第二章
前の続きです。
どうぞ~
寮につくと
先に帰っていた、蘭子先輩が料理を作っていた
蘭子先輩は性格はああだが、料理の腕は確かだ
蘭子先輩が俺に気づき近づいてくる。
「おう。新米くんおっかえりーご飯にする?お風呂にする?」
「あんたは新妻ですか。それに今は昼ですから」
「昼だろうが夜だろうが関係ないよー。ああそれともーわ・た・し?」
そう言って、俺をおちょくってくる。
またこの人は…
男をなめやがって、ここらで、反撃してやる。
俺は、意を決して反撃に転じる。
「先輩でお願いします」
そう言って、ブレザーを脱ぎ、ワイシャツのボタンをあける。
ノリとは言え男の俺ががこんなことをすれば蘭子先輩と言えど怯むはずだ。
しかし、
「おおーついに君も分かってくれたかー先輩として嬉しい限りだ。じゃあ今から二人でここに行こう」
全く怯むことなく携帯を操作し始め、画面を見せてくる。
なんで怯まないんだ。人間じゃないからか?やっぱり新種の生物なのか?
予想外の返答に戸惑いながら俺はスマホを見る
そこに映っていたのは、
男の尻を鞭で叩く女とそれを喜ぶ男だった。
「君が目覚めてくれてホントに嬉しいよー」
「俺はこんな歪んだものに目覚めた覚えはねぇー」
「だってー私を選ぶならーこれくらいのことは日常的に行えないと耐えらんないよ」
「あんたは一体どんな性癖してるんですか。てかこんな場所が実際にあるのかよ!」
俺は思わず、頭を抱えてしまう。
勝てない
とんでもない生物だとは分かってはいたが、ここまでとは、反撃するなどと思った自分が恥ずかしい。
「なんだかいい臭いがするなー」
里美先輩が共有スペースに姿を見せる。
「ねぇ秀聞いてよー
新米君がご飯やお風呂よりも私を選んでくれたんだよー」
蘭子先輩は嬉しそうに里美先輩に近付いて行く
俺は誤解を解くべく声を上げる
「違うんですよ里美先輩これはその…ノリに乗っかったて言うだけのことで…」
「あれは嘘だったって言うの?ひどいよ」
「なんで他の女に浮気されたやつみたいなこといってんですか。とにかく違うんです。」
「嘘だったとは言わせないぞー」
そう言って、スマホを操作し始める蘭子先輩
今度はなんだ?
里美先輩はそれが気になりスマホの画面を覗く。
そして蘭子先輩は何やら動画を流し始め、俺に見せてくる。
『昼だろうが夜だろうが関係ないよー
ああそれともーわ・た・し』
『先輩でお願いします』
そこには、先程のやり取りが映されており
ワイシャツのボタンを取る俺の姿がバッチリ映っていた。
俺はその瞬間発狂した。
「あーーーーーーーなぜ、なぜこれが!」
「フゥアハハハハハハ
わたしは料理をするときあそこにカメラを設置して料理風景を動画に収めているのさー」
蘭子先輩が指差した先には全体が映るように絶妙な角度でカメラが設置されていた。
「その場のノリで更なる弱みを握られることになったなー新米くんよ」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ」
これをなにも知らない人が見れば間違いなくキモいと思われる。
くそくそくそ。また、失態を…
「先輩でお願いします。先輩でお願いします」
蘭子先輩は、面白がって、追い討ちをかけるようにリピートし始める。
「やめろーリピートするなー」
そして、そんな哀れな俺をを見た里美先輩は一言
「ドンマイ」
と言葉を残して、部屋の方へ行ってしまった。
昼食を終え蘭子先輩と里美先輩は用事があると言うことなので、出掛けていった。
有名人は色々と忙しいらしい。
そう言う俺もある意味有名人なのだが…
俺はというと甲斐谷先生に「手伝ってほしい事があるから動きやすい服を持って学校に来い」と電話で言われてしまったため、再び制服を着て学校に向かうことになってしまった。
本当は断ろうとしたのだが、従わないと晩飯抜きだと言うなんとも汚い事を言われ従うしかなかった。
あれでも教師だと言うのだからタチが悪い。
「昼寝したかったな~」
ため息を吐きぼやきながら職員室前に行くと既に先生は待っていた。
何やら動き易そうなジャージ姿をしている。
「おう。すまないな、ちょっと人手がほしかったんだが、みんな先生たちは忙しくてな仕方なく君を頼らせてもらった。」
「俺で大丈夫ですか?こう見えても力仕事に自信はありません」
「大丈夫だ。君はどっからどう見てもその手の仕事には向いていないから」
「ひどいですね。そこはそんなことないよって言ってくださいよ」
「フッ 教師は生徒にありのままを伝えることが大事だからね」
そう言って腕を組み体を反らす
「あっ、だからあのとき自分が三十路だってことを━━がはぁ」
全て言い終える前に俺の腹にブローが入る
「何か言ったかなん~」
そしてそれ以上言うなと威圧的な笑顔を向けてくる
これどう見ても体罰じゃないの?違うの?
「何でもない…です」
俺がそう言うと甲斐谷先生は少し距離を取り身なりを整える
「ところで、動きやすい服は持って来てないようだが…」
「大丈夫です。制服の下に来てるので」
「そうか…ならついてこい」
そう言って甲斐谷先生は俺の前を歩いていく。
俺も先生のあとを追い歩く。
先生の後ろを付いていくと立ち入りが少なそうな特別棟に移る。
そして、廊下の一番奥まで行き扉をあける。
「ここだ」
そう言われ、部屋に入るとそこは、普通の教室と大差ない広さで物が散乱した教室が広がっていた。見たところ椅子や机なんかが多いようだが所々に楽譜や壊れた楽器なんかかがあり奥にはピアノらしき物体が置かれている。そして少しカビ臭い。
「君にはこの教室の片付けを私として欲しい。今からなら物の片付けくらいは出来るだろう」
「はぁ…この教室って何に使うんですか?」
「芸術科の練習部屋だよ。今まではの作業棟って所を使って、個人の練習部屋を確保してきたんだが、どうも最近は人が多くてな、だから少しでも場所を増やすためにここの掃除を命じられたわけだよ。」
なるほどと俺が納得していると先生は小さく息を吐く
「まぁ…この特別棟で使えるのはここだけだがね」
「それって、あんまり意味なくないですか?」
「仕方ない他の教室はここ以上にものが多い。それにかなり埃もあるからな、片付けるのに相当時間がかかってしまうんだよ。」
そして、さらに続ける。
「大丈夫だ。ここの他にも視聴覚棟なんかに空き部屋はつくってある。ここはまぁ…ついでみたいなもんさ」
ということは、この教室はこの棟で唯一使える場所ということか…
広さもあまりないし、なんというか俺にはしっくりくる部屋だ。
俺は名案を思いつき甲斐谷先生に提案をする。
「なら先生この教室を掃除する代わりに俺がここの部屋を練習に使ってもいいですか?」
先生は、えっという感じでこちらを向く
「良いのか?君の評価ならもっといい部屋を使うこともできるが?」
「いいんです。昔から広かったり、整ったとこにあまり縁がなかったんで、こう言う方が落ち着くんです。それにあんまり広いと他の生徒と共同で使うことになるので…」
俺にとっては、部屋の広さや質よりも人数が多いか少ないかの方が重要だ。
先生は僅かな長考のあと
「そうだな~わかった。ならこの教室を掃除する代わりに今日からここが君の練習場所だ」
そう言い喜んで承諾してくれた。
「ほんとうは場所についてはリストにして全員に配布したうえで選んで貰うんだが、そのリストは私が作っている。だからこの場所はリストから外しておこう」
「先生、中々悪い人ですね」
「これは取引のようなものだよ。君が手伝ってくれない方がめんどくさい」
「俺、そんな嫌な生徒に見えますか」
「嫌ではないが、手の掛かるやつだとは思っているよ」
それは、嫌と言っているようなものではないのか?
「けど」と先生は続ける
「君の音楽は気に入っている」
と少し微笑んででそんな事を言ってきた。
突然言われたため、少しドキっとしてしまう。
え~い惑わされるな俺!
こいつは、とんでもない奴と言うことを忘れちゃいかん!
しかし、先生なら俺の事を知ってるとは思うが、気に入って貰える所などあっただろうか?
そんな事を考えていると
「始めるかー」
先生は意気込んで、予め掃除のために用意してあったマスクと手袋を着けて、掃除に取りかかった。
俺も一旦考えるのをやめ、制服を脱いでジャージ姿になる。
そして、先生と同様にマスクと手袋をつける。
めんどくさいが、まぁ…やるか
2
掃除開始から一時間半がたった所で休憩に入った。
俺たちは飲み物買いに行き
特別棟の2階にある少し広めのベランダで休憩を取ることにした。
ベランダに出ると透き通った風が心地よく俺の体にあたる。
「ここ風がよく通って気持ちいいですね」
「そうだろう私もたまにこうして涼みにくる」
俺は窓に背中を預け風を受ける。
先生はベランダの手摺に両腕を乗せ片手に缶コーヒーを持って風に当たっている。
その姿に何だか少し大人っぽさを感じた。
そんな先生に俺はさっきの事を聞いてみる
「さっき俺の音楽を気に入っているって言ったの…あれはどういうことですか?」
「う~ん一言ではどうも言うのは難しいな」
「じゃあ」と俺は別の質問をぶつけてみる。
「桐生はどうですか?」
これは単純に音楽をやっていたであろう先生に聞いてみたかった質問だ
「彼はそうだな…天才と言うよりかは天然て感じだろう論理的な物はほぼゼロ。全て感覚でピアノを引いている感じだ。実際入試の成績もピアノ以外はそれほどは良くなかった」
「え!そうなんですか」
驚いた。俺のなかでの彼はもっと幅広い音楽の技術や知識があると思っていた。
「じゃあ入試の評価は、どうだったんですか?」
「Aだよ。評価には能力だけでじゃなく実績も含まれるからな、彼の場合はそれが大きかったのだよ」
なるほど…それなら納得はいく。
「ピアノ以外は、それほどでもないなんて…ちょっと驚きです」
俺は、桐生が完璧な音楽家でなかったことに、嬉しさと完璧であって欲しかったという悲しさが同時に浮かぶ。
「だが、それでもピアノと言う分野に関してだけは、無類の才能を発揮する。たまにいるタイプだな」
他のことがからっきしでも、ある特定のことに関しては、別格。
そういう人間がたまにいることは俺も少しは分かる。
ただ桐生がそれ当てはまるなんて…
「君には、桐生がそういうタイプだとは分からなかったのか」
「はい…正直コンクールで彼に勝つことだけに必死でしたから、彼がどんな人物なのかについては見ていませんでした」
「なるほどな。まぁ…無理もないあれほどのヤツが中学になっていきなり現れたんだ焦りもする」
甲斐谷先生はそう言ってコーヒーを一口飲むそして今度は背中を手摺に預け俺の方を向く
俺はこの話になるといつも居心地の悪さを感じたがこの場所のおかげだろうかそれとも先生のおかげだろうか不思議とそれは感じない。
「くだらないとは思わないんですか?」
そう問うと先生は、くだらないとは?と逆に問いかけてくる
「いや…何て言うか…先生はあまりそういう競うことに執着しないような感じがしたので…」
そう言うと先生はフッと笑う。
「何を言ってるんだ君は。確かに今の私にはそういった競争心はあまりないが、競い合うことはけしてくだらないことだとは思ってないよ」
「それはなんでですか?」
「競い合うことは、それだけお互いを高め合えること。つまりは成長出来るってことだ。それがどんなものであれ勝ちたいと思える存在はいつだってその人を高みに押し上げてくれる。だから私は、競い合うことがくだらないとは思わないよ」
先生はそう言うとコーヒーを一口飲み息をついた。そして、話を続ける。
「それにな、これは大人の目線で言うが、真剣勝負が味わえるのは若いうちがほとんどだ。普通に就職すればそう言うのはほぼない。だから今この瞬間を大事にした方がいい」
大人になったからわかることか…なんだか勉強になるな。
「何だか少し説教臭いですね。」
俺がそう言うと
先生はまたフッと笑う。
「そうだな。悪い許せ」
先生は俺に笑顔を向けてそう答えた。
そして
「さてー続きやるかー」
と大きく背伸びをする。
そして、俺の横を通りベランダをあとにする。
俺もそれに続きベランダをあとにする。
最初の質問にはまだちゃんとした答えは聞けていないが先生の勉強になる言葉を聞けたのでよしとしよう。
普段はああだが、案外ちゃんとした教師なのかもしれない
俺はそんな事を考えながら先生のあとを追った
どうも~虹太です。
第二章どうだったでしょうか~
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