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操血の煙  作者: めんめんま
第一章 奪還
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第2話 諦めたらそこで

 「なら、俺達と一緒に来い」


 兵士は言った。煙を浄化するために必要なことを教えてやると。取り敢えず二人は、兵士たちと一緒に船に乗った。それから一つの部屋へと案内された。部屋は整理されていて、たくさんの本があった。その中から一冊の本を取り出しながら


 「俺はアジル=シェイマー。人は皆俺をアジくんと呼ぶ。」

 「そう呼ぶのは俺だけだけどねー」


 近くのもう一人の兵士が突っ込むと、アジルはばつが悪そうに頭を掻いて続けた。


 「こ、これから煙について説明する。心して聞くように」

 「アジくん、何で頭がグシャグシャ何ですか?」


 もう馴れ馴れしくアジくんと呼ぶアルナをシュレは凄いと思ったが、どうやらアジルは質問の内容に気になったらしく、


 「これは天パだ! バリバリの天然だ! お前らはストレートで良いよな! 天パは不便だぞ! 何かぐちゃぐちゃだし!」


 「僕ストレート」

 「俺ストレート」

 「私ストレート」


 アジルは発狂した。船全体が大きく揺れる程発狂した。


 「まずは煙の種類からだ。これはまだ殆ど解明されていない。分かっているのは二種類だけだ。『腐敗の煙』と『窒息の煙』だ。」


 そう言いながら、本を開いてあるページの一部分を指で指した。そこには、さっきの風景と同じような写真があり、シュレは怯えたような表情を見せた。どうやらこれは、レビオンが煙に襲われたときの町の景色のようだ。


 「それで、煙を消すために必要な物は何だと思う? ……人間の血だ。 人間の血には、『反煙(はんえん)』と言うものがはいっている。反煙値が多いほど煙を浄化しやすくなる。」


 話している内に、さっきまで船が通っていた海を越えて、レビオンまでやって来た。しかし、ここからシュレが現実に打ちのめされていくということは誰にも分からなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「とりあえずお前は駄目ね」


 その一言にシュレは絶望し、泣きわめくほどの悲しみを味わった。シスター達を見つけるために軍隊に入ろうとしたのに、まさか血液検査で、反煙値がほとんど検出されず追放だなんて。


 そればかりでは済まず、アルナは反煙値が60パーセントを越えているとかなんとかで、逸材だと騒がれていた。アジル達も苦笑いで、すぐそこの宿屋に泊まってて良い等と言っている。


 (折角……力になれると思ったのに……)


 はぁ。溜め息をつき、自分に呆れていると、その横から一段と大きな溜め息が聞こえた。


 「何で俺がガキの御守りしなくちゃならないんだよ…… めんどくせぇなぁ」


 自分より少し年上で背が高い一人の男が何かを言いながら怒っているようだ。こちらに気付いたようで、ムスッとした顔でこちらに近付いてくる。シュレは怯み、後ろへ後退りした。


 「お前、反煙がないのか? なら帰れ。ここは反煙が無ければ何もできない世界だ。」


 そんなことを言われ悔しくなったのかシュレは歯ぎしりをした。そして彼の胸ぐらをつかみ叫んだ。


 「反煙が無いなら煙を消せないのか! 反煙が無いなら誰も見つけられないのか! 反煙がそんなに偉いのか!」


 「俺は反煙が無ければ何も出来ないとは言った。だが勘違いするな。ここは鏤塵吹影ろうじんすいえいの世界じゃない!」

 「え……?」

 

 男は着いてこいと言う風に顎を上げ、先程追い出された軍の基地の中へと入って姿を消した。

 

 「早くついてこい!」


 闇の中から罵声が飛んでき、体を震わせながらもシュレは中へと着いていった。


 十五分ほど歩き、やっと歩みを止めたかと思いきや右に九十度回転した。その目線の先には新しい建物があった。研究所のようで、今まで見てきた基地の設備とは見違えるほど綺麗な物だった。窓ガラスや壁には傷一つなく、なんの建物なのかシュレは不安になった。


 中に入ると、部屋は二つに区切られ、一方は研究所のような専門的な機械が置いてあり、もう一方は何もない空間だった。


 「ここは実際に窒息の煙と戦うことが出来る『特殊対煙訓練施設(とくしゅたいけむりくんれんしせつ)』、通称訓練室だ。これをやる。煙を全て浄化し、生還しろ。」


 そういって木の棒を渡された。少し赤黒く染まり、三十センチ程の長さの棒だ。


 「それは血だ。血が塗り込んである。それで煙を切れ。出来れば合格だ。出来なければ『死』が待っている。やらなくても俺は止めない。ここで訓練するやつは殆どいないからな。危険すぎる。」


 そう言いながら椅子に座り、グルグル回り始めた。回転音が心臓の鼓動と重なりあう。恐怖に怯えた顔をしながらシュレは決断を迫られた。


 (煙を全て浄化すると決めたんだ…… 怖がるのはやめだ)


 「もちろん……やるよ」


 男は驚いた顔をし、目を見開いてシュレを見つめた。実際やらせるつもりはなかった。流石に子供にはきつすぎる。覚悟を確かめようとしただけだ。しかしシュレはどんどんと部屋の中へ入っていった。


 「お、おい待て! 合格だ! 兵団に入っていいぞ! 出てこい!」


 しかし壁の向こうは防音の効果で声が届かなかった。シュレはボタンを押し、煙を出し始めた。


 (くそっ! 遅かったか。緊急停止だ!)


 しかし無駄だった。排出された煙は浄化しないと消えない。煙は三つの塊にになって残った。シュレの顔に向かって猛スピードで飛んでくる。


 「ぐ、ぐわーーっ!」


 煙は木の棒に当たったが、反煙値が低く殆ど消えない。顔面に衝突し、シュレを窒息の地獄へと引きずり込んだ。もがきながら苦しそうに這いずり回る。


 「誰だオートロック何て付けたの! 開かねえじゃねえか!」


 シュレを助け出そうとドアを叩きまくるがびくともしない。シュレは三つの煙に襲われ、死の淵まで来ていた。何を考えたのか、シュレは自分の顔面に向けて木の棒を振り上げ叩き込んだ。強烈な痛みが広がるが、何とか窒息から逃れた。


 「そこか! 覚悟しろ!」


 顔から離れた煙に強烈な一撃を打ち込んだ。煙は先程とは打って変わって勢いよく消滅した。


 「えええええええー! なぜだーーー!」


 男が驚くのも無理はない。二、三と打ち込んだ打撃さえ一瞬にして煙を浄化させた。


 「はぁ……はぁ……」


 オートロックは解除され、男は勢いよく中へと入り、シュレを抱き抱えた。


 「お前大丈夫か!」


 気絶した彼を抱き抱えた男は心配した顔をしたが、やがて悪戯に笑った。鼻血にまみれた顔を見ながら

 

 「こいつは……反煙がねえってのに……」


 これが初めてシュレが自分の力を出した時のことだった。


 

 


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