ep.050 調和の美しき世界と、集いし“はねくみ”の乙女達
桜子は、正確にバイオリンを刻んでいく、それに藍の伸びやかなピアノの音が絡まって、先程の藍の独奏とは違う調和の美しき世界を醸し出す。
演奏が終わった時、桜子の頭の中では次に何をすべきなのか、答えが出ていた。
リビングは再び拍手で包まれる。
寮生全員が出て来て、演奏を聞いていたのだ。
桜子と藍が頭を下げ、“はねくみ”一同に近付こうと動いた時、一際大きい拍手がリビングの外れから聞こえて来る。
「桜子~、藍~、やっぱアンタらの演奏は聞いていて気持ちよかね~」
「あっ、こころちゃん!」
こころに気付いた藍が、大きな胸を揺らしながら駆け寄る。
ぎゅっと抱き着くと、お帰り~、と告げた。
横で少し唖然とする直子に気付いた藍は、
「こころちゃん、この子は?」
「一年生の鈴木直子、バレーボールの後輩ね」
藍は、にぱぁと笑う。
「直子ちゃんどすか?ウチは隼人藍です。よろしゅうしてくれやす」
「藍先輩、こちらこ・・・」
直子が全部言い終わる前に、藍が直子を抱きしめた。
学園で男子に1番人気の美少女のハグは、直子でも照れた。
一方、桜子は、こころが連れてきた女の子が鈴木直子だという事は、彼女が視界に入った瞬間、理解していた。
《パズルのピースが揃ってきたわ・・・》
桜子は左手にバイオリンを持ったまま直子に近付き、右手を差し出す。
「ようこそ、“聖マリア寮”へ。歓迎するわ、鈴木直子さん」
直子は、びっくりして目をパチクリさせながら、桜子の握手に応える。
「生徒会長、アタシの事覚えてるんですか?」
桜子は、優しく頷き、
「ええ、一年B組、バレーボール部の期待のアタッカー、鈴木直子ちゃん」
ニヤニヤ笑いながらこころが、直子に耳打ちする。
「桜子は、学園全員の顔と名前、そして誕生日が頭に入ってるとよ」
「すごっ・・・」
「会長選挙の活動の時、アタシと握手してくれたもんね?直子ちゃん」
桜子は、軽くウィンクして笑う。
そして、
「直子ちゃん、安心してね。アタシ達に全て任せてくれたらいいわ」
直子が気がつけば、桜子を中心として寮に住む“はねくみ”全員が直子を優しく見詰めていた。




