彼の話
―一体これは、砂が見せた幻なのだろうか。それとも…
*
*
序章
『しあわせ』と呼ばれる砂塵が現れるという砂の国があった。
乾ききった空気と荒れた大地。そこに住まう人々は『しあわせ』を求めていた。
その正体を知りたくて探していた。
起章
序ノ説 始まりの始まり
しとしと降る霧雨のように君の言葉が心に溜まっていく。
しとしと、しとしと、と―。
音もなく、静かに、ただ、溜まっていく。
逸ノ説 彼の見解 彼女の思想
あの頃は『しあわせ』なんて知らなかった。
君にあうまでは…
だから、あまりにも唐突な君の質問に黙り込んでしまった。
気づけば、『しあわせ』と呼ばれる砂塵に骨を埋めて真実の心を差し出していた。
君は泣く程、驚いていたね。
あぁ、君の質問の答えがわかった気がするよ。
「ねぇ…『しあわせ』って何か知ってる?」
だから、『死遭わせ』と呼ばれる砂塵に骨を埋めて虚偽のない心を差し出した。
もうそこにはいない者のために涙を流す君を見て思ったよ。
僕は『幸せ』だ、と。
「ねぇ…『しあわせ』って何か知ってる?」
君にあって初めて知った。
『しあわせ』を。
『幸せ』を知らなかった砂塵の正体、『死遭わせ』と呼ばれる君を。
末ノ説 始まりの終わり
春雷とともに雨の足音が近づいてくる。
突風に煽られてもどこ吹く風なのに、何故か切なさが爪痕を遺していく。
『もう君とあうこともできない』
治らない傷のように、それはいつまでも胸を絞め付けるんだ。いつまででも…
雷鳴とともに豪雨になった。何も見えない。君は消えた。