のない、一瞬の出来事だった。
大男とルイスを取り囲んでいた男たちがひぃっと息をのんだ。
目が半分も開いてないロイも何が起こったか分かったらしく、思わず息をするのを忘れているようだった。
「それだけでいいなら、こんなに苦労はしてないんだよ」
誰も動けずシンとした教会で一人、吐き捨てるように呟いたルイスが、教会内のある一点を見つめてハッと動きを止めた。
最前列のベンチの陰に、ミルクティー色の髪の束を見つけたのだ。




