ep.095 金バッチの資格
「くっ、何や・・・」
「会長に、お嬢さんを襲うようにしむけたのも、“播州田嶋組”の叔父きで?」
岸田は、ニヤリと笑い、
「アレは俺が仕掛けた。叔父きにいい手土産やろ?」
「確かに・・・」
刹那、山崎の運転するレクサスは、愛染病院に滑り込んだ。
山崎は看護婦読んできますと岸田に告げ、車から飛び出して行った。
数分後、山崎はストレッチャーを押した看護婦二人と戻って来て、岸田に告げる。
「補佐、もう大丈夫です。先生が診てくれますんで」
岸田は身を起こし、山崎と看護婦に抱えられながらストレッチャーに乗せられ病院に入っていった。
どうやら意識を失ったようである。
山崎は一緒に行かず、岸田を見送る。
そして、右手の中にある物を見入った。
金色の稲穂が美しく輝く河内稲美会の大紋である。
岸田をストレッチャーに載せる際に、山崎が岸田のジャケットから外したものだ。
山崎は、病院の方をキッと睨むと、
《あんたにコレを着ける資格はねえ!》
そして、自身の金色のバッチを外すと、
《また俺もな・・・》
意外だったのは、バッチを外した山崎が、一度だけ岸田の運ばれた先に向かい深々と頭を下げた事だ。
《クサレのド外道とはいえ、俺の上だった人だ・・・。ケジメとして一度だけ、礼を言わせてもらいます》
山崎は頭を下げたまま、呟く。
「補佐、お世話になりました」
頭を上げた時、山崎の瞳には一辺の迷いも無かった。
携帯を取り出すと、自身の1番信用出来る弟分に電話を掛けた。
「忠志か?俺だ、大事な話がある。信用できる身内だけ集めて、大至急、河内長原の歓真寺の境内に来てくれ。いいか、本当に信用出来る身内だけだぞ・・・」
山崎は携帯を切ると、レクサスに乗り込み、河内長原の歓真寺を目指した。
《こんな時、政さんだったら、何て言うだろうか・・・。あぁ、政さんが生きていてくれたら・・・》
山崎は、自身よりは二つ年下ではあったが、先代・若頭の柳沢政人にいたく男惚れしていたのだ。
今でも思う、
《政さん、アンタのなら子分の盃が欲しいと・・・》




