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第六章

前の続きです。

どうぞ~

買い出しを終えて、寮に戻る。

共有スペースに行くと、赤池がイスに座って、雑誌を読んでいた。

そして、俺に気づく。

「おかえり~」

「だだいま。悪いな、ちょっと買い出し頼まれちゃって…」

「いいわよ。連絡くれたし…それより、さっそくだけど━━」

そう言い赤池が、話を切り出そうとした時ポケットで俺の携帯が震えた。

携帯を見ると、蘭子先輩からの着信だった。

「悪い赤池、蘭子先輩からだ。ちょっと出る」

そう言って、電話に出る。

「もしもし」

「あっ!新米くん?」

「はい。俺ですけど…」

「急で悪いんだけど、新米くんて、料理作れない?」

「いや…まぁ作れますけど…まだ掛かりそうなんですか?」

「そうなの!あの糞教頭がうるさくって」

すると、電話の奥で、教頭であろう男の、「聞こえてますよ~」と言う声が入る。

教頭って副島教頭か…眼鏡で、少し痩せこけた体型のいかにも堅物そうと言う感じの人…蘭子先輩とは、合わないと言われれば納得できる。

「わかりましたけど、俺皆が何食べられないとか、知らないですよ」

「大丈夫だよ。買い出しさせた物の中には、そう言うのは無いから、新米くんの作りたいもの作って~」

「はぁ…わかりました」

「よろしくね~」

そう言って、蘭子先輩は、電話を切る。

会話を終えると、電話の内容が気になっていた赤池が話しかけてくる。

「何だって?」

「まだ何か掛かりそうだから、ご飯作ってくれだって」

「へぇ~近衛って、料理出来るんだ?」

「ごくごく普通の料理がほとんどだけどな…それで、話だけど━━」

そう今度は俺から、あの話を切り出そうとすると、

「ただいま~」

玄関から里美先輩の声が聞こえてくる。

流石に里美先輩のいる前で、話をする訳には行かない。

「その話は、後でにしましょう」

赤池もそう思ったらしく言ってくる。

「ああ。そうだな」

俺もそれに同意して、料理を始めることにした。


2

夜、ご飯と入浴を済ませてから、俺の部屋で話をすることになった。

「どうぞ」

「おっ…お邪魔します。なんか…物が色々あるけど、随分整った部屋ね。なんか…羨ましい」

赤池は、部屋を一通り見渡してそう言った。

「赤池の部屋は汚いのか?」

「ちっ…違うわよ!確かにこの部屋より綺麗かって聞かれたらそうじゃ無いけど…とりあえず人が座れる位には綺麗よ」

「いや、人が座れる座れないで、話してる時点でちょっとやばくないか?」

すると、赤池は、少し顔を赤くする。

「う…うるさい!細かいこと気にしてるとモテないわよ!!」

「何言ってる。細かいことに気を配れるやつがモテるんだよ」

「よく言うわよ!今まで、誰とも付き合った事の無い童貞の癖に!」

「ど…っ」

「フフ。どうやら本当に童貞みたいね」

しまった。普通にしとけば良かったものを…

「くっ…赤池だって、美人な容姿しておいて、本当は経験無かったりしてな!」

すると、赤池の顔がさっきよりも赤くなる。

「ばっ…あんた何言ってるの!」

「は?も…もしかして、本当に経験無いのか?」

「バカ!そう言うことじゃないし!あ~もういい!」

何故か怒り口調にそう言うと、赤池は、俺のベッドに腰かける。

俺は、机のイスに腰かけ、赤池を向く。

「それで、何を聞きたいんだ?」

「全部よ。近衛と青ちゃんの関係、何故青子は、芸能の道を諦めたのか、そこら辺を全て」

俺は、順を追って説明する。

「まず、俺と青子の関係は体育の時も言ったが、幼馴染だ。小中高と一緒のな」

「そう。そこは、改めて確認したかっただけ。それで、聞きたいのはここから、何で、青ちゃんは、芸能の道を諦めたの?」

赤池は、食い入るように聞いてくる。

「その前に、赤池は、青子と同じ養成スクールに通ってたそうだな。」

「そうよ。てか、何で知ってるの?」

「昼休み、青子に聞いたんだよ」

「へぇ~青子と話したんだ」

「ああ。それで、俺が聞きたいのはここからだ、赤池はあのスクールが潰れた事について、どう聞いてる」

諦める事になったのとは別の事だが、青子の事を話すならば、あの話は欠かせない。

赤池も通っていたスクールだしな。

すると、赤池は、思い出すように手を顎にやる。

「確か、経営不振とかじゃ無かったっけ、人が集まら無かったとかそんな感じの。あの時はビックリしたよ、急に明日からスクールは運営しないってなっちゃって…それで、青ちゃんにも会えなくなっちゃたし」

やはり、間違った認識をしている。

まぁ…事実を知らない人には、そう言うことになってるって聞いたから驚きはしないが…

俺は、真実を伝えるため、説明することにする。

「その話、本当は違うんだ」

そう言うと、赤池は意味わからないと言う感じに首を捻る。

「えっどう言うこと?それが、理由じゃないの?」

俺は、首を横に振る。

「違う。そして、潰れる事になったのには、青子も関わっている」

そう言うと赤池は、さっきよりも訳のわからないと言った様子になる。

「いや、ちょっと意味わかんないんだけど…ちゃんと説明して!」

俺は息吐いてから、全てを話す。

「スクールが潰れる事になる数日前、青子は、迎えの遅い母親を待っている間、一人で演劇の練習をしていたそうだ。そして、事件はその時に起きた。青子が一人なのを良いことに、当時のアサガオスマイルスクール代表の中村公二が、練習と称して、青子の体を触って性的暴行を加えようとしたんだ」

「なっ!」

赤池に、動揺が走る。

動揺するのは、わかっていたため、俺は気にせず先に進める。

「青子は、すぐ異変に気づいて逃げようとしたけど、中村が、扉の前に立って逃げられなかったから、最後の手段として、大声を出した。そして、駆け付けたスクールのスタッフによって、事件が発覚した」

「そんなことが…あったの」

「ああ…そして、この事を知った青子の母親は、その日のうちに警察にこの事を言いに行こうとした。だが、結局行くことは無かった」

「どうして?」

「代表の中村公二。その父親は、そこそこ名の売れた大企業の社長だったんだ。そして、その男から話し合いで解決したいと連絡があったそうだ。それで後日、示談が行われた。そこで、相手側は示談金に破格の1000万を提示し、さらに、スクールの運営今後一切止めるからこのことを公にしないでくれと言ってきたんだ。青子の家族も流石にここまでされれば、何も言えず、それを受け入れた。そしてスクールは、経営不振と言うことで、無くなったんだ」

俺は、話終えるとため息ついた。

赤池の方は、さっきから動揺しっぱなしで、黙ったまま。

とりあえず、一旦話を切って赤池が落ち着くまで待とう。

俺は、共有スペースにある冷蔵庫から冷やしてある水を取りに行く。

戻ってくると、さっきまで動揺していた赤池は、顎に手をやり、頭の中を整理していた。

「ちょっとは落ち着いたか?はいこれ」

「ありがと…うん。信じられないけど、信じるしかないね。急にスクールが運営しなくなったのも、今考えれば不自然だったし」

赤池は、水を受けとると、それを自分の額に当てて、冷やし始める。

俺は、イスに座り水を一口飲む。

赤池も額を冷やしたあとで、水を一口飲む。

「それで、スクールが潰れたあと、青ちゃんはどうなったの?」

「青子は、そのあと、どこの養成所にも入らなかったよ」

「なんで?もしかして、その一件で、どこの養成所にも入りたくなくなっちゃったとか?」

俺は、首を横に振る。

「違う。むしろ青子は、あの事件から立ち直って、また、違う養成所に入って頑張りたいと言っていた」

「じゃあ、どうして?」

「あいつの家族がそうさせなかったんだ」

「家族?」

「そう。あいつの家庭は三世代家族で、その家族全員が世間で言う安定の職業についている。父親は、警察官。母親は、県庁で働く公務員で、その兄弟も会計士や税理士をしている。さらに、母方の祖父母は両方が銀行員で、父方の祖父母は祖父が、消防士で、祖母は、裁判所秘書官をしてた。だからもともと、芸術とか芸能とかそういう安定した保証のないものが好きじゃなかったんだよ。スクールに入れたのは、勉強を好きじゃなかった青子に勉強させるための手段としてらしい」

「うぁ~。それはまた…」

赤池は、同情めいた顔をする。

「青子は、当然家族に反抗した。青子の母親も最初こそ一緒に言ってくれたらしい。だけど、祖父母達がそれを許さなかった。そして、次第に母親も言ってくれなくなり、青子も反抗することをやめてしまった」

「これが、青子が芸能の道を諦めた理由だ」

話が終ると赤池は、俯きがちになり、少し悲しそうな顔をする。

無理もない。一緒のスクールに通ってた友達が、暴行を受けそうになったうえに、家族の反対と言う不本意な形で、芸能人になる道を諦めなければいけなくなったんだから。

「何で、近衛は、そこまで青ちゃんのこと知ってるの?」

「青子とは、家が近くて、昔はよく遊んでたんだ。それで、家族の反対に我慢できなくなった青子が、全てを俺に話したんだ」

赤池は、理解したように頷く。

「それで…そのあとは、どうなったの?」

「そこから、青子は、勉強するようになったよ。試験では、小中と文句なしの学年トップ。高校入試の時もあくまで自己採点だけど、500点満点中490点だったらしい」

「じゃあ…青ちゃんは、本当に諦めちゃったんだ…」

「違う」

俺は即座に否定する。

「でも、勉強するようになったって言うことは、もう諦めて、家族の人の言うことを聞くようになったってことじゃないの?」

「俺も、今日までずっとそう思ってたから、過去をほじくり返すような真似はしたくなかった。

だけど、違ったんだ。青子はまだ、芸能人になりたいって思いが少なからずあると言っていた」

俺のその言葉で、赤池の目に再び少しの光が灯る。

「ほ…ホントに!」

赤池は、そう言って立ち上がり、俺に顔を近づけてくる。

それに俺は、少し圧倒される。

「あ…ああ。昼休み、青子に聞いた。そしたら、まだやりたいって気持ちはあるって。だけど、家族の事があるから、どうしようもないって言ってた」

だが、赤池の目から光は消えない。

「家族の事は、どうでもいいの。大事なのは、青ちゃんがどう思っているかでしょ?」

「それはそうだけど、実際問題、家族の事をどうにか出来ないとどうにもならんだろ?」

「そこはほら、私たちで、青ちゃんを説得するんだよ!」

いきなり何言ってんだこいつ

「近衛も青ちゃんが大事って思うなら、協力しなさい」

やってしまった…

俺は、面倒になること言ってしまったと、今更ながらに後悔した。



どうも虹太です。

いかがだったでしょうか~

感想よろしくです。

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