ep.058 盗難車だったマークX
鉄とこころは、さすがに“のん太”では話辛いと思ったのか、店を出ると更に5分程歩き、鉄が行きつけの喫茶店“マリーナ”に入った。
鉄が扉を開けるなり、
「理恵子ちゃん、俺らに、冷コーとホットケーキ二つづつ」
鉄は、こころに何を飲むかも聞かずオーダーしてしまった。
手慣れた感じで空いてるテーブル席に座り、こころを誘う。
直ぐさま“マリーナ”の店員・理恵子がやって来ると、水とオシボリを置き、
「鉄さん、いらっしゃい。今日は娘さんと一緒なん?冷コーは、ホットケーキと一緒がいい?それとも先にもって来よか?」
鉄は、ニッと笑うと、こころを指差し、
「冷コーは、一緒でええわ。理恵子ちゃん、このコ見た事無いか?テレビで」
理恵子はマジマジとこころの顔を眺め、
「あ”ー!この前、バレーボールのワールドカップに出てた柳岡ジャパンの《超》最終秘密兵器、スーパー女子高生“こころ”ちゃん!・・・ってか、何で 鉄さんと一緒なん?彼女、何かやらかしたん?」
「何でやねん!こころは俺の高校の後輩や。たまに府警本部の道場で稽古すんねん・・・」
「あー、ほんでか~。あっ、こころちゃん、後で色紙にサイン書いて~。飾るから」
「はぁ、良かですよ」
こころは笑顔で応える。
理恵子は、納得した様子で、カウンターの中に戻っていった。
鉄は胸ポケットから、手帳を取り出す。
「ほんでやな、聞きたいやろうから教えたるわ。内緒やで。自分がツブしたクラウンやけど、所有者名義は、堺市にある事になってる法人“酒井興業株式会社”の社長・酒井正や。そやねんけど、既に故人や。で、今度は拳銃持ってた事になってる男、名前は安西広志。23才、無職。もう一人の逃走したヤツは、知らんらしい。携帯の闇サイトで知り合ったらしく、拳銃もソイツが元々持ってたらしいわ。まぁ、嘘やろうけどな」
「ふーん。難儀な話しったいね」
鉄は、手帳をめくり、
「後、もう一台の方、マークXやけどな。こっちは盗難車でな」
こころの額に、うっすら汗が浮かぶ。
《ちゃー、てっきり拉致犯の車やと思ってたったい・・・。穴ば開けてしまったとよ・・・。ハァ・・・》




