ep.059 全部、終わった?
「で、そのマークXやけど、南港で見つかってな。今日の早朝に釣り人が、車が落ちるのを見て、自殺と思ったらしく、110番通報があって湾岸署が引き揚げたら、その車やったんや。ほんでやな・・・」
鉄は身を乗り出し、こころをギロリと見る。
《ちゃー、バレてるったい・・・。サバイバル・ナイフの件・・・》
こころは、一度深くため息を吐くと、
「鉄さん、告白したか事があります」
「何や、こころ?もしかして、コレ使わんとアカン事か?」
鉄は、ポケットからガチャリと重たい音をさせ、テーブルの上に手錠を置いた。
鉄の口調は真剣だが、口元はニヤニヤしている。
こころは、鉄を見ずに手錠を凝視している。
《終わった・・・。ウチの青春も、オリンピックも全部終わった・・・》
頭の中が真っ白になった。
刹那、別の席に座って新聞を読んでいたスーツ姿のスレンダーな女性が、鉄とこころに近づき、
「鉄さん、悪戯はそれくらいにしてあげたら?」
鉄とこころは、スーツ姿の女性を見る。
「なんや、美保ちゃんやないか。おったんかいな」
「ええ、奥で新聞読んでました」
こころは呆然と二人を見ていたが、
「鉄さん、この方は?」
「あー、紹介するわ。大阪府警本部の捜査一課の相原美保刑事。美人やろ?怒るとめっさ怖いんやで」
こころは、すくっと立ち上がり、頭を下げた。
「はじめまして、鷹見こころです」
「よろしく。相原よ。それから、鉄さん。怖いは余計です」
と鉄をキッと睨んで、そして、笑う。
美保とこころは、固く握手を交わした。
「あっ、鉄さん。後で話が。甥っ子の事で相談が・・・」
「ん?何や?らしくないなぁ。まぁ、ええわ。後でウチらの部屋おいで」
美保はニッコリ笑い。
「助かります」
そう告げると、頭を下げレジに向かった。
鉄が後ろから、美保に声を掛ける。
「美保ちゃん、ハゲとあんまり喧嘩したらアカンで。一応、上司やねんから」
美保は振り向き、
「向こうが勝手に喧嘩吹っ掛けてくるんですよ」
今度は、こころに顔を向けると、
「またね、こころちゃん。一緒に働けたらいいわね」
そう告げ、会計を済ませると出ていった。




