女と少年少女の話
承章
序ノ説 女と温那
星の瞬きと共にあなたは出ていくの。
寒さなど感じていないかのように、冷めた空の下、繋ぎとめた手を優しく握り返しては、離れていくの。そうして、今宵もまた、温かさで迷いそうになる。
朝が愛おしい。
早く夜よ、明けて…
仁ノ説 少年少女は刹那と謳う(うたう)
夜明けを待つ女を指差して、少年は謳う。
「一番星みーつけた。」
女は少年を見やり、その頭をなでる。
少年に次いで女を指差し、少女は謳う。
「キラキラ光るお星さま。」
女は少女を見やり、その頭もなでてやる。
三人は微笑み合い、温もりが消えないように身を寄せ合った。
「温かいわね。あの人がいれば、もっと温かくなるのにね。」
空には満天の星。もう何度目の夜だろう。
待ちくたびれた少年と少女は先に眠ってしまった。女は、そんな二人の頬を力無げに優しくなでながら、わずかに口を開く。
「おやすみ…」
溜息のようにこぼれた言葉が夜風に溶けた。
末ノ説 女の星願
星が瞬くように、刹那に思えるあなたとの時間。それから、愛し子たちとの日々。
夢なら醒めないでほしい。とても温かくて、ちょっとだけ切ない。それでいて懐かしい…夢。
もう夜は明けなくてもいい。
大切なあなたたちがいてくれる『しあわせ』は何ものにも代え難いから。
それが『一瞬』なら、尚のこと…
夜風に誘われて、稲光を伴った暗灰の雲が幾千の星々を隠した。雨を降らせたその天上に、今宵、新たに星が三つ増えたようだった。