おまけの中身を書きたくて
今回はエクストラです。おまけのお話です。その後に考えられる展開をちょっとだけやるという企画らしいですよ。
天端怪奇伝ex1
三月になると雪は解け、少しずつ春の気配も感じられる。そんな気がする。三月のはじめに卒業式があった。先輩たちが胸に花をつけて旅立っていく。俺も親しくしていた先輩に別れの挨拶をする。まあ、でもその先輩は地元で就職するっていうし、家にいってワイワイやるくらいの仲だからお別れってことないだろうけど、まあ、一つの区切りだ。俺も卒業するときに後輩に別れを惜しんでもらえるのだろうか。文芸部に後輩が入ればいいな。
「みんな、卒業していくんだね」
「先輩は卒業しないのか?」
夏井先輩がどこからともなく現れて話しかけてくる。
「幽霊だし・・・それに一回卒業してるよ、十九年卒」
「そういえばそうだったなぁ、平成十九年だから二〇〇七年か」
「あ、平成じゃなくて昭和」
「昭和十九年?戦時中じゃないか」
「久保田くん歴史くわしいね」
「いや、それくらいは常識のはんいないだろう」
「昔この学校は女子高だったからね、それにみんな高校にいってるわけじゃ無かったし。男子はみんな兵隊にとられてたけどさ。私も工場でねじとかいろいろ作ったよ」
「ふーん、大変だったんだなぁ」
まさか高校の先輩から戦争の体験談を聞けるとは思わなかったぞ、まあほら吹いてる可能性はあるが、幽霊がしゃべっているというのもほら話に近いことなので気にしない。
「向こうの山の洞窟でエンジン作ってるらしくて、それで私たちが作ったねじで動いてるんだって。模型っていう娯楽があること考えたら本当の飛行機の部品つくったなんて誇りだよね」
「確かにそれは羨ましがるひといそうだな」
「まあその飛行機がちゃんと働いてればよかったね、私が工場にいるときに敵に爆弾落とされたからね」
「大丈夫だったのか?」
「んー、今の状態をセーフというかアウトというかだね」
夏井先輩は戦争で死んだのか。まさかつい五分前まで想像してなかったな。
「久保田くんもいつ何が起こるかわからないから用心した方が良いよ?いつ、どうしても避けられない死がそこに待ってるからね」
「そうだなぁ、気をつけるさ」
避けられない死か。そりゃ戦争で死ぬのは避けられないな。戦争回避できればいいけどそれは国が決めることだから一般人には到底何もできないな。近衛文麿みたいなのがきたらどうしようもない。
いろはは交通事故で死んだ。詳しい原因はわからないけど、まあこの前の俺みたいにわざわざ車に突っ込んでいかなければ大抵の場合車のよそ見か速度の出しすぎということになる。
いろはの死は、避けられない死だったのか今でも気になる。もういろはは二度と現れないだろうけど、もしもその時、いろはを車から守ってあげられたら、いろはは今頃楽しく中学校に通っているんだろうな。
事故のあった交差点には新しい花が供えてあった。いろはに供えたのか、あるいはまた事故があったのか。さっさと信号なり歩道橋なりつけてくれ。ここはまだ交通戦争の途中なんだ。夏井先輩と同じでいろはだって戦争で亡くなったんだよ。もう。くそっ!
「お兄さん?一緒に帰ろ?」
「千秋か、そうだな、気遣ってくれてありがとな」
「兄妹ですよ?当たり前です。早く傷を癒してくださいね」
夕暮れ道を二人で歩いて帰った。少し温かい帰り道だった。
天端怪奇伝ex2
閻魔さまの場合
「閻魔さま、手配番号8181877のものをつれてきました」
「よし、通せい」
「ははっ」
連れてこられたのは10台前半の少女。やけに暑そうな格好をしているが、地上は冬なんだろう。少女は怯えているように見えた。まあ仕方ない。
「この者はいったいどういうものなのだ」
「はっ、手配番号8181877番、明智いろは。本来は去年九月に天国に到着予定でしたが天使からの追跡を振り切り、今月中頃まで逃走を続けておりました」
「人生評価は何点だ」
「真面目十点、謙虚十点、親切十点、減点はありません」
「なるほど、だが逃走した以上天国に連れていくことは出来ないな。それなら明智いろは、お前には悪魔として働くことを命じる」
「はい、了解しました閻魔さま」
そして少女は悪魔たちに連れられて出ていった。
「閻魔さま」
「どした」
「天使から逃げた者に絶対に天国に行かなくて済む悪魔の仕事を与えるなんて流石ですね」
「どういうことだ、マニュアル通りだ」
「マニュアルを作ったのは閻魔さまではないですか」
「ははは、そうだな、そういうことか、そうかもしれんなははは」
杵築静香の場合
最近新入りが入ってきた。まだ子供、まあ悪魔は歳をとらないし、見た目を変化させられる術も習得する人もいるし、あまり関係ないけど。
血の池監視課では血の池で溺れている人の救助にあたる。あまり溺れている人がいると後続がつかえたりお湯がうまく流れなかったりするので陸に引き戻す役割が必要なのだ。
新入りの彼女はまあ、非力で、仕事も遅いけど一生懸命だ。非力なのはまだ翼の使い方をマスターしていないからか。昔は自分もそうだった。懐かしい。
たまたま休日が彼女と被って、お話する機会があった。
「お休みの日はみなさん何をしているのですか?」
「温泉でくつろいだり、美味しいもの食べたり、あとスキーが最近流行ってるね」
「地獄にも雪が降るのですか?」
「雪?ああそれは別の世界だよ、ニセコとかトマムとか白馬とかね」
「ひにゃ!?てことは生きてた時の世界に戻れるのですか?」
「知らなかったんだ」
「あ、あの、特別な申請とかいるんですか!?」
「いらないよ、行きたい場所とかあるんだ。次の仕事の時間にに間に合えば大丈夫だよ」
「それじゃ私、失礼します!会いたいひとがいるんです!」
「え?そう、いってらっしゃい」
「行ってきま~す」
よろよろと飛び立って出掛けていった。家族かな、友達かな、先生かな。会いたい人は。
・・・私も会いに行ったっけ。こうやって。今はもうみんな居なくなっちゃったから会いに行くことは無くなったけど。懐かしいなぁ・・・また一度会いたいなぁ・・・
久保田義重の場合
しげくん。そんな声が聞こえるような気がする。・・・そんなはずはないんだろうな。いろははもう、帰ってこないんだよな。いろはの母さんの所にすらいないっていうんだ。
しげくーん!
こうやって幻聴が聞こえるんだ。いや、幻聴じゃないかもしれない。俺が無意識にいろはを産み出しているのだ。それを幻聴っていうのか。
会いたかったよ~!!!!!
幻聴ってうるさいくらいにも聞こえるのか。キーンって風切り音がしてきたぞ。
あああ止まれない~~~!!!止めてーしげくーん!
「ぐえっ」
思いっきり後ろから激突される。前に派手にこける。
「いたたたた・・・」
聞き覚えのある声。後ろを振り向いている。
・・・。黒い。角生えてる。羽根つき。
「妙にそっくりだが、羽生えてたか」
「しげくーん!会いたかったよっ」
せっかく起き上がったのに抱きつかれてそのまま地面に叩きつけられる。
「やっぱりいろはか」
「しげくん、ただいまっ」
「おかえり」
いろはは抱きついたまま泣き出した。ひどく何言ってるのか半分わからないような状態だけど、言いたいことは伝わる。それはずっと前からそうだ。
・・・おかえり、いろは。
おしまい。
天端怪奇伝 あとがき
後書きの前書き
今回はアルファポリスの転載でしたので、アルファポリスにある以前の作品の要素も入ってしまっているのです。ごめんなさいね!
今回の話は幽霊との恋、でしたね。語りは「ロボットの時代」からアホの脇役として出ていた久保田義重に決まりました。新キャラの明智いろはと夏井かえでに決まりました。いろはが2003年生まれ、かえでが1926年生まれですねたぶん。最年少と最年長になりました。
キャラ紹介
いろはは元気な娘でいろいろスペックがいいです。ゲームセンターのときとかね。久保田より頭冴えてそうだし。思考面はなんとなくKanonのあゆに似ているような気がしますがスペックいじって行動結果が大きくかわっているようです。好きな食べ物はチーズケーキです。
かえでの方はやっぱり頭良さそうですね。思考面はかなりの大人です。昭和十九年に女子高を卒業しているのですから家も裕福だったんでしょうね。久保田のすんでる町の道路二本発言や今回の洞窟発言からすると、田舎っぽいので夏井家は地主かなんかなんでしょう。
辻は謎がまだ多いので省きます。
久保田千秋は義重に対して敬語を使っていますが別に義理の兄妹とか、そういうことはありません。実の兄妹です。中学二年ですがかなり大人で兄をサポートしています。いろはに対しての理解もかなりあって今回の話の一番の貢献者かもしれませんね。
ストーリーについて
久保田といろはの恋愛についての話ですが、いろはには重大な問題があってそれを気をつけないとドカン!という状況です。幽霊であること、そして交通事故の風景を思い出させてはいけない、というものです。いろははいなくなるとき「死神が来た」といってますが本当に死神が来たのか、それともきっかけによっていろはが精神の異常をきたしてそう見えたのか、いろはと久保田の意志疎通に齟齬があったのか、久保田がおかしくてはじめからいろははいなかったのか、語り手の久保田が嘘をついているのか。それはわかりませんね。
「ロボットの時代」と大きく違うのは恋愛の形ですね。今回の久保田には「いろはを守る義務」みたいなのがあって、はじめは久保田は守りつつ、良い思い出をつくってやりたい、というのが思っていたところだと思います。
協力者の存在もかなり変わっています。小栗、夏井先輩、辻、笹川、千秋、明智の母などなど。「ロボットの時代」の総キャラより多いかも。
最後に。演劇部空気ですね・・・辻が書いた話は今回と関係ないようですし・・・
次回作、また過去作もよろしくお願いします。読んでくださってありがとうございます。では。ばいちゃ。