その3 雪景色
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「そしてここは駅前商店街」
「ナレーションは別にあるから大丈夫だよ」
「ナイス突っ込み、ボケに付き合ってくれる奴は俺と相性が良い。なかなかだな」
「ねぇねぇしげ君、ゲームセンターって入ったことある?」
「あるぞ、いろはは何のゲームが好きなんだ?」
「ボク実は入ったことが無いんだよ」
「ぬわにぃー?まじか」
「お母さんに入っちゃダメって言われたんだよ、治安が悪いからって、でも、一度入ってみたいんだよ」
「よし、入ろう。ばれなきゃ良い」
俺にとっては慣れたゲーセンでも、いろはにとっては初めてのゲーセン。ならまずはこれ、って奴がある。
「まずはこれ。ホッケーだ」
「なにこれ、面白そう、わ、ふわってする!」
空気が出てるのに興味津々。俺はルールを一通り教えてやってみる。いろははなかなか筋が良い。・・・・・・ちょっとまて、これは一人でやったら視線がヤバい奴じゃないのか。まあ、空いているからいいか。今度から気を付けないと。
・・・何故か本気を出していたにも関わらず負けてしまった。ホントに初めてなのかいろは。
「あれも面白そうだね」
「うん・・・?」
「あの銃で撃つやつ」
「あれ、いろはってあんな趣味だったっけ?」
「お父さんが銃のマニアだったんだよ、それでボクも小さいときから見ててね、一度やってみたかったんだよ」
「よし、やろうか」
少しずついろはのイメージが崩れて来たぞ・・・しかも滅茶苦茶うまい。俺のが明らかに下手だ。・・・アーケードゲームってのは基本的にクリアが非常に難しく作られているのにいろはは(俺が死んだあとひとりで)クリアしたのだった。才能あるぞ。
そんな感じでいろいろな快進撃を見せつけられて疲れた。そして最後に彼女が指差したのは・・・プリクラ。できたら俺が元気なうちに撮ってほしかった。ちょっとげっそりしてる写真が出てきた。いろはは二百点の笑顔。
撮ったあといろははトイレにいったが、その時ゲーセンの知り合いに話しかけられた。
「なーに、やつれた顔で写ってるんだよ久保田ー、そもそも男ひとりで撮るなんて・・・こいつ誰だ」
「ん、そりゃ俺の友達の明智ってやつ・・・」
・・・ん?・・・ちょっと待て。すっかり忘れてた。いろはは幽霊だよな。それじゃうっかりプリクラに写ったりしちゃまずかったんだよな。気を付けないと。
・・・こいつ誰だ?ってどういうことだ?写真を見直す。・・・写ってる。誰が?俺と・・・いろは。いろは写ってる。何に?写真に。ってことは・・・えーと。
「もしかして心霊写真
「え、ああ、そうだ。そこで男ひとりで写ると女の霊が写るんだよ」
「ひえーっごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいつ」
・・・帰宅。なんか疲れた。テストがどうでもよくなってきた。
「お兄さん勉強は?」
「やる気でねぇ」
「何してきたのさっきまで、もう」
「あっ」
急いでプリクラの写真を見せる。
「これが明智いろはだ」
・・・・・・
「心霊写真?」
「まあ、そんなとこだな」
「・・・確かにこのひと、見たことあるかも・・・いろはちゃんかも」
「な、勉強する気失せただろ?」
「別問題です」
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水曜日。まだ週の折り返しだが何故か体が疲れている。昨日一昨日出掛けていたからか。しかしその分といってはなんだが、気分は高揚している。数字で表すと疲労70士気70といったところだろう。明智と適当に話して学校へ。
「久保田、最近部活に来ない。どうしたの」
珍しく笹川に心配される。確かに部活をほったらかしにしてるなぁ。
「なんでもないぞ、単に忙しいだけ」
「テスト勉強ならわかるけど、もしかしてあそびにいってるの」
「ぐぅ、そんなことないぞ」
なんで知ってるんだ、それとも単に鋭いだけか?うーん。話をそらすか。
「そういう笹川は勉強してるのか」
「してる」
「そっかー」
「久保田もした方がいい」
そういって席に戻っていった。
放課後。笹川に言われたこともあるし、文芸部に顔を出しテスト勉強をする。もともと明智とは今日は出掛ける約束をしてないので問題はない。笹川はどこかと連絡をとっているが、他の部員たちは勉強したり辞書をひいたりしている。
午後5時。ゴゴゴジ。なんか響きがカッコいい。いやそんなはずはないか。小腹空いたな。部員は全員家路についた。
完全に暗くなった空。もう冬至に近い。四時半にはほとんど真っ暗で、人の流れや町の明かり以外は深夜と変わらない。・・・それなのに明智はまだ車を探していた。
「今日はおそいね」
「部活やってたんだよ」
「そうなんだ。何の部活?」
「文芸部だ。いろはは?」
意外という顔をしている明智に問い返す。
「ボクはソフトテニスだよ」
「ソフトテニスか、いいなぁ」
「ほらっツイストサーブっ! 」
「・・・真面目に取り組んでるんだろうな」
「学校ではちゃんとやってるよ、今のはギャグ!」
「ならいい」
「それより、明日また出掛けない?」
「いいぞ、どこがいいんだ?」
「しげ君に任せるよ」
「宇宙ステーションとかどうだ」
「遠すぎるよっ」
「鎌倉の大仏」
「遠すぎるってば」
「ならどの大仏がいいんだ?」
「大仏じゃなくて、お店とか・・・」
「わかった。いいお店探してくるからな」
「え、うん、ありがとう」
「えってなんだよ」
「いや、ギャグとの切り替え早いなぁって」
「というわけで千秋、いいお店ないか?」
「どんなお店がいいのかなぁ」
「そういや聞いてなかったなぁ。ゲーセンと喫茶店以外だな」
「なら栗原屋だね」
「おお、その手があったか!きっとよろこぶなっ」
よし、じゃあ明日はしっかり楽しませてやろう。
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「ああああああああああ!!!」
「何!?お兄さん!」
「試験が近いのに全然勉強してない・・・」
「いろはさんと会うの少し期間あけたらどうですか?」
「それはな・・・あいついつ消えるかわからないだろ、だから会えるうちに会っておきたいし幸せに暮らしてもらいたい」
「・・・お兄さん?」
「ん?」
「いろはさんのこと、好きなんですか?」
「・・・」
「お兄さん、気持ちを伝えたほうが良いですよ、ちゃんと」
学校にて。今日は木曜日だから朝から体育。体育館でバスケ。程よく体を動かし次は数学。・・・・・・わからん。ヤバいな。話を聞いてわからないということははじめから出来ていないということだ。あうーうぐぅ。
「あきらめちゃだめだよ、それに、久保田くんが集中できないのは別のことのせいじゃないのかな」
「別のこと?」
夏井先輩が話しかけてくる。タイミングの見計らいかたが凄い。
「あの娘のこと、好きなんじゃないかな。あそこまで幸せにしようって動いているんだからそれほど妹に泣きつくほどね」
「みてたのかよ・・・」
「こっそりコンビニで甘~いスイーツ買ってるのも見たし」
「見るなああ!」
「夜中に寝ぼけて反復横飛びしてたのも」
「するかっ」
「しかも靴下はいて」
「わざわざはくかっ」
放課後。明智のところに行く。
「よっいろは」
「こんにちは、しげ君」
ちょっと会話に間が空く。
「ちょっといいか?」「すこしいいかな?」
同時にお互いに声を出してしまう。
「えっえっ先にいいよ!?」
「いや、いろは先に」
こんな感じできりがないので先に言う。が、しかしいざとなると緊張してきて、なんとなく神社に移動する。ここなら目につかないと考えた。
「真面目話があるんだが、真面目っぽく言った方がいいか?」
「ギャグっぽくいうとどうなるの?」
「内容は同じだ」
「ギャグっぽく言ってよ」
「将来俺が庭に物置を建てたとき、俺といろはと子供で、百人のっても大丈夫!をやりたいんだ」
「わあ・・・えーと、・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・ってどういうこと?」
「好きだから付き合ってくださいっていうことじゃ~!ちょっと話が行きすぎたけどそういうことじゃーっ!」
「はわわわわわわわ!?それってプロポーズ!?」
「はぁ・・・」
「ボクもしげ君のこと好きだから、一緒に居たいな」
そしていろはは俺の胸に寄りかかるようにくっついてきたのでそれを受け止めるように抱き寄せる。温かいし、重さもあるし、息づかいも感じられる。・・・本当は幽霊じゃないんだろ?事故なんて無かったし、千秋と共謀して幽霊のふりをしているだけだろ?用意周到だな。共謀罪だぞ。・・・そうあってくれよ・・・
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木曜日。今日は雪。どんよりした天気の下を学校へ歩く。少しずつ積もり始めて、畑とか人の立ち入らない場所では根雪になりつつある。いつもの場所にいろは。
「よっいろは」
「しげ君おはよー!」
「寒くないのか?」
「平気だよ。この制服結構暖かいんだよ」
「そうか。まあ車探すのもいいけど風邪引くなよ」
「気を付けるよ、でも最近車ことはどうでもいいかなって思って来たんだ。一年も見つからないし、車を買い換えたかも知れないからね」
「そうだな。車にこだわる人は結構いるからな。それに壊れるかも知れないし」
時間なので急ぐ。しかし今日いろはが言っていたこと。車を探さなくても良い。これは小栗の親戚から聞いた「車を探すな」というアドバイスに一致するものだったのだ。これは助かった。これですこしでもいろはと一緒に居られる。
が、学校につくと小栗が気になることをいう。
「ひき逃げの犯人が捕まったんだって」
「なにっ!?」
「それで、久保田くん警察から呼ばれてるんだよ、目撃者だからくわしく事情を聞きたいんだって」
「なにっ俺のこと知られているのか!?」
「何処からか情報が漏れちゃったらしいんだ」
めんどくさいなぁ、ったく。しかし犯人はどんな奴だろうか。
放課後、警察署に向かう。悪いことはしていないが緊張する。警察は悪い人たちではないのだが、なんとなく行きたくない。銃を持っている勢力のアジトだからな。・・・大袈裟か。
「え、目撃してない?どういうことかね」
「風の噂で聞いたんですよ」
虚偽答弁しておく。まあ幽霊に聞いたと言うよりまともだろうが。
「しかし風の噂でここまでナンバーがわかるというのかね」
俺が悪い訳じゃないのに責められている。やっぱり嫌いだ。
「風の噂ですよ、それ以外何があるというんですか」
「それはこちらが聞いているんですよ」
「だから風の噂なんですてば」
ーったく。まともに話が出来ない。用がすべて終わり帰ろうとするとギリギリお姉さんと言えるくらい(失礼)の女性に話しかけられる。
「久保田さんですか?」
「はいっ?」
「よかった、あなたが久保田さんですね」
「ええ、久保田ですが、あなたは・・・?」
「いろはの母です」
「えっ・・・!?」
「久保田さんのことはいろはからよく聞いてますよ」
「・・・いろはから」
「・・・知っているんですよね 、あの事故のこと」
「ええ。はい。・・・それでいろはから聞いたと言うのは」
「不思議なことなんですけど・・・いろははいるんです。あの事故があって、それでもいろはは帰って来たんですよ」
「・・・」
「信じてもらえますか?・・・本当ならいろは・・・でもいろはは私のそばにいるんです」
「信じますよ。僕のそばにもいるんですから」
暗くなった町まで車で送ってもらった。助かる。お礼を言って車から降りるとそこにいろはがいてびっくり。
「いろは?何故ここにいるんだ」
「それはボクのセリフだよっ!お母さんの車に乗ってきたんだから!」
「母さんにのせてもらったんだよ」
「いろは、私が乗るように誘ったんですよ」
「お母さんが?」
「それじゃ帰ります。お母さんありがとうございます」
「いえいえ、これからもいろはをよろしくお願いします」
「こちらこそ娘さんを・・・」
「わっ!しげ君!?お母さん!?」
暗い中、いろはは照れて紅くなっていた。
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金曜日。雪。
「しげ君、今週末暇?」
「暇だぞ」
確かに土日は何も無いが来週はテスト。しゃべってから思い出す。
「一緒に一日、どこかに出掛けようよ」
「そうだなぁ、よしそうしよう。どこがいいか?」
「しげ君の好きなところで良いよ!」
「そうだなぁ、土曜と日曜だったらどちらがいい?」
「待ちきれないから土曜日だね」
「はっはっは、そうか!じゃあ場所も決めておくから明日ここで集合だぞ」
「うん!」
で、少しだけ上機嫌で学校へ。しかし学校につくとテストのことを思いだし憂鬱になる。テストってホントにやったほうがいいのか?精神によくないぞ。気合いを入れて教科書を開き暗記を開始すると笹川に呼ばれる。
「久保田、最近上の空」
「なんだよ、上の空だって春の海だって何だって良いじゃないか」
「これ」
「ノート?」
「事情は小栗から聞いた。応援する。これ勉強に使って」
「笹川・・・すまんな。助かるぜ」
「後でおごり」
「ああ。任せろ」
笹川が何故か協力してくれるようだ。こうなったらやらないわけにいかない。打倒不来方くらいでやろう。
放課後。やれば俺だって出来るもんだ。試験勉強が笹川のお陰でよく進んだ。さて、明日の計画を練らなければ。
「なぁ笹川」
「水族館」
「まだ聞いてないぞ」
「水族館面白い。アザラシの赤ちゃん可愛い。それだけ」
「なんかわからんけどありがとな」
「おごり」
「これがおごりにはいるかっ!」
しかし水族館か。良いかもしれない。
放課後にもいろはと会った。ちょっと聞いてみることがある。
「なぁ、肉と魚どっちがすきか?」
「甲乙つけがたいよ。ボク魚も肉もすきなんだよ」
「それじゃイルカとうさぎどっちが好きか?」
「その二つならイルカかな?うさぎも好きだけどね」
「よしわかった」
「それで何の質問なの?」
「今日の晩御飯」
「わぁぁぁぁあああそんなの無いよ~!」
「冗談だよ」
「うーっもうっ!」
「それで明日はここに九時に集合でいいか?」
「せっかくだから別の場所にしようよ。駅前の喫茶店の前とか」
「よしそうしよう。それじゃまたな!」
「また明日~!」
続きます。
アルファポリスには無い追記
「あらかじめ断っておくが、イルカは魚じゃないぞ」
「当たり前だよ」