ep.092 河内稲美会は無くなるで
その少し前の事である。
レクサスの車内で、脚の怪我を痛がる岸田に、山崎が運転をしながら尋ねる。
「補佐、もうすぐ愛染病院に着きますから」
「山崎、すまんな。急いでくれや」
岸田は、痛いながらも正気を取り戻した様だ。
山崎は、疑問に思った事を岸田に尋ねる。
「会長は、いつからまた薬を?昔、それが原因で跡目から外されたのに・・・」
岸田は思わず本音を漏らした。
「山崎。ボン、いや、あのボンクラは、止めてなかったんや」
「!」
山崎は、うっすらと汗をかき動揺を隠せない。
「しかし、補佐。会長は、何処から麻薬を?まさか・・・」
岸田が、痛みを伴いながらもニヤリと笑い、
「俺が都度用意した。昔のコネクション使ってな。山崎、お前も縁日での的屋なんか止めて、手下使って麻薬捌かしたらどーや・・・?もーかるぞ!」
山崎はやんわりと断る。
「いっ、いえ、私は・・・、そんな度胸有りませんので・・・」
しかし、山崎の目の奥で鈍く光る何かが在った。
「補佐、前々から気になってたんですが・・・、会長をヤク中にしたのも、まさか?」
「あぁ、あのボンクラ、ホンマにちっこい男でのー、昔からプレッシャーに弱かったんや。せやから、俺が気付けに渡したのが最初や。せやけど、俺は優しいから、ちゃんと麻薬の抜きかたも、ボンクラには教えたで」
山崎は、わざと大袈裟に驚き、
「そうなんですか?さすが、補佐ですね」
と言う反面、心の中では、
《このクソボケが、全ての元凶か・・・》
怒り心頭な山崎であった。
岸田は、持ち上げられている事に気付かず、
「山崎、お前も今後の身の振り方考えた方がええぞ」
「えっ?、どういう事ですか?」
「お前も、理解らんやっちゃなー!」
山崎は少し困惑し、
「はぁ、すいません・・・。何せ無学なもんで・・・」
岸田は、得意気にやや鼻を膨らませ、
「“河内稲美会”は無くなるで、あのボンクラがヤク中やってバレたら、長老連中が何て言うか・・・。ましてや実の妹、てごめに掛けたと知ったら・・・」
山崎は、岸田の思ってる事を全部吐かせようと心に決め、
「そうなったら、取り潰しになりませんか?私的には困るんですが・・・、補佐はどうされますんで?」
岸田は、疼く痛みに堪えながら、
「そん時は、播州田嶋組の叔父きに入ってもらって、誰かに継いでもらうしかないなぁ・・・」
「しかし、播州田嶋組だとウチと縁遠くないですか?」
「どうせ、こんなチンケな組、誰が継いだって同じやろ!」
「じゃあ、あれですか?播州田嶋組の組長の推薦で、補佐が継ぐ事も?」
岸田は不敵に、
「言われたらな」
山崎はもしやと思い、
「補佐、麻薬の入手先って、播州田嶋組ですか?」
「なかなか鋭いのー、山崎。そうや、播州田嶋組や」




