ep.096 腕組んでもらえまっか?
大阪ミナミのマルイ前で、皐月が情報屋の徳さんを待っている。
いつものジャージに黒縁メガネの野暮ったい皐月ではなく、洗練された大人の女としての皐月であった。
「久しぶりにこんなのを着ると、女を意識出来るわね」
皐月はウィンドウに写った自身を見て、何気にポーズを取ってみる。
プライベート・レーベルの春物の深いピンクのワンピースは、先日、睦月に誕生日プレゼントに買ってもらった服なのだ。
実際、スタイルもかなりいい皐月なので、服も映える。
《んー、いい感じでセクシーだわ。早くウチのお嬢さまも高校卒業しないかしら・・・。そしたら、制服着なくっていいんだけど。いくらヴィヴィアン・ウエストウッド製で可愛いとはいえ、さすがに23才で制服を着るのは辛いわ・・・》
そんな皐月に、後ろから野太い声が掛かった。
「ねーちゃん、そんなに色気振り撒いてどーすんねん」
皐月がキッと振り返ると、どこにでもいそうなサラリーマン然とした顔をにやけさせたスーツ姿の男が立っていた。
歳の頃は40半ばといったところか。
「俺、待ってたんやろ?とりあえず、ホテル行こうや」
「はぁ?」
皐月が、何このオヤジ?と睨むと、中年の男が近付き、小声で囁く。
「すいません、皐月さんですね?徳野です。皐月さんは大丈夫なんですが、私、色々ヤバい橋渡ってるんで目立ちたくないんですわ。とりあえず、信用出来るホテルありますんで、情報はそちらで・・・。そこの信号渡ったら、腕組んでもらえまっか?客と店のオンナの振りしたいんで・・・」
皐月は少し驚き、コクンと頷く。
皐月と徳野は、御堂筋の反対側に渡る。
皐月は妖艶に笑い、徳野の左腕を組み歩きだす。
「こうすればいいの?徳さん?」
皐月のDcupある胸が当たり、徳野は少し照れ、
「すいまへん。皐月さん、私、嘘付いてました」
「?、どういうこと?」
「腕組まなくても、カップルに見えます。一度、皐月さんみたいな綺麗なねーちゃんと腕組んでみたかったんですわ・・・」
皐月はふふっと笑うと、軽くウィンクし、
「徳さんは、素直ね。いいわ、特別にホテルまで腕組んだげるわ。その代わりサービスしてね」




