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8.

私は、れっきとした女子高生。

一応、お年頃ってやつだ。

だから、友達と遊びに行きたいし、遊びに行きたい。

大事なことなので、二回言った。

つまり、自由な時間がほしい。

アルバイトと称して、毎日毎日呼び出されるのにも、少々、うんざりしてきた。

いや、正式にアルバイトなのだから、給料は発生するし、そこは問題はないんだ。

そう。問題はそこじゃなくて。


「先生。最近、先生の顔を見ない日はない気がするんですけど」

「見たくなかったら、見なければいいだろう」

「いえ、そうではなくてですね。休息というものは、大事だと思うんです。私は」

「そうだな」


先生が、ハードワーカーぎみなのは知ってた。

しかし、ここまで仕事が好きだとは知らなかった。

どうやら、彼の中に、「何もしない」という選択肢はないらしい。

しかも、先日、私が見つけたものが、古いものではなく新しいものだったということが、さらに拍車をかけていたのは明らかだった。

考え方を改めなければならない、とか何とか。

情報収集を、一からやり直している。

最近の先生は、占いの仕事の合間を縫うようにして、情報を少しでも集めようと躍起になっている。


「少しは休んでくださいって言ってるんです。そうしないと、私が休めません」

「時間は有限だ。計画的に使わないとな」


そう言って、手を休めようとはしない。

飾り棚の上にまつられている置き物と絵皿の二柱は、沈黙を守っている。

彼らは、あまり表に出てくることはない。

静かなものだ。


「あまり根を詰めると、体によくありませんよ」

「大丈夫だ。体調管理も仕事の内だ」

「そうですか」


目の下にうっすらクマが出来ているけど?

以前はきれいだった机のまわりが、今は見る影もないし。

ごはんだって、ちゃんとしたものを食べているかどうか怪しいし。

接客業だから、身だしなみはきちんとしている。

そこだけが救いだ。

まぁ、私は先生の彼女でもなければ、妻でもない。

心配するだけ、無駄なのかもしれない。


「先生、今日はもう仕事がないようなので、帰ります」

「あぁ。お疲れさま。明日もよろしく」


私は大きなため息をついた。


「明日は用事があるから休みますって、言いましたよね」


先生は、びっくりした顔で、こちらに視線を向けた。


「そうだったか?」

「そうですよ。しっかりしてください」


先生は、腑に落ちないような顔をしている。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない」

「少し休んだらどうですか?根を詰めると、見えるものも見えなくなってしまいますよ」


先生は、椅子に背中を預け、大きく伸びをした。


「そうだな。君の意見を参考にさせてもらうよ」

「それが良いと思います。じゃ、お疲れ様でした」

「お疲れ」


あの人は、大丈夫なんだろうか?

だんだん、心配になってきた。

帰り際に、もはや祭壇と化した飾り棚をみる。

置き物と飾り皿が祀ってあるだけで、変化はない。

自分で苦労して手に入れたものにしか価値はない。

そう言っているようだった。




ーーーーーー




私には、変なものが見える。

こういう体質だから、せめて、一般人に溶け込むようにと、努力は怠らない。

その、目指せ一般人のための活動のひとつだが、「成績は普通をキープすること」。

そもそも、そんなに悪くはなかったと思う。

成績は真ん中ぐらいが目標。

まぁ、どんなに努力しても、私の頭では真ん中よりちょっと上くらいにしかならないんだけど。

私の成績が悪いからといって、後ろの人たちが勉強を教えてくれるということはない。

そのため、自分で努力するしかないのだ。


さて、テストも無事に乗り越えた頃、それは始まった。

普通に連休が重なり、「奇跡の四連休」という謎の大型連休が生まれた翌日。

学校へ行くと、謎の視線が私に集まった。

隠れて、こそこそと噂話される。

軽く無視される。

そんな程度だが、「目指せ、一般人」が目標の私にとっては、大問題だった。

その日は、遅刻したというわけでもない。

自分の身だしなみを確認してみたが、変なところはないと思う。

席に着くと、親友が駆け寄ってきた。


「まな、ちょっといい?」

「ど、どうしたの?」

「あのね」


親友が、そっと耳打ちしてきた。


「昨日、デートだったの?」

「は?」


思わぬ質問に、思わず間抜けな声が出てしまった。

昨日。

デート?

誰が?

誰と?

昨日?

昨日は、バイトで。


「あぁ」


合点がいった。

私のその声に、あまり話したことのない人まで私の席の周りに集まってきた。


「昨日一緒にいた人は彼氏?」


あまり人に囲まれるという経験がないので、すごい圧にどきどきしてしまう。

プレッシャーもすごいが、化粧品の匂いもすごい。

なんて返事をしようかと、言い淀んでいると、先生が教室に入ってきた。

それを合図に、皆、自分の席へと戻って行った。

しかし、視線は私に集まっている。

きっと、机の下では、ケータイの画面越しに、情報交換が行われていることだろう。

女子、こわい。

私のケータイも小さく震えて、着信を知らせている。

相手は親友だ。

彼女の一言のおかげで、クラスメイトからの突破口が開かれたといってもいい。

画面には「さっきの話は本当?」の文字。

さて、返事はどうしようか。などと考えているうちに、時間はどんどん過ぎていく。

朝のホームルームが終わってしまえば、きっとすぐに取り囲まれることだろう。

なんという名目で、情報を開示すればいいだろう。

ノートに「どうすればいい?」と書いて、死神の手をたたく。

死神は、「知らん」と一言。

そっぽを向いてしまった。

冷たい奴だ。


私は、面倒事は嫌いだ。

昨日は、先生と一緒だった。

気になるものをいくつか見つけたから、鑑定してほしいと呼び出されたのだ。

結局、全部はずれだったのだが、その場所が、意外と遠い場所だったために、気を抜いていた。

うかつだった。

下手に勘ぐられたり、勘違いされたりするのが嫌なので、帽子をかぶる程度の努力はしているつもりだった。

それなのにこれだ。

まぁ、昨日のこととはいえ、過ぎた過去のことをうだうだ考えてもしょうがない。

起きてしまったものは、なかったことにはできないのだ。


実際、先生とは、ただの雇主と従業員という関係でしかない。

ありのままに伝えるのがベターなのか。

それとも、親戚のお兄さんという、ありもしない設定を作ってしまったほうがいいのか。

いや、下手に嘘をつくと、後々大変なことになりそうな気がする。

しかし、バイト先の店長という文句も、なんだか面倒なことになりそうだ。

真実なのに。

いや、真実だからこそ、ぼかした方が良いということもある。

だって、先生は売れっ子占い師だ。

これは、嫌な予感しかしない。

などと考えていると、あっという間にホームルームは終わってしまった。

しかし、周りを囲まれることはなかった。

代わりに、遠くでざわざわと噂話をする声が聞こえてくる。

これは。

否定する前に、言い訳する前に、質問に答える前に、憶測が勝手に独り歩きしているパターンだ。

噂が真実として流れるパターン。

嫌な感じしかしなかった。

最悪だ。


「まな?」

「うん。悪いことしたわけじゃないし」


心配して、親友は声をかけてくれた。

しかし、そんな何気ない会話さえ、聞き耳をたてられているようで、正直、怖い。

犯罪者にでもなった気分だ。

ひそひそ話は、お昼になっても、帰る頃になってもやむことはなかった。

なぜ直接、本人に事実確認に来ないのだろう。

女子とは不思議な生き物である。

その日は、そのまま、一人で下校した。

これ以上、あの空間にいたくない。

そんな女々しい理由で、まっすぐ家に帰った。

そして、そういう時に限って、件の先生から連絡はなかった。


それからしばらくは、クラスメイトとの見えない壁みたいなものを感じて過ごした。

奇跡の四連休が明けてからしばらくは、先生からの徴集はなく、平和な日々だった。

そして、その週末。

金曜の夜のことだった。

一応、先生に連絡を入れると、明日はいつも通りだという返事をもらった。


「よし!」


気合いを入れなおす。

私は何も悪いことはしていないもの。

堂々としていればいいんだ。

先生も悪くない。

誰も、何も、悪くないんだから。





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