ep.078 真っ赤なコルベット
河内長原駅のバス・ロータリーで、聖クリストファー国際学園高校の化学 教師兼、一年B組の担任・橘庵は、同校の日本史担当の烏丸睦月を待っていた。
待ち合わせには、10分前に着く、それが彼女のポリシーであり、モットーである。
服装はもちろん、学園で着ているラフな服装ではなく、クリスチャン・ラクロアの黒ベースのスーツに、純白のシルクのブラウス。
黒の網タイツに、エナメル地にゴールドで蝶の飾りをあしらった先週ダイアナ買ったハンプス。
それに、お気に入りのコーチの白のハンドバッグ姿である。
少しオレンジががった茶髪のショートヘアーに、黒を基調とした服装が映えた。
本来ならば、超イケメンの睦月と二人っきりでの家庭訪問なので嬉しいはずなのだが、訪問先がクラスの稲美雪江の家で、それ以上に問題なのが友達の恭子が教えてくれた教え子の稲美雪江と思わしき人物の暴行の一件なのでかなり憂鬱である。
《あぁ、思い過ごしであれば、どんなに気が楽だろう・・・》
そんな不安な橘に、少し離れた位置から車のクラクションが鳴った。
橘がクラクションの鳴った方向に振り向くと、一台の真っ赤なコルベットが停まっていた。
《え・・・?まさか、あの派手なスポーツ・カーって、睦月先生!?》
橘の予想通りコルベットのドアが開くと、まるでメンズのファッション雑誌から抜け出た様な睦月が出てきた。
細身の引き締まった長身に、色の浅いブルーグレイのアルマーニのスーツが良く似合う。
ネクタイは着けておらず、ポール・スミスの紫のドレスシャツを二つボタンを外して着ている。
着こなしが完璧に成されているので、嫌味な感じを全く受けない。
黒のレイバンのサングラスを外すと、聞く者を安心させる少し低くめの良く通る声で、
「お待たせしました、橘先生」
橘は睦月の服装に驚き、目をパチクリさせている。
睦月は不安な様相で、
「似合いませんか?スーツ?」
橘は首を横に振り、
「びっくりしました。凄く素敵です。いつも白いシャツに、ジーンズやチノパンを召されてるので・・・」
睦月は笑顔になり、
「良かった。皐月に言われたんですよ。家庭訪問なんだから、ちゃんとしろって・・・」




