第3話 才能の差
それから五年後……
「行け! ライトニングセイバー!」
一振りした剣は、全ての煙を浄化して、世界は綺麗な空気といなくなった人々を取り戻した。
「シスター!」
「シュレ、よくやったわね! アルナと結婚していいわよ」
「シュレ、お前は我が軍の誇りだ! アルナと結婚していいぞ」
「お前はなんか……すごい! アルナと結婚していいよ」
「うーんと……結婚して……いいよ?」
「結婚! 結婚! 結婚!」
「僕シュレはアルナと結婚しまーーす!」
ゴーンと鐘の音が響き、漆黒のスーツと純白のドレスを着た二人が出てきた。小鳥さんやくまさん、かめさんも自分達を祝福している。ありがとう皆、ありがとうこの世の全て。僕達は煙を浄化し、今結ばれます。
「はっはっは! 我を胴上げするのじゃー!」
その時、ゆっくりと震えながら体が宙に浮いていった。しかしおかしい。何百人もの人間が持ち上げているのに、体は殆ど持ち上がっていない。
気が付くと、目線の先には苦しそうな顔をしたアルナがいた。歯を食いしばって力を入れている様だ。
「うわっ、アルナ!?」
あまりの事態に何が何だか分からなかったが、体が宙に浮いている事から自分を持ち上げているのだろうと分かった。
「ごめんシュレ君…… 胴上げ、出来ないよ……」
涙目で訴えかけるアルナを見ながら、シュレの結婚ハッピーライフは崩れ去り、アルナの手によって現実に引き戻された。まさか、結婚するときの寝言を聞かれていたのかと心配になったが、どうやら胴上げの台詞だけのようでひと安心だ。
「アルナ! 夢! 夢だったから下ろしていいよ!」
やっとのことでベッドに下ろされたが、まだ手のひらの温かさが腰と背中に残っている。
「そ、それでここは?」
「やっと気が付いたか」
ドアがガラッと開き二十代のおじさんが入ってきた。またもやアルナとの熱々空間は崩れ去った。
「お前あの煙消してずっと寝てたんだぞ」
そうか。目の前にあった煙が自分の手によって消された所までは覚えているが。
「お前、俺達の班、『黒闇の白き一閃班』に入れ!」
いきなりの中二発言に二人とも開いた口が塞がらなかった。
「何だ? 長いか? 心配するな! そんなときのために省略がある。『中二病班』だ! 違う班の奴が付けてくれたんだ。かっこいいだろ?」
いまだ開いた口が塞がらない。騙されている男をいたたまれなく思う。
「な、何で中二病……?」
「何だ、知らないのか。教えてやるよ。『中二病』の歴史は深いんだ。昔伝説の勇者が居てな、そいつが最初の煙を浄化させたんだよ。そいつは中学二年生位だったから、中二になぜか病を付けて中二病だ。」
すみません、それ騙されてますとは言い出せず、二人は空気を呼んで黙っておくことにした。
「まあ明日迎えに来るから休んでろよ。そう言えばお嬢ちゃん、アジルの野郎が呼んでたぞ、じゃあな」
そう言い残すと、またスタスタと出ていった。またアルナとの熱々空間に戻ったが、話していた内容も忘れ、部屋は静寂に包まれた。
「あ、アルナも入らない? その……中二病班に……」
「私も入りたいんだけど、反煙値が高いからって国王側近の班に入らされることになったから……」
アルナが羨ましいと思った。アルナのことは好きだが、何で彼女だけ恵まれているのだろうか。あの時、船が沈没したとき助けなかったら、手を離していたら等と考えそうになったが、同時に生きていて良かったという気持ちが混ざり、少々複雑だ。
「じゃ、じゃあアジルさんに呼ばれてるから…… 安静にしてね」
少し口角を上げ、作り笑いをして見送った。心の中はもやもやしたままだ。
「そ、それからあの時助けてくれたのシュレ君でしょ? あの、ありがとう!」
満面の笑みでそう言ってくれた彼女には、作り笑いで返す訳にはいかなかった。絶対に追い付いてやる。そして、もう一度助けてあの笑顔を見るんだ。シュレは拳を握り締め、気合いを入れ直した。
(そして出来れば結婚も…… うひっ)
「おいなに笑ってんだ気持ち悪い。さっさと寝ろ」
本当にいいタイミングで邪魔をする人だ。今度は何なんだ。
「ほっといて下さーい! で、何ですか?」
泣きそうな声を出して精一杯の嫌そうな素振りを見せたが、やっぱり気持ちは伝わらなかった。
「そうだ忘れてた。俺の名前はブラックファイアードラゴン、ドラゴン先輩と呼んでくれ。」
そう言うと、また風のように部屋から出ていった。本当にかわいそうな位痛い人だ。アドバイスをくれた人もなかなか悪だ。
兎に角早く休むため、ベッドに潜り込んで耳を塞いだ。そのままシュレは眠りに落ちていった。
次の日、誰かの大きな叫び声で目が覚めてしまった。
「こらー! あんたまたイタズラしたわね! 今日という今日は更正させてやるわ!」
乱暴にドアが開き、小さいなにかが飛び込んで来た。何が起きたのか分からず、我に返ったときには視界には何もなかった。どうやらベッドの下に誰かいるようだ。下を覗こうとすると、
「あんた、この部屋に誰か来た?」
少し年上のお姉さんが息を荒くして入ってきた。すぐに察知した。ここは空気を読むべきだと。
「いや、誰も来なかった……です……」
「そう? 嘘ついてたらただじゃおかないからね。」
冷たい声でそう言われ、思わず本当のことを言いそうになった。ドアがしまり足音が遠のいてやがて聞こえなくなると、ベッドの下から何かをぶつけたような音が聞こえ、ベッドが微かに揺れた。その後小さな男の子が顔を覗かせて、
「お前空気呼んだなー。偉いぞ! あめちゃんやるよ!」
そう言って渡されたのは、丸い飴玉ではなく棒つきの方だ。
「あ、ありがとう……」
「俺はパン。さっきはちょっとやり過ぎたな。」
俺はパンと言い出した時は頭大丈夫かと思ったが、透き通る様なその目を見ると、どうやら本当らしかった。話を聞くと、さっきのお姉さんの料理中のフライパンの中に飴を入れたらしい。
「それは謝らないと。僕は怒られたくないから隣の部屋に隠れてたことにしてよ!」
「う、うん、ちょっと待って……」
「待たない。僕まで怒られちゃたまったもんじゃないよ。それにさっきの女の人、怖そうな顔だったじゃん。頭の先から足先まで、恐怖の権化みたいな物だったなぁ。」
何か様子が変だ。パンの顔は怯えているし、後ろから物凄い殺気がした。こうなると予想されることは一つしかなかった。
「ね……ねえもしかして、後ろにこわーい人がいる?」
パンがこくこくと頭を動かしたときにはもう遅かった。二人は正座させられ、二時間ぶっ通しで怒られる羽目となった。
二時間後ーーーーーーーーーーーーーーー
「「ごめんなさいもうしません。顔はこわくないです。これからは優しい優しい巨乳美女と呼びます。」」
「よろしい。」