ep.007 タンデムシート
近鉄・南大阪線と南海・高野線の二つの私鉄路線が交わる形で河内長原駅は存在する。
駅から聖クリまでは、行きは山頂まで、上り坂をひたすら上がるので約25分~30分、帰りは下るだけなので約20分あれば駅に辿り着けるのだ。
こころはV-maxを河内長原駅東口に停めると、ヘルメットを脱ぎ、愛車にもたれ掛かり直子を待つ。
幾人もの学園の生徒が、こころに挨拶をして通り過ぎていく。
中にはこの時とばかりに、写メ撮らして下さいなどという女の子も数人いた。
《有名なのはしょうがなかね・・・》
と笑顔で対応する。
実際、こころの人気は女の子には絶大で、二年に上がってからは、既にもう三度も下級生の女子に告白されている。
桜子が生徒会会長でいられるのには、女子に人気のこころや、数少なくはあるが男子に人気の藍なども、桜子を推薦する事も要因の一つでもあった。
そうこうする内に、直子が足取りも重く、やって来るのが見えた。
こころは大きく手を振り、
「直子、なんばしよっとね。こっちたい、こっち!」
直子は、まさか自分より早くこころが駅にいるとは思ってもなかったので、
「こころ先輩こそ、何してんですかぁ?」
と驚きを隠せない。
「ウチ?ウチはアンタを待ちよったい。はい、これ被って、デートすったい」
有無を言わせず、こころは桜子のヘルメットを直子に押し付ける。
そして、こころ自身もヘルメットを被ると、バイクに跨がり、
「はい、早く乗らんね。行くったい」
と急かす。
「!?」
直子は拒否する事は出来そうにないと判断すると、軽くため息を吐つく。
そして、ヘルメットを被ると、ボストンバッグを袈裟掛けにし、V-maxの後部座席に跨がる。
学生鞄は身体と身体の間に挟む事にした。
「しっかり捕まるったい、直子」
直子がこころの腰に手を回し、ギュッとすると、心地よい重低音をあげながらバイクは走りだす。
こころのファンが見たら、卒倒しそうな二人乗りであった。
「何処行くんですか?こころ先輩?」
直子がヘルメット越しに尋ねる。
「さぁ、何処だろねー」
こころは意地悪に答えると、更にバイクは加速度を増していく。
一路、北を目指して。