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働くママ日記  作者: あじさい
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働くママ日記の斉藤さん編 遠い昔の思い出 第1話

働くママ日記の斎藤さん編です。

これは遠い私の思い出。

誰にも話すことはなかった私の遠い記憶です。

子供が1歳という事もありましたが胸がはって苦しい思いをしました。

おっぱいがまだ出ていたのでパンパンになりながら仕事に行ってたな。

胸が張るたびに子供の顔を思い出していたっけ。


旦那は相変わらず生活費を入れたり入れなかったり、

父親としての責任は果たせないようになっていたけれど、

離婚はしないで一緒にいます。

今も一緒にいます。

お金は私が稼げば解決できそうで何とか毎日頑張っているけれど、

父親の役目は私にはできないのです。

いろんな葛藤も私にあるのは事実だけれども、

子供が悪い影響を受ける事を考えると紐の旦那と暮らしています。

旦那がいる事で悪い影響がでてしまったらごめん(-.-)


なんでこんな旦那と結婚したのかなって思うけど、

後悔しても仕方ない。

私の浅はかな目で選んだ人間だかから。

かといって、子供2人と旦那を養うのは思ったより大変です。

私のパート代ではたかがしれてますから(-.-)

日々貧乏暇なし生活です。


育児と家事、そして毎日の仕事に追われる生活。

あー私の人生はこれで終わっていくのです。

そう考えると私はとてつもない不安に襲われます。

もちろん子供を産んだのは私で彼らをきちんと育てるのが、

私の母としての使命。

それだけでいいではないか。

今の生活を守る為に働けていること、

それは素晴らしい事なんですから。

けれども時々おもうのです。

自分の人生はこれでいいのかって。



月2回ほどいく図書館が私の楽しみの一つ。

本を読むことが大好きな私は、

図書館がすきだった。

町の図書館は家から近くて自転車で数分。

好きな本を借りては自宅で読書を楽しんでいた。


つまらない毎日、責任のある毎日の日常から逃げる事が出来る

唯一の時間は図書館にあった。

そんな日常が変化しだしたのはまだ寒い3月の初旬でした。

普段は事務の仕事についていたのだけれども、

仕事が休みの土曜日の午前中だけ、

友達の仕事を手伝う事になった。

仕事はハウス野菜の収穫のアルバイト。

人手が足りなくて短期だけだったので手伝う事にした。


お天気もいい朝の九時。

服装はジャージで首にはタオルを巻いていざアルバイトへ出陣です。

朝の気持ちのいい風に吹かれながら自転車をこぎます。

長い間、仕事は事務しかしてこなかった私には久しぶりの新しい仕事。

まあ実家が農家なので農業は家事手伝いの領域でしたことがあったくらい。

それでも新しい事が始まる今日はなんだかドキドキした。


仕事場につくと自己紹介も簡単に野菜の収穫が早々に始まった。

ハウスでの収穫は近くのベテラン主婦ばかりで作業が異常に早い(-.-)

野菜の収穫は時間が勝負らしくって鮮度が落ちるから綺麗に素早くが鉄則(-.-)らしい。

その日は黙々とカッターでみずなを収穫、

ある程度のみずなを切っては袋に入れていく作業。

数回同じ作業をすれば作業はなれて、後は同じことの繰り返し。

カシャカシャとハウスの中はカッターの音だけで

皆で野菜の収穫、作業はとても簡単なのですぐに私は野菜だけの事を考えて作業に没頭した。

考えるのは野菜の事だけで他に何もない。

とにかく没頭してさぎょうしていたら午前中の作業はあっというまに終わった。

たのしかった。

たまに違う事をするとこんなにも楽しいものかと思ってしまった。

もうすこし作業をしていたい気持ちもあったが、

またこの気持ちは来週にとって置くことにした。

それにしても家から自転車で20分も走ればこんなハウス農家ができていたなんてビックリした。

見渡す限りの景色はハウスばかりで少し周りをまわって帰る事にした。

見る限りハウスはとてもきれいでまだ最近組み立てた感じ、

自動でお水がまける機械もあって最新のハウスのようだった。


そんなハウスを見ていると男性に声をかけられた。

君、漱石がすきなのかな。

怖かった。

まったく知らない男性で、初めて話す事が漱石って。

返す言葉も見つからなくてあわてていたら、

男性が静かに話し出した。


僕はこのハウスに農業研修としている斉藤です。

農業の勉強の為に東京から1人できています。

本が好きで図書館によく通っているのですが、

あなたがよく図書館で漱石の本を読んでいるのを見かけていて、

以前から知っていました。

今日のアルバイトさんの中に君をみて、

少し話をしたくて声をかけました。


息つく暇もなく、

さらりと静かに話す一生懸命に話す彼をただただ見ていました。


そうですか。

私は夏目漱石が好きですよ。

時々読みたくなるのですが私は本をもっていないので、

図書館で読む事にしています。


そんな風にして私たちは知り合いになり話すようになりました。


月に数回のアルバイトでは話す事もなく、

ましてや一緒に仕事をするわけでもありませんでした。

待ち合わせをしているわけでもありませんが図書館であえば話すようになるのに

時間はかかりませんでした。


アルバイトのハウスではいつも

いつも遠く見ている斉藤さん。

仕事をしているのかなと思ったり、

何をしているのかなと思ったり、

ただまっすぐに立ち、

遠くを見ている。

何をするでもなく遠くを見ている姿がおおかった。


図書館ではいつも楽しそうに好きな本について話してくれる斉藤さん

好きな本について力説してくれて、

彼が教えてくれる本を読むのが楽しかった。

そんなある日、斉藤さんは好きな本を眺めながら私にいいました。


僕は生きる事に疲れて奈良にきたのだけれども、

どこに行っても疲れるんだね。

人間関係が嫌になって奈良にきたのだけれども、

どこに行っても同じなんだね。

いろんな事が嫌になったのだけれども、

自分が変わらないとどこに行っても同じなんだね。


そんな事を話す斉藤さん

人生に疲れてここに来たんだ。

そう思っては何も言わず聞いていました。


そんな話を聞いてふと斉藤さんをみてみると

すごく痩せていることに気がつきました。

細くて今にも倒れそうな斉藤さんなんです。


食事をもう少し考えて食べないと身体の線が細いよ。

ああ、わかってはいるけど食べる事に興味がわかないんだ。

僕はまだ生きる事に興味がわかない。


何かをかえたくてここまで来たけれど、

まだその何かを見つけることができないんだね。


それでも生きる為に日々動き出す。

僕はまだ追いつけていないんだ。



そんな事を話すようになって、

少しずつ距離が近づいてきている事に私は気が付きました。


アルバイトが楽しくなって、

週末に会えるかもしれない図書館が気になりだして、

このままの付き合いが続くと恋になりそうな気がしました。

ただの仕事上の付き合いなら別にいいのです。

ただの仕事の同僚として、

けれども何か彼にひかれるものを感じている自分がいるのです。

苦しいとは言わない、

苦しそうな彼を助けてあげたい。

主婦の私がそんな事はできないとはわかっているのに、

そんな事を考えてしまう自分がもうここにいたのです。


もう近づいてはいけない。


まさかまたこんな気持ちになるなんて思いもしませんでした。


主婦がこんなきっかけで恋心が生まれるなんて。

主人とはもう長い間、家族になっています。

好きか嫌いかと質問されたら嫌いです。(-.-)

って答えてしまう関係。

それでも子供の為にお互いに一生懸命に働く事にしたので今がある。


きっと恋はしてもいいんだと思うけど、

それを言葉にするから悪いんだと思う。

それを行動にうつして男女の関係になってしまうから悪いんだと思う。


恋は恋のままで、心の中にしまっておけるようにしておけば、

主婦でも恋をしてもいい。


私にはそんな器用な技はできそうにない。

もっと恋愛に柔軟な対応ができればいいけど、

私にはそれができそうにない。

恋は主人しか知らなくて、

恋をして、本気に好きになればなるほど、

その人と一緒にいたくておかしな気持ちになる。

おかしな気持ちはいつも楽しいばかりではなくて、

時には死にいたるような気持ちにさえなることもある。


私は臆病だからあんな気持ちは一回でいいと思ったし、

だから主人と結婚した。

恋する気持ちはとても不安定で危険な気持ちだ。


やばいな。

斉藤さんの事を考えるとドキドキする。

今ならまだ引き返せる。

この気持ちは蓋をして、

思い出になった時に開封しよう。


図書館はすぐに通うのをやめました。

アルバイトは短期だけなので期間がくれば通うこともなく。


逃げる事が悪い事ではないけれど、

あえなくなって心にぽっかり穴が開いたのはつらかった。

恋をしている自分に気が付いて、

友達でいる事に自信がない私にはこれが自分を守る最善の策だとおもった。

あわないで忘れていく事。


いつもと変わらない日常。

毎日忙しい生活。

何も変わらない生活を過ごしていると、

あのアルバイトや図書館での出来事は夢だったような気がする。


さみしげな斉藤さんの声を聴くたびに、

ただ胸がドキドキした。

会話をしているだけなのに、

声のトーンが上がる自分に驚く。


でもそんな気持ちも感動ももうする事はない。

あれは夢だったと。

何も始まらなかったので、

心の傷は浅い。

少しさみしいな程度の傷。

これでよかった。


それから月日はながれて半年、

週末の図書館に通うのは止めていたけれど、

平日に仕事の休みが取れたので図書館にいったの。

これがよくなかった。

まさかの斉藤さんが図書館にいた。

いや、図書館で読書していた私に斉藤さんが声をかけてきたのだ。


あまりの驚きに言葉を失いました。


お久しぶりです。

本当に久しぶりですね。

長い間、図書館利用されてなかったから、

お会いする事もなくて、


はい、

そうですね。

 ・・・おかしい、半年もあっていないのにうまく話せない

 ・・・おかしい、とにかくこの場を離れないと。

今日はもう少しで帰らないといけないので

では・・・

といいかけ、最後まで帰りますといえないままで、

斉藤さんが言葉をさえぎる。


大事なお話があるので、

今から時間をとってください。

少しでいいんです。

あなたがお忙しい人だとも知っています。

それでももう会えないかもしれない、

あなたにお話があるのです。

どうぞ聞いてください。


断る事はできませんでした。

それでも図書館前のベンチで少し話すことにしました。


あなたが主婦としっていて僕はこれから随分と勝手な事をはなします。

僕は数回しかあって話をしていない君が好きになりました。

できるなら一緒に暮らしたいと思っています。

今すぐにでは無理でも何年でも待ちたい気持ちがあります。

君が図書館に来なくなってから毎週のように君を探していました。

あえない半年は君に合いたくて本当に苦しかった。

今日、こうしてあえたことで僕はわかったんです。

君と人生を歩いていきたい。



私は泣いていました。

彼の言葉を聞きながら泣いていました。

この返事に応えないといけない事に。


本当の気持ちを話せばどんなに今の心は楽になって、

すぐにこの人の胸に飛び込めるだろうか。

この人は私と一緒に生きていきたいっていってくれてる。

主婦の私に。


斉藤さん、ありがとう。

私を好きになってくれて。

あのね、アルバイトしたり図書館で斉藤さんにあえるのが私も楽しかった。

それが私には限界の過ごし方なんです。

私には子供がいます。

そんな私には子供が1人で生きれるようになるまでは自由な時間やお金もありません。

これが私に応える事の出来る今の精一杯の回答です。


どこにでもあるつまらない答え、

それでも今の自分の役割から逃げる事が出来ない私には、

こんな事しか言えませんでした。


そうですよね、

困らせて申し訳ないです。

それでももう少し僕の勝手なわがままを聞いてください。

僕はもうすぐ農業の研修を終え東京に帰ります。

東京に帰ればもう奈良には来ることもありません。

それでも時々、

本の話をしたり、連絡を取り合ったりしませんか。

そしてもっと長い年月がたって20年、30年先に

お互いが必要とする時があれば、

その時にぼくはもう一度、今日と同じ事を話すチャンスをください。

今はまだ農業の勉強をしている学生だけれども、

これから東京で農業をして生きていきます。

そしてまたお子さんが手を離れた時にチャンスをください。

こんなふうに人間にひきつけられてかかわりを持ちたいと思ったのは、

あなたが初めてだったのです。

斎藤さん編は時々の更新です。

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