ep.008 “悪戯にゃんにゃん”?
V-maxを国道170号線沿いに、北へ走らせる事約10分程した位であろうか、こころがタンデムシートの直子に声をかける。
「直子、もうすぐ楽しいトコ、着くったい」
心地良いスピードを堪能し、こころにしがみついていた直子がちょっと伸びをして先を見る。
「こころ先輩、どれで・・・」
目に入った派手派手しい看板と入口への看板を見て直子は固まった。
看板には、こう描いてある“俺様とワタクシのお洒落なファッションホテル・悪戯にゃんにゃん”。
直子はこころにぎゅっとしがみつき直すと、思う事があったのか、こころの背 中にぴたっとヘルメットを当て、
「もしかしてそうじゃないかって。アタシ、初めては・・・、先輩がいいです・・・。雪江のお兄さんは嫌っ」
直子の複雑な思いと表情は、読み取りにくい。
驚いたのはこころである。
「はぁ?直子、アンタ、なんば言いよっと?ちゃー、あん看板見たんね。その先ったい、ウチが連れていくのは」
呆れると、ガハハと笑った。
「え?」
こころ以上に直子が驚く。
V-maxは、“悪戯にゃんにゃん”の横を、更にそのホテルを覆い隠す様な森を過ぎると、目の前に現れたフランス風ファミリーレストラン“ル・スリィール”富田森店が現れた。
“ル・スリィール”は、現在関西を中心に展開しているファミレスで、店の売りは店舗ごとで毎日焼く食べ放題のバターたっぷりなクロワッサンと、ア・ラ・カルトでも一品千円以内のフランス料理である。
もちろんファミレスなので、定番のハンバーグやスパゲッティもあるのだが、ちゃんとブリュゴーニュ風やニース風にアレンジされているのだ。
こころは、V-maxを“ル・スリィール”の駐車場に滑り込ませ、エンジンを止める。
ヘルメットを脱ぎ、
「直子、着いたとよ」
直子もそれに習いヘルメットを脱ぐ。
「あっ、“ル・スリィール”!ここだったんですね?こころ先輩も好きなんですか?」
「うん。ウチは、この店好きね。なーんね、直子、“ル・スリィール”知っとっと?」
「はい、パパとママと翔とたまに来ます」
直子は、連れてこられたのが、年に何度かは家族で食事をするファミレスだったので、安心して笑った。