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ショコラとシルバ

 翌日、家を出てジンのラボに向かっていると、途中にあるジンの家の近くでジンのおばさまに出会った。


 ジンのおばさまのショコラさんは、役所に勤めるお役人さんでバリバリのキャリアウーマンである。長身で造作の整ったとても綺麗な人で、ジンの性格と顔立ちはおばさま譲りだと思っている。


「あ、おばさま。こんにちは」


「サクラさん、お久しぶりです」


 あまり表情が変わらないところも、ジンに似ているのだが、無表情ながら、今日のおばさまはどこかウキウキしている。


「あの、おばさまどうかしたんですか? なんだか嬉しそう……」


 おばさまが切れ長の黒い目で、意外そうにわたしを見た。


「わかります?」


「はい。ジンが嬉しいときと同じ目です」


「そうですか……なるほど」


 何故か、おばさまがわたしの頭をよしよしと撫でる。……何となく厳しい先生に褒められたようで悪くないんだけど、うれしいような恥ずかしいような複雑な気分。


「ジンが成人したでしょう? 兼ねてからの計画を実行しようかと思いまして」


「……あの、それは、もしかして」


「離婚です。実は私たちは政略結婚みたいなものでして、子どもが成人したら離婚してもいいという約束を果たしてもらおうと思っています」


「待って! おばさま、早まらないで!!」


 わたしは真っ青になって引き止めたがおばさまの勢いは止まらず、家の玄関をすぱーん!と開けると、たのもう! とそこらの男より男らしく家のなかに入って行く。


「シルバさん、今日こそこの離婚届けにサインを…………ちっ、出かけてるみたいですね……」


「よ、よかった」


 シルバおじさまは不在らしく、おばさまは舌打ちをしながら、家を出てきた。離婚届を丁寧に折ってしまっている。


 わたしには詳しいことはわからないのだが、ショコラおばさまとシルバおじさまは昔から寄れば触ればの険悪な仲らしいのだが、友人であるわたしの両親によれば、あれがあのふたりの愛し方なのよらしい。大人ってわかんねーなのである。


「ところで、サクラさんはどちらへ?」


「あ、わたしはジンのラボに行くところです」


「でしたら、私もご一緒していいですか?」


「はい、もちろんです」


 ということで、ショコラおばさまとジンのラボへ向かう。行きすがら色々とお話をした。


「サクラさんは、ジンのラボへ何しに?」


「ええと、おばさまもご存知かもしれませんが、わたしに魅了の力があることが成人の儀でわかったので、魔法学園へ通うためにコントロールの練習をしに行くことになりました」


 ショコラおばさまが頷く。


「大聖堂のバベル司祭から、興奮気味に報告されました。彼は普段は物静かな人だけにあれほど興奮しているのは初めて見ましたよ」


 バベル司祭ってあの案内してくれた人かあと思いつつ、相槌を打つ。


「そうなんですか」


「バベルさんは役所でも独身既婚男女を問わず人気があるんですが、どうやら彼はサクラさんのことが気に入ったようですよ。どうです? パートナー。悪くないんじゃないですか。あ、パートナー契約について、もう聞いてます?」


「はい昨日、……ツバキおねえちゃんから聞きました」


 そしてそれ以来何となくツバキおねえちゃんと会話するのを避けてしまっている。


「それにしても、魅了のコントロールですか……シルバさんほどじゃありませんが、あの子も拗らせてますねえ」


 はあ、とため息混じりに、細い顎に手をやるショコラのおばさま。


「え?」


「ああ、こちらの話です。あの子もシルバさん同様、多少魅了の力がありますからね、何かあったら色々聞くといいですよ」


「……え?」


 新事実にびっくり仰天しているわたしを尻目にショコラさんはジンのラボの入口に手をかけ中に入って行く。


「ジン、入りますよ。サクラさんも一緒です」


 白衣を着て作業していたジンが振り返った。自分の名前が出たので、色々問いただしたい気持ちを堪えて挨拶をする。


「こんにちは……」


「ああ……。母さんは何しに?」


「シルバさんに離婚届のサインを貰おうとしたんですが生憎留守だったので。ジンとサクラさんにこちらを。魔法学園の入学手続き関係の書類です。住所が変わるので転出届もあります。この見本を元に名前と出身地などの記載をしてください」


 さすが能吏だと言われるだけあって、ショコラさんの指示はテキパキとしていてわかりやすい。言われるがままに名前を書き入れるが、おばさまに見られていると字を書くのも緊張する。なるべく丁寧に、きれいに書くことを心掛ける。


「ああ、パートナー欄は空白のままで結構です。サクラさんにバベルさんを紹介してからでも遅くないですしね」


 突然そんなことを言われたので、ペンが止まってしまう。


 ジンの視線を隣から感じた気がして、伏せた顔が上げられなかった。


「おばさま……これでいいですか?」


 記入済の書類をおばさまにチェックしてもらって、


「はい、お疲れ様でした」


 との言葉を貰うと今日はもう一仕事終えた気分。


 とんとんと書類をそろえながら、おばさまが、ジンに向かって訊ねる。


「ところでジン、隣の部屋に誰かいるんですか」


 え? 誰かいるの? 驚いて続き部屋の扉を見るが、扉は沈黙している。


 訊ねられたジンは書類仕事のせいか、疲れては見えたがとくに驚きもせず、


「ああ、それなら……」


「――にゃあ~ん」


「え? 猫? ジン、猫飼ってたの?」


 猫ちゃんの鳴き声につい口をはさんでしまった。 


「……いや、近所の野良に時々餌をやってるだけだ」


「へえ、ノラちゃんかー。会いたいなー」


「……そうですか。では私はそろそろ……。サクラさん、コントロールの練習がんばってください」


「あ、はい! おばさま、色々ありがとうございました」


 椅子から立ち上がって、お礼を述べると、おばさまが小さく微笑む。同性でもどきっとしてしまうほどおばさまは色っぽくて美しい。そのうえ人望があり、仕事もできるなんて……実はちょっと憧れている。


「では、バベルさんの件、くれぐれもよろしくお願いします」


「え、あ、はい……」


 おばさまは、ジンにも一言二言話すと、すっとラボを出て行った。


 ジンとふたりになったので、色々訊ねようとした時だった。


「ふう~、ショコラのやつ、やっと行った?」


 閉まっていた扉が開いて、ジンによく似た男の人が出てくる。


「シルバのおじさま!?」


 キラキラの銀髪に赤い瞳のその人はまごうことなき、ジンのお父さんだ。


 おじさまは、わたしを見ると、人好きのする笑顔を浮かべて愛想よく手を振る。


「やあ、サクラちゃん! 今日もかわいいね!」


「あ、ありがとうございます……」


 性格のほうは、ジンとは正反対だ。


「父さん、これ母さんから」


 ジンがシルバのおじさまに向かって紙を差し出す。離婚届だ。つまり、シルバのおじさまが隣の部屋に潜んでいたことは、ショコラのおばさまにはまるっとお見通しだったということか。


 おじさまは笑顔を吹き消すと、火の術で一瞬にして、離婚届を灰にし、にこりと笑ってわたしを見る。


「アハ、いっけねー。うっかり燃やしちゃったよ」


「……人の指まで燃やそうとするなよ」


 巻き込まれそうになったらしいジンが舌打ちする。


「だってさー、おまえだって悪いんだよ? 俺がここにいるの、ショコラに言おうとしたよね? 息子なら父さんを庇ってくれてもいいんじゃないの? ねーサクラちゃん」


「え? えーっと……」


「サクラを巻き込むな」


 わたしに矛先が飛んできたので曖昧に笑って濁すと、ジンが釘を刺してくれた。


「まっいいや、サクラちゃん、パートナー探してるんだって? 残念だなー、俺がもう少し若かったらぜひ立候補したんだけど」


「いえ、探しているわけでは……」


「あ、そうなんだ。よかったなあ、ジン」


 わあ、気まずい。シルバのおじさまが登場してから、ただでさえ良いとはいえなかったジンの機嫌がどんどん下降していっているよー。


「あ、あのおじさま、さっきショコラさんから、おじさまとジンも魅了があるって聞いたんですけど!」


 気まずい雰囲気を変えるためにも質問タイム! 


 おじさまは、女性に優しいので、ジンをからかうのをやめて、わたしに向かって笑顔をつくる。


「そうなんだよね~、ジンは俺に似たのかな?」


「いや、似てない」


「うん、似てないと思います」


 ジンとわたしがすかさずツッコミを入れるも、おじさまはケタケタと笑っている。


「それでサクラちゃん、魅了のコントロールを覚えたいんだって?」


「は、はい」


「んー。俺もジンも生まれつき、コントロールできたからさ、うまい説明はできないんだけど、まずは実践から行ってみよっか?」


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