ep.057 こころと鉄、そして、伝説のトンカツ
大阪府警本部から上町筋を北へ7~8分程歩いた所に、トンカツの店“のん太”はあった。
この店は、“鉄”こと虎谷刑事の大のお気に入りの店で、週に一度は必ずこのトンカツを食べるのが彼の習慣である。
かなりの肉厚なトンカツで、普通のロースカツでも厚みは1.5cmはあった。
揚げているのは、昔、伝説のカツ職人と呼ばれたオヤジの美山である。
元々、“のん太”は、天王寺の鉄道病院前にあり、昼間1時間だけ開け、何時もかなりの行列が出来る有名店であった。
三年前、店主のたっての希望で、ゆっくり食べて、その後、寛いでもらえる店に変更する為、ここに移転してきたのである。
「おっちゃん、ロースカツお代わりったい。キャベツも大盛で!」
「はい、お造りしましょうねぇ」
店主・美山は、目を細め嬉しそうだ。
こころは、かなり満足な面持ちで、カツを食べている。
さっくりとした食感がたまらない。
既にご飯はドンブリで三杯食べ終えていた。
こころの目の前に、彼女が小学生にでも見える様な大男が、ドカっと座っている。
彼の前には、トンカツの皿が五枚積まれていた・・・。
「なっ、こころ。ここのカツ、めっさ美味いやろ!」
「鉄さん、最高ったいね!美味しか~!」
「なぁ、こころ。お前、進路どうするねん?警官、せーへんか?」
こころは、うーんと考えると、
「悪くは無かね。ただ今は、やりたい事たくさん有るとよ。その後で良ければ考えるったい」
「そーか、まぁ、前向きで頼むわ。ウチの課長がうるさいねん。こころが欲しいって」
「有り難がたかね~」
「へい、お待ち!」
話を遮る様に、二人の目の前に揚げたてのカツが、ドンと二皿置かれた。
「さぁ、食うで!」
こころは笑って頷く。
「鉄さん。ウチ、鉄さんとご飯食べると少食に見えるから、なんか嬉しかよ」
半分位食べた処で、鉄が尋ねた。
「こころ。お前、昨日、よく怪我せーへんかったな。お前がツブしたクラウンのトランクの中のアレ・・・」
「あー、ピストル!ちょっとだけ、ビビったと。普通の女子高生相手に、拳銃はイカンとよ」
「普通ねぇ・・・」
鉄は、呆れながらも頼もしく思っているようである。
《やっぱり、刑事向きや、コイツ・・・》




