ep.080 やっと笑顔になられましたね
「うわぁ、美味しそう」
運ばれてきた海老天ぶっかけチク天トッピングを見て、橘が思わず声をあげる。
睦月はそんな橘に温かく微笑むと、割り箸を割り、
「実際、美味いですよ。いただきます」
と手を合わせ、うどんを豪快に食べ始める。
まさに御見事と言う表現がぴったりくる程、睦月の食べ方は男前だった。
睦月の食べっぷりに見とれていた橘も、我に帰えると海老天を摘み上げ一口頬張る。
衣のサクサク感と海老のプリプリ感が堪らなかった。
思わず目を見開き、ん~と唸る。
睦月は食べている箸を休め、
「如何です?橘先生?」
橘は、手打ちうどんの喉越しを確かめ、満面の笑みで、
「めちゃめちゃ美味しいですね!でも、よくご存知ですね。美味しいお店」
睦月は照れ、
「いやぁ、半年前かなぁ、たまたま讃岐うどんと書いてあるのぼりを見て、入りましてね。気になって、入ったら」
「美味しかったんですね?」
「はい、最高にね。元々、大学のゼミの旅行で、四国のお遍路を廻った時に、香川で食べたうどんが美味しくって。それからですね、うどん好きになったんですよ・・・」
橘は睦月の意外な答えに、笑う。
「まぁ、そんな前から」
睦月は、はいと大きく頷き、
「橘先生、やっと笑顔になられましたね。少し安心しました」
橘はその時、ケアされているのが自身である事に気付いた。
赤面すると、
「すっ、すいません。気を使って頂いて・・・」
「僕はね、今の学園、聖クリが大好きなんですよ。自由で在りながら、それぞれの個性を認め、更に延ばす教育。それでいて、協調を忘れない。もっとも、その負担は我々、教師に跳ね返ってくるのですが・・・」
「ええ、でも教えがいのある生徒達ばかりなので、苦にはなりませんわ」
「ですね」
睦月は一呼吸置き、
「それでですね、橘先生。今回、訪問する稲美雪江さんですが、少し調べさせて頂いたんですが・・・」
「はい」
「高校生で背負うには、余りにも過酷で重たいですね。彼女の人生は・・・」
橘は、箸を置くと、口元を引き締め、睦月の話に耳を傾けた。




