ep.044 “博多っ娘、純情”
こころが、両手にボルビック二本を持って出てきた。
一本差し出し、
「直子、どうね?」
直子は受け取ると、首を横に振る。
「あっ、すいません。連絡はダメです、こころ先輩。病院なんで、切ってるみたいです。入れておきますね」
「あぁ、頼むと」
こころは、ボトル半分位一気に水を飲むと、
「直子、ハラ減らんね?」
雪江宛てのメールを打ち終わった直子は、
「はい、少し空きました」
「まぁ、連絡ないのは、たいした事ない証とも言うとよ」
こころは愛機・V-maxに跨がり、直子の不安を打ち消す様にニイッと笑うと、
「ラーメン食べて、それから、寮戻るばい」
「はい」
二人は、ヘルメットを被ると河内長原市方面に消えて行った。
河内長原駅前にある“博多っ娘、純情”は、十年位前に駅前に出来た博多ラーメン専門店である。
店主、辰巳次郎は、40半ばの大阪府河内長原市出身の男であったが、九州大学工学部在籍の折り、博多市内で博多ラーメン店“一”を経営する新田雅治の三女・妙と恋に落ち、交際、そして結婚を認めてもらう為に、大学を辞めてラーメン修行に打ち込んだ猛者である。
博多修行時代は、“一”の天神店を任されていたが、次郎の父親が亡くなった時に嫁の妙を引き連れ、大阪府河内長原市の実家の近くに開店させたのが、“博多っ娘、純情”であった。
この店の特徴としては、本格的な博多ラーメンはもちろんの事、アルバイトの採用条件が福岡県出身である。
これは辰巳なりの妻・妙に対するホームシックを感じさせない優しさでもあった。
そんな“博多っ娘、純情”の前に、V-maxが停まる。
こころは、ヘルメットを脱ぎ、頭を軽く振り、
「ここったい、直子」
直子もヘルメットを脱ぐと、
「“博多っ娘、純情”?」
「来た事、無かと?」
「はい、美味しそーとは、思ってたんですけど・・・」
「この店は、KinKi Walkerの関西の美味いラーメン30選にも選ばれた美味か店ねl」
「マジっすか~、こころ先輩。詳しいですね」
直子は素直に驚いた。
「まぁ、着いてくるとよ」
こころはニヤニヤしながら、店の暖簾をくぐる。
直子も、急いで後を追った。




