ep.055 抱きたいと思った事は?
「美味しい・・・」
「後、更に細かい最近の河内稲美会の情報に付いては、情報屋の徳さんが、明日の昼にナンバまで持って来てくれる。会ってくれるか?」
「あら、兄さんが会うんじゃないの?」
「あぁ、俺は、明日、橘先生とその“河内稲美会”に行かなくちゃならんのだ・・・」
「ふーん。モテるわね。いつもながら」
皐月はクスッと笑う。
女性に人気がある兄の事は、嫌いではない。
皐月は妖艶な顔付きで、ライダージャケットのジッパーを下ろし、
「兄さんは、私の事、女として見た事はあるの?抱きたいと思った事は?」
睦月はバーボンを一口含み、皐月の腕を掴み真顔で応える。
「抱いてやろうか?皐月、来いよ」
“Prince”のバラードを歌うファルセットが切ない・・・。
皐月と睦月が顔を近付け、キスまであと数mmの距離の瞬間、お互いに破顔すると、
「無理ね」
「あぁ、全く恋愛感情は湧かん」
睦月は皐月の手を放した。
皐月はソファーに座り直し、足を組むと、
「しかし、なんでまた馬鹿兄は、実の妹を抱こうと思ったのかしら?」
「それなんだがな、二人が本当の兄妹でないとしたら?」
「!?そうなの?」
「あぁ、裕一は先代組長の実の子供ではない」
「レポートには書いてなかったけど?」
「徳さんに、電話で依頼した時、教えてくれた。受け取る情報には詳しく書いてあるはずだ・・・。よほどの変態でも無い限り、妹をレイプしようとは思わないよ。近親相姦は同意の元では起こりえるがな・・・」
皐月はため息を吐き、
「背景が複雑そうね」
「俺は黒幕が居ると思っているよ。恐らく、この一件が表ざたになった時、得をする奴がね」
皐月は、レポートを手に立ち上がり、
「ありがとう、兄さん。今から、このリストに載っている幹部の家を回ってみる。何か気付く事があるかも知れないし・・・」
「了解った。気をつけてな」
「兄さんこそ、明日、橘先生と怪しい関係にならない様に」
少しだけ毒を吐き、皐月は出て行った。
雪丸が、皐月を玄関まで見送り帰って来た。
睦月は雪丸の頭を撫でながら、
《皐月も、教師で聖クリに潜入すれば良かったのに。まっ、そうもいかんか・・・。あいつはお嬢様の“影”だからなぁ・・・》




