ep.039 的屋“河内稲美会”
「直子、ここで間違いなかね?」
V-maxを停め、こころが尋ねる。
直子は頷く。
「なかなか、昔の任侠映画に出てきそうな家ばい」
こころは、古呆けてはいるが、立派な門構えを見て感心した。
《河内稲美会か、いい大紋たいね・・・》
今でこそ裕一が無茶苦茶しているが、河内稲美会自体の歴史は深く、昭和初期にまで遡る。
元々は寺社仏閣などの祭を仕切る的屋の家柄であった。
しかし、人気が無い。
ヤクザの家にしては、誰もいないのだ・・・。
こころと直子は、門の扉を叩く。
しばらくして、家の中から老女の声で、はいはいお待ち下さいよと返事があった。
門の扉が、ギイと音を立てて開くと、和装に割烹着を着た品のある老女が顔を出し尋ねる。
「お待たせしました。何のご用心ですか?」
直子は頭を下げ、
「聖クリで同級生の鈴木と申します。雪江さん、居ますか?失礼ですが、御祖母様ですか?」
こころも続く、
「ウチは鷹見といいます」
老女は、よっぽど雪江への来客が嬉しいのか破顔する。
「私が御祖母様?とんでもない。私は住み込みでお手伝いをさせて頂いてるトメと言います。雪江お嬢さんは、学校からお帰りになられて、ご自分の部屋にいらっしゃると思いますが・・・。お待ち下さいね」
そう告げると、頭を下げ家の奥に消えて行った。
トメは戻ってくると、
「お会いになるそうです。こちらへ」
直子とこころは、トメに案内され長い廊下の奥にある雪江の部屋に着く。
トメは頭を下げ、私はここでと戻って行った。
直子が、雪江の部屋の引き戸をノックし告げる。
「ゆっきー、入るよ」
何かを片す音がして、雪江が応える。
「どうぞ・・・」
引き戸を開けると、雪江の部屋は12畳の和室であった。
電灯が二個あるところから、元は6畳の和室を二つくっ付けた事は想像出来る。
雪江は勉強机に向かっていた。
「初めて入ったけど、めっちゃ広いね、雪江の部屋。あっ、こちらは・・・」
椅子を回転させ振り向くと、雪江は冷めた口調で、
「知ってるわ、聖クリの運動部総代にして、そして、幾つかの日本代表、鷹見こころ先輩。その鷹見先輩と直子が、そろって何の御用ですか?」
《ちゃー、一番苦手なタイプったい・・・》
早くも雪江は、静かに臨戦体制の様だ。




