おかしな離婚届
月曜の朝だった。
思った以上に良い天気だった。
雲は全くない。
せっかくのいい天気なのに、外に出るのがとても嫌だと思った。
けれども色んな事をしなければいけない日。
そう、今日は動かないといけない日なんだ。
よろよろと起きて顔を洗い服を着替えて、
いつもの朝のコーヒーを飲む。
なにからなんだ、今日しないといけない事は。
そう考えると恐ろしく死にたい気持ちになった。
ソファーに腰掛けながらもう生きるのもつらいって思った時に、
子供が起きてきた。
「おはよう」
そう子供の挨拶にはっとして、
考える事をやめて朝食をつくる事にした。
いつもは夕食に炊いておくご飯でおにぎりを作っておいて、
それを食べるのだけれども、今日はそれがない。
仕方ないので食パンを焼いてみた。
いつもとは違う食事に彼らは喜んでいた。
食パンでも喜んでくれる。
なんだかとっても幸せな気持ちになった。
朝のこの時間でなんだか少し元気になれるんだ。
簡単な朝食を食べて子供たちをいつものようにおくりだす。
「いってらっしゃい」
今日もちゃんと元気でかえってきてね。
そんな気持ちでいつも彼らに声をかけている。
「お母さんも頑張れ」
って息子がいうと、
私も頑張らないとっておもった。
子供たちは、子供たちの生活に、
学校に走っていった。
彼らの幸せを守らないといけない。
朝食の後片付けをして、
心を落ち着けてソファーに腰掛けた。
今日のしないといけない事はなんだ。
そう、電話をしないといけない。
そう電話だ。
相手は母にである。
そう夫の母にだ。
昨日の今日だから彼は連絡してくれているのか心配だったけど、
心配でもなんでも電話しないといけないっておもった。
電話のコールは2回だった。
すぐにでてくれた。
「お母さん、私です。離婚届を書いてもらいにそちらに伺いますけどいいですか。」
挨拶もしないで話した第一声がそれだったけど、
お母さんは、
「はいはい、わかりましたよ。」
「まっていますからいらっしゃい。」
なんだか、ちょっと拍子抜けしたけれども、
いつものように穏やかな口調ではなしてくれたから、
私も素直に、
「はいわかりました。もう今から伺います。」
と言って電話をきった。
久しぶりの電話だったけど、
挨拶も何もしない電話だったけど普通の対応だった。
そうか、離婚はこんなものなのか。
そう思った。
電話が終わると母に会いにいく。
夫の母も車で20分程度のところに住んでいるので、
すぐに会いに行くことができた。
母に会いにいく。
離婚の為に母に会いにいく。
家に着くと母と夫の兄が待っていてくれた。
どんな事を言われるのかと思ったけれども、
大した事もなかったのを覚えている。
おはようございますの挨拶の後に、部屋に通してもらって、
先に私が話しだした。
昨日の晩に彼にこちらで離婚届を作成してもらうように言われています。
理由は彼から聞いてほしいけれども、
簡単でよければお話しします。
そういうと母がとても心配そうにいいました。
「本当にそれでいいの。」
そう言われて、
その時の本当の気持ちを話したのを覚えています。
おかあさん、おにいさん聞いてください。
彼はギャンブルがやめれなくて、生活費を使い込み借金をして生活しています。
今までは私が一緒になって返済していましたが、
私からお金が取れないとわかると勤め先の社長さんから借金をするようになっていると、
昨日わかりました。
それは昨日、彼の勤め先の社長さんに教えてもらいました。
これも昨日、彼から聞いてわかったのですが、
私名義で100万の借金をしているそうです。
私は、まったく知らない事ですし、
借用書にサインをしたわけでもありません。
彼が勝手にギャンブルをしたくてお金を借りていたみたいです。
おかあさん、おにいさん、
私はそんなに裕福な生活ができるような収入はありません。
彼の事を助けてあげたい、
夫婦だから助け合って生きようとこの15年してきたのですが、
私にはこの婚姻生活を続けるのは無理だとおもい、
離婚することにしました。
子供がいます。
私には2人の子供がいます。
この子たちを大人になる迄は育ててあげないといけません。
それに離婚を急ぐのは自宅に借金取りがくるらしいので、
離婚を急いでいます。
今のままだと子育ては出来ないです。
離婚しますので書類の作成おねがいします。
そういうと、私の青あざがある顔を見ておかあさんがいいました。
「ほんとうにいいのね」
「はい」
そういうと私はすぐに立ち上がった。
昨日の今日だったので離婚届をもっていない。
「書類をもらってきますから待っていてください。」
そういうと私は離婚届けをもらいに市役所いった。
念の為に記入の仕方を聞いたけど、とても簡単だった。
間違えるわけもないけど、
2枚もらうことにして母のところへ帰った。
2人に書き方を説明して、まずは私が記入した。
その後で必要な部分を書いてもらうのだけれども、
夫はいないので兄に代筆してもらうのだけれども、
記入がわからないらしく、
おかあさん、お兄さんと夫と電話で話しながら離婚届を書いてくれた。
自分の事だけれどもなんだか、
あの3人のやり取りを見ているとなんだか、
他人が楽しい世間話しをしているような光景だった。
1時間くらいかかったような気がするけど、
何とか離婚届が書きあがった。
自分でも確認して、その書類をもらうと、
私はそれではいきますと言って席をたった。
「ありがとう」や「今までお世話になりました」とかは言わないで、
「いきます」といって軽くお辞儀をしてそこを後にした。
きっともっと何かを言わないといけないんだろうけど、
疲れ切っていた私はもう何も言える状態でもなかった。
私にはそれが、もう限界だった。
重い足をあげて私は市役所へむかった。




