ep.097 訳有りのSM部屋
徳野が皐月を伴って入ったのは、南海・難波駅とJR・なんば駅の間に密集しているラブホテルの一つ、“悪戯にゃんにゃん・ナンバ店”だった。
徳野は、ホテルに入るなり部屋を選択するタッチパネルに近付き、既に使用中を表す電気が消えた部屋を何度か押した。
振り返ると、愛想よく笑う。
「すんません、お待たせしました。さぁ、いきましょか」
そう言うと、徳野は皐月をエレベーターに誘った。
エレベーターは6階で停まり、二人は点滅する606と書かれた玄関灯の部屋を目指す。
「汚い部屋ですが・・・」
そう言って、徳野が開けた部屋の中は、18畳くらいのスペースに、壁は赤と黒の二色で構成され、無機質な感じを受けるのの寝る為ではなくプレイする為のキングサイズのベッド、そして、L字型に配置された無駄に高級感のある応接セットで構成されていた。
皐月が目を引いたのが、壁に取り付けてある拘束具や、掛けてある鞭・縄の類いである。
皐月は、少し目眩を感じながら、ソファーに座り足を組むと、
「徳さんの趣味なの?」
徳野は少し照れ、
「いやぁ、本当は普通の部屋を借りる予定だったんですがね、このホテルをのオーナーがこの部屋ならほとんどタダみたいな値段で貸してくれるみたいな事言ってくれたんで、借りた訳ですわ」
そして、徳野は、ため息を一つ吐くと、
「私、無神論者なんで、あまり気にしてませんけどね。オーナーの話やと、何年か前にこの部屋でSM嬢が殺された事があってですね、それ以来開かずの間にしてたそうなんですわ。丁度、今、皐月さんが座ってる辺りですかね・・・。死体があったの・・・」
いい終わると徳野は、皐月の座ってる場所を指した。
思わず皐月は、キャッと言って立ち上がる。
徳野はニヤリと破顔し、
「すいません、皐月さん。嘘です」
皐月は、怒る。
「勘弁してよ、徳さん」
「はははっ、いくら睦月さんの妹さんでも、この手の話は苦手でっか?」
皐月はため息を吐き、
「得意では無いわね・・・」
徳野は更にニヤリとすると、
「実は嘘と言ったのは本当で、そこでは無いんです」
「何が・・・?」
「殺られたの・・・」
「!?」
「風呂場ですねん。まっ、住吉っさんの魔避けのお札貼ってるから、大丈夫ですけど・・・」
皐月は思う。
《徳さん。アナタ、無神論者ってたわよねーーー!》




