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紅い薔薇は罪か  作者: 暁 乱々
Question1:Mary ~母の解は在るか~
1/8

1.ブランコ

 ブランコが揺れている。錆びた音を鳴らし、揺れている。漕いでいるのは一人の少女。四、五歳くらいだろうか。一人ブランコで遊んでいる。


 団地の中の小さな公園には、少女と女性が一人いる。彼女はベンチに座り、ブランコを漕ぐ少女を見つめている。それ以外には誰もいない。

 この時代の子は公園で遊ばないことを、おそらく彼女は知っている。他の子たちがどこでなにをしているのかも。しかし彼女は公園へ連れていく。たとえそこに誰もいなくとも。


瑠奈(るな)、そろそろ、帰ろう」

 女性が少女に声をかける。その発声は決して流暢(りゅうちょう)ではない。スピーカーから発せられたような途切れた声だ。

 彼女の呼びかけを無視して少女はブランコを漕ぎ続ける。しばらく待っても止める様子はない。

 女性は立ち上がり、少女に近づく。彼女の純白の肌は太陽光を反射し、まぶしく輝いている。瑠奈に向かって歩く様子はどこかぎこちなく、かすかにモーターの音が聞こえてくる。花柄のエプロンを着けた彼女は人間ではない。CR(コスモ・ロボティクス)社製の家政婦ロボットHK(ハウスキーパー)-X(エックス)だ。その証拠として腕には型式と識別名:Mary(メリー)の刻印が打たれていた。


「帰ってお勉強、しなきゃ」

「いや!」

「ママに、叱られて、いいの?」

「あの人はママじゃない!」

 瑠奈の言葉にメリーは固まった。数秒の沈黙が公園に流れ、枯葉が風で音を立てた。

「瑠奈は、あの人と、一緒にいなきゃ、いけないの」

「いや! だって、あの人こわいもん」

 瑠奈は明らかに怯えていた。胸元で両手を握り、メリーを見つめている。

「いま、帰ったら、私が守って、あげる」

「かえらなかったら?」

「もっと怒られる。私も怒る。守ってあげないし、明日から、遊ばせない」

 瑠奈はやっとブランコを飛び降りた。ふてくされた様子でメリーに寄り添い、まだ陽が高い空の下、家路についた。


 公園のブランコが揺れている。音を立てて揺れている。

 一度大きく揺れたブランコは、彼女が去るまで止まらない。

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