ep.091 もう一枚の家族写真
睦月は、ヌイグルミを注意深く触る。
僅かだが、身体の真ん中の方に異物を感じた。
《やれやれ・・・》
睦月はスーツの内側にある隠しポケットから軽量合金で出来た小型ナイフを取り出すと、背中の何度も繕ろわれている場所に丁寧に刃を入れる。
ヌイグルミの切り口に、右の人差し指と中指を入れて、異物を探す。
《ん?コレか・・・》
睦月がヌイグルミから取り出したのは、長さ10センチにも満たない竹製の小さな筒だった。
《筒?更に中に何か入ってるな・・・》
筒の中身は、一枚の写真と短い手紙である。
《また家族の写真・・・?》
筒の中の写真は、先程の写真館で撮った様な感じの物では無く、ごく親しい身内により撮影物に見えた。
写っているのは、赤ん坊とクマのヌイグルミ、そして両親だと思われる男女。
写真の裏を見ると、こう書いてある。
“裕太郎パパ、冴子ママ、裕一くん・・・昭和5X年6月2日、自宅にて”
《この赤ん坊が稲美裕一?まさか・・・》
睦月は、二枚の家族写真を見比べてみた。
両親と思われる大人の男女が明らかに違っている。
《!!、もしかすると、これは・・・》
睦月は、写真と同封されていた手紙に目を通す。
《やはり、そういう事か・・・。だとしたら、彼女にも少しは救いが有るか・・・》
睦月は写真と手紙を筒に戻し、そして、その筒をヌイグルミに入れ直した。
スーツの別の隠しポケットから、かなりコンパクトに折りたたんだバッグを取り出す。
睦月はバッグの中に、先程引き出しの中に在った大量のエロい写真、ノートPC、家族写真、そして、クマのヌイグルミを入れた。
更に睦月は部屋を物色してみたが、麻薬等は見つからなかった。
《クスリがここに置いていないって事は、別の場所でヤっているか。その度毎に誰かが持ってくるかか・・・》
睦月は軽くため息を吐くと携帯を取り出し、ある番号に掛けた。
「睦月だ。2時半に僕のマンションに来てくれ。頼みたい仕事がある。そう、出来れば京也も一緒に・・・」
携帯を閉じると、思わずここにいない部屋の持ち主に言う。
「すまんが、クマのヌイグルミと家族写真は借りていく。但し、他は処分させてもらうが・・・」
睦月はバッグを肩から掛けると、裕一の部屋を出た。




