ぶっちゃけ、勇者とか魔王とか、どうでもいいです。
パッと思いついたのを書き殴りました。特に深いことは考えずに書いたので、細かいことは考えずに読んでください。
後、後半がダイジェストっぽいです。
目を開けると、俺は自分が見知らぬ所にいることに気がついた。何処を見ても、白、白、白。そんな終わりの見えない真っ白な空間に俺はいた。さっきまで、都会の雑踏の中にいたはずなのに。
ここは、どこだ?
さらに俺は、自分自身の違和感にも気がついた。何故か、俺は空間の色に合わせたような真っ白い着物、所謂白装束というものを身につけていたのだ。白装束なんてものは、家にはなかったはずだ。頭部にもいつもと違う感じがしたので、頭を触ってみると、自分の頭の周りに何かが巻かれていることが分かった。その何かは三角形のような形をしていた。
白装束に頭には三角っぽい形のもの。これは……完全に幽霊とか亡者の格好じゃないか?
幽霊なら足がないのがテンプレだが、足の感触があった。履いていたはずの靴はなくなっていたが、普通に立つことができた。
簡潔に言おう。
分からん。
ここが何処なのか、自分が何故こんな格好をしているのか、その理由が全く分からない。
ただ、ハッキリしていることもある。自分が死んだという事実だ。
何故それが分かるのかというと、覚えているからだ。
確か、トラックか何かに子猫が轢かれそうになっていて、それを助けるために俺は死んだんじゃなかったか?最後の記憶は何かが潰れるような音と気持ちの悪い感触だけだが、あんな酷い音をたててぶつかった人間が生きているとは到底思えない。それに走馬灯のようなものが最後に見えたような記憶がある。
正直に言うと、あまり死んだという実感はない。ここでは五体満足だし、怪我も何もない。それが死んでしまったという実感を薄れさせているのかもしれない。
1人で冷静に考察をしていると、俺以外誰もいない空間に靴の音が響いた。
反射的にその音がした方を向くと、1人の女性がいた。
お仲間かと一瞬思ったが、彼女は俺のように白装束を着ておらず、古代ギリシャのような装いをしていた。その上、なんだかオーラを感じたのだ。まあ、分かり易く言うならば、俺は本能的にこの女性は俺とは別のモノだということを感じたのだ。
「はじめまして。私は貴方が生まれ育ち、死んでいった場所とは別の世界の女神です。異世界の女神、とでもいった方がいいでしょうか?」
女神、ときたか。多分、この空間にいなかったら、そう言われても「不治の病にかかっている方か……」と軽く遇らっていただろうが、なにせ、状況が状況だ。信じる他はないだろう。
「さて。橋本圭介さん。貴方は子猫を庇って死んだ、そうですよね?」
まあ、そうだな。俺は首を縦に動かした。
「その貴方の善行を評価し、特別に今の記憶を持ったまま転生させてあげましょう。」
慈愛に満ちた笑みで女神様は言った。まさか、こんな異世界転生モノのテンプレみたいな展開がくるとは。ラノベを読んでいるときにいつも思っていたのだが、天国とか地獄を通ったりはしないのか?
それになんだか胡散臭い。転生云々は本当かもしれないけど、その言葉が女神の本心からの言葉ではないような気がした。まるで、台本をなぞっているかのような、定型の台詞。
「本音は?」
「子猫を助けてトラックに轢かれて死ぬなんていう、異世界転生モノのテンプレを初めてみたから、本当に転生させてたかった。」
正直で結構。女神もラノベとか読むんだ。
というか、答えてくれないと思ってたのに、さらっと答えてくれた。
「いやいや、圭介君。そんな目で見ないでよ。確かに自分の興味のために異世界の女神とか嘘ついちゃったけどさ、君も私の立場だったら、絶対にしたくなるって!」
本心がバレてしまった女神は弁明し始めた。弁明の言葉が言い訳にもなってないような気もするが、そこは言わないでおこう。
何故なら、自分が女神の立場でも絶対にそんなことはしないとは言い切れなかったからだ。むしろ、してたと思う。
「ま、今の記憶を持ったまま転生させてあげるって言うのは嘘じゃないよ。それに今なら、なんとチート付きだよ!お買い得だよ!」
なんか、ジャパネ○トみたいになってきた。
でも、記憶を持ったまま転生か……面白そうだし、させてもらおうかな……
「天国とか地獄とかって実在してるのか?そうだとしたら、俺はそこを通らずに転生していいのか?」
その前に先程から気になっていたことを女神に聞くことにした。
「あるよ。地獄は罰を受けるところで、天国は善行をした人が転生するまで休むとこ。元々、君は天国行きの予定だったんだけど、テンプレみたいだったから、早めに転生させてあげようってことにしたんだ。」
要するに転生が少し早まったってことか……
1人で納得していると、女神が俺の顔を覗き込んできた。
「圭介君。転生するってことでいいんだよね?」
「ああ。」
俺は短く返事をした。理由?面白そうだから以外に何がある。
「そっか。じゃあ、チートはどうする?この本の中から好きな能力を選んでいいよ!」
女神はウキウキとした顔でA4サイズと思われる分厚い本を差し出してきた。重い。
確か、A4サイズの紙は一枚で約4gじゃなかったか?この感じだと4kgはあるから、カバーのことは無視して計算すると、約1000ページ。辞書かよ。
よく見ると、表紙に『チート能力事典』と書いてあった。ここに書いてある能力なら選べるらしい。
よし、じゃあ、事典を一から読んでみる……なんてことはしない!
俺は事典をぶん投げた。事典は白い空間を進んでいき、最終的には見えなくなってしまった。
誰が読むか、こんなもん!
「え、え、え?」
女神が困惑している。その反対に、事典をぶん投げて落ち着いた俺は腰を下ろした。
「なんで?なんで、投げたの?」
「あんな分厚いのは読めない。」
女神の問いに俺は思ったことをそのまま口にした。
「じゃ、じゃあ、どんな感じのチートが欲しいか言ってよ。」
最強の能力として定番なのは奪う系の能力だよな。俺は別に戦闘がしたいわけでもないので、別にいらない。
俺は世の中の出来事を遠くから静観しながら、各地を放浪したりして、楽して生きていきたい。
だとしたら、汎用性のきくものがいい。
「空間系の能力とか……?」
思いつくのはそれぐらいだ。大体、どのラノベでも亜空間に収納ができる能力が登場していたし、応用の幅がきく気がする。
「空間系ね!了解!じゃ、いってらっしゃい!」
その瞬間、白い空間の中に真っ黒な穴が出てきて、俺はそこに放り込まれた。
「……そういえば、転生する世界については何も説明されなかったな……」
一抹の不安を残したまま。
***
転生して早15年。前世よりも11歳若いはずなのに、俺は享年よりも濃い人生を過ごしていた。
さて、俺が今までどんな人生を送ってきたのか、簡単に要約して説明しよう。
俺は男爵家の次男、ヒューゴ・サリバンとして、この世に生まれてきた。
『次男』という言葉からも察していると思うが、俺には兄がいる。彼の名はミリウス。俺とは10歳違いだ。兄は両親の代わりに俺をここまで育ててくれた。兄がいなければ、俺は転生早々、またあの白い空間に舞い戻っていたかもしれない。
何故、兄が両親の代わりをしているのかというと、俺が2歳を迎える頃には、どちらも亡くなっていた。
母は元々病弱体質で、俺を産んで1年後に死んでしまい、そこから、母を溺愛していた父は飲んだくれになり、肝臓を悪くして、母が亡くなって丁度1年経つ頃に亡くなった。
父が亡くなった時に12歳だったミリウスは俺のために働き始めた。ミリウスがお金を稼いで、俺を育ててくれたおかげで、今俺はこうして生きているのだ。
ミリウスは成人したと同時に、サリバン男爵家の当主になり、持ち前の手腕で家計を潤わせた。
その頃、俺は街の酒場で飲みまくって倒れていた爺さんに介抱のお礼として、護身術を教えてもらった。
ちなみに、師匠の本名は知らない。なんとか流派の師範らしいので、もしかしたら、有名なのかもしれない。後、護身術を教えるついでだ、と言われて、ちゃっかりそのなんとか流を習得させられた。
俺はミリウスに恩返しがしたいと思っていた。
正直にいえば、恩返しと言われても何を返すことから始めたらいいのか、検討がつかなかったので、今までに払ってもらった養育費等を全額返すことから始めることにした。その時に使える、と思ったのが、女神から授かったチートだ。
俺の要望通り、空間系の能力にしてくれたみたいで、主にできることは、亜空間に物を収納したりとか、座標さえわかれば、転移したりできる。さらに対象の物体が自分の視界に入っていれば、その対象の物体と自分の場所を入れ替えることもできる。
今回はその収納能力を存分に活用し、お金稼ぎに使うことにした。俺は、短期間、王都で働き、旅費を稼いだ。そして、そのお金で世界中を周り、珍しいものやまだ自国には流通していないものなどを買って収納にいれていき、それを帰国後、売り捌いた。
どの世界の人間も新しいものが好きなのは変わらないようで、俺が持ってきたものは瞬く間に売れていき、養育費以上のお金を稼ぐことができた。
ミリウスに今までの出費を丸ごと払っても、まだまだ商品は有り余っていたので、時期を見ながらそれも少しずつ売っていった。
いつの間にか俺は有名な商人になっていて、王宮に呼ばれることも暫しあった。
影では妬みもあったようで、刺客が送られてきたりもしたが、師匠に教えてもらった護身術が役に立った。その刺客の一部には歴史的犯罪者もいたらしく、それを難なく撃退した俺は、腕が立つ、という噂が回っていたようだった。
そして、今、俺は国王に勇者パーティーに入って魔王を倒して欲しいと懇願されている。
どうしてそうなった!?
実はこの世界には勇者とか魔王が存在しているようで、今は魔王優勢でかなりのピンチらしいのだ。
そこで、強いと噂の俺に勇者パーティーに入って欲しいと言われた。
俺はそこまで強いわけでもないしな、それに魔王討伐の旅とやらに全く食指が動かなかった。ちなみに食指とは人差し指を指すそうだ。
というか、
「ぶっちゃけ、勇者とか魔王とか、どうでもいいです。」
そう、どうでもいいの一言に尽きるのだ。
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簡単な登場人物紹介
橋本圭介(享年26)
子猫を庇って死亡。女神の手によって転生させられる。無表情がデフォ。
ヒューゴ・サリバン(15)
圭介の転生後の姿。一応チート持ち。かくかくしかじかあって有名に。国王に懇願されるが、断る。
女神
ラノベ好き。いかにもラノベのシュチュエーションっぽく死んだ圭介を見つけて、天国行きであることを知ったので、チートを持たせて転生させた。圭介の性格がよくわからないらしい。
ミリウス・サリバン男爵(25)
ヒューゴの兄であり、親代わり。苦労人。実はヒューゴから養育費を全額返されたことから、縁を切られるんじゃないかと心配になってたりする。
師匠(???)
なんか凄いらしい。なんとか流派の師範。ヒューゴになんとか流の素質があったので、ちゃっかり教えこんだ。