ep.053 皐月、動く
「さて、アタシ達もお風呂に行って、寝ましょう。あっ、その前にだいぶ直子ちゃん待たしちゃったわね。謝らなくちゃ」
「大丈夫ったい、桜子。直子は、みぃの部屋でバレーの録画見てるとよ」
「そうなの。じゃあ、安心したわ」
桜子たちはおのおの着替えを持つと、浴場に下りて行った。
桜子達が風呂に向かってから暫くして、向かいの202号室の窓が開く。
「じゃあ、ベス、ローズ、私は居た事にしてね。朝には帰るから。それから窓の鍵は開けておいてくれる?」
そう二人に告げる皐月は、黒のレーシングパンツに、左肩に04、背中に烏のシルエットを抜いた“はねくみ”特製闇色のライダージャケットに身を包んでいる。
ローズは眠そうな目で、
「Take care, 皐月」
「サンクス」
そう言うと、ヒラリと皐月は窓から飛び降りた。
物音も立てず着地すると、バイク置き場を目指し走る。
愛機は静かに主人を待っていた。
皐月は、黒のホンダ・アフリカツインをバイク置き場から出し、跨がる。
キーを差し込み、セル・スイッチを押してエンジンに火を入れた。
闇夜にアフリカツインの重たい咆哮が響く。
《まずは兄さんの所に行かなきゃ》
皐月は、バイクを兄・睦月のマンションに向かわせた。




