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男の話

転章


序ノ説 (おとこ)音呼(おとこ)

 

 ほら 聞こえるだろうか。

 名もなき戦士たちの唱声が・・・

 この静音な世界に響き渡る慟哭と喧噪が・・




酸ノ説 (おと)()(おう)する(ほう)


 雨でも降っているのか、顔が濡れている。

 誰もいない…前にも…後ろにも…隣にも…俺の傍には、もう誰もいない。

 「『温かい』という温もりを求めて、寂しさを埋め合うように人ってやつは集うんだ。」

 「『人は一人では生きていけない』」

と、誰かが言っていたなぁ。よく言ったものだな。

 そこで、男は一つ息を吐いた。

 嗚呼、でも、本当だな。…馬鹿野郎。その言葉を鼻で笑っていたあの頃の俺、馬鹿野郎。


 男には、妻と二人の子どもがいた。彼らは男が出かける度に、口々に言っていた。

 空しい…寂しい…寒くなる…と。

 しかし、男にはそれが分からなかった。これまで生きてきて感じたこともないものだったから。

それくらい、常に暖かさや温もりにあたり前のように満たされていたのだ。

 妻だった女と少年少女だった二人の子どもの姿を思い浮かべては、彼らに会いたいと願う。

男の中で何かが見え隠れし始めていた。その間にも、少しずつ眠りへと誘われていく。

深く、深く、そこへ落ちていく。


 かねてから夢に見ていた世界にいた。そこに、置き去りの城を作った。

 外の世界は微睡んで 「ここだ」「ここだ」と呼んでいる。

 その声なき声を辿ってみると 聞こえてくるのは『無』の叫び。ただ、それだけ。

 男はもう一つ息を吐いた。

 嗚呼… 永遠だと思っていた夢の城が破砕され崩れていく。

そうしてまた別の城を作るのだ。

 崩壊しては作成し、完成しては破壊する。延々と続く連鎖。

『永遠』がそこにはあった。




末ノ説 (おとこ)行方(ゆくえ)


 閑散とした荒野で、男が独り倒れている。戦士のような筋肉質で屈強そうな身体は、如何にも満身創痍な出で立ちで、立ち上がることさえ、もう儘ならない。雷鳴も雨音ももうその耳朶に届かない。

 それにしても、後に降る雨を待たずして涙で濡れたその顔は、どこか満ち足りていた。

  

 醒めない夢の続きにみたものは、確かに何処までも広がる満天の星空。その下には夢の城と大切な三つの人影。もう離すまいと、温かなその三つを抱きしめる。

 男の『しあわせ』がそこにはあった。『永遠』という名のそれが…


 稲光する雨雲の天上には幾千の星々。

 今宵、三つ星に並ぶようにして、また一つ、新たな星が増えたようだった。


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