ep.089 また、ノイズが走る・・・
岸田は、ビビって短刀を見詰めたまま動かない。
裕一はそんな岸田に納得がいかず、
「岸田、早よ詰めーや」
「ぼっ、ボン、そっ、そうは言いますが・・・」
「出来へんのか!」
裕一はいきなり短刀を取るなり、岸田の左太ももに突き立てた。
岸田のスーツが朱色に染まる。
激痛の為、岸田は転げ回った。
一方、裕一はヘロインが切れかかっており、頭を押さえる。
《くそぉ、いつも、俺は昔から一人やった・・・。この家に来た時からも・・・。えっ?今、何て・・・?》
裕一のコメカミに激痛が走った。
《痛ぅ・・・。また、ノイズが走るぅぅう・・・。ヤク、薬をくれ・・・》
そんな矢先、山崎が血相変えて稲美家へ飛び込んで来た。
「会長さん、補佐、どうしました」
裕一は山崎に訴える。
「山崎、薬くれや、薬・・・」
山崎はまさかとは思っていたが、裕一の中毒症状を見て確信を得た様で、
「会長、申し訳ありません」
そう言い放つと、首に手刀を入れ裕一を落とした。
そのまま裕一をソファーにもたれさせ、今度は岸田に目を向ける。
「山崎、コレ抜いてくれや・・・」
山崎は、岸田の左太ももに突き刺った短刀を見て、
《ヘタに抜くと、ヤバい・・・》
そう判断し、岸田に声を掛ける。
「補佐、ここで抜くのはマズい。病院行きましょう・・・」
そう言って岸田に肩を貸すと、自分の運転してきたレクサスに戻った。
岸田を後部座席に乗せると、エンジンを掛け愛染病院に向かう。
稲美家には、裕一だけが残された。
橘と睦月は、玄関の門から声を掛けるが反応がないので、ガレージの方に回ってみる。
ガレージにはニッサン・プレジデントが停まっており、勝手口が開いていた。
睦月は着いて間もない血痕に気付くと、何気ない様子で愛車の鍵を橘に渡し、
「橘先生、僕、忘れ物しちゃったみたいで・・・、申し訳ないんですが、代わりに取りに行って貰っていいですか?で、20分後に戻って来て下さい。いいですね?」
橘は何故か拒否出来ずに頷くと、睦月の車に戻っていった。
《さて、何があったんた?》
睦月は一切物音を立てず、稲美家に入って行く。




