ep.038 内緒にしてくれ!
ハルナは驚き、他の客の手前もあるから座る様促す。
山崎は従った。
「何やアンタ、知ってたんちゃうのん?」
山崎は首を横に振る。
「ある事があって消息不明やったんや・・・」
「ふーん、ややこしそうやから、そこは聞かんとくわ」
「あぁ、そうしてくれ。それから、ハルナさん、一つ頼みがある。」
山崎の真剣な眼差しがハルナを見た。
ハルナは軽くため息を吐くと、
「何なん?」
「実は、政さんが生きている事、内緒にして欲しいんや。理由は言われへんけど・・・」
ハルナは、少し考え首を縦に振る。
「ええよ。もう喋れへんわ」
「ありがたい」
そう言って、深々と頭を下げた。
山崎は立ち上がると、近々指名して飲ませてもらうと告げ、立ち去ろうとした。
ハルナが声を掛ける。
「山崎さん、忘れ物」
振り向く山崎に、ハルナは栓の開いていないドンペリ・ピンクを差し出した。
「コレは山崎さん、アンタのお酒や。持って行って」
「ええんか?」
ハルナは頷く。
ニッと笑うと、
「なんか良くない事もあったみたいやけど、少なくとも柳沢さんに関しては、ええ事なんやろ?だったらその分は、祝杯上げんとあかんやろ?」
山崎は頭を下げる。
「気を使わして、スマン」
ハルナが笑いながら訂正する。
「山崎さん、アンタ、ホンマにスマン良くいうヤクザやなぁ。こんな時は、“おおきに”だけでええんやで」
山崎は、ずけずけと物を言うハルナを気に言ったのか、破顔すると、
「じゃ、遠慮なく。おおきに」
そう告げ、店を出ていった。
ハルナは追い掛け、店の扉を開ける。
顔を覗かせると、エレベーターを待つ山崎の背中に、
「山崎さん、アンタ、頑張りや!」
山崎は振り向かず、右手を挙げ、そのままエレベーターの中に消えていった。
一方、ハルナは店内に戻ると、マネージャーに、
「メモ書きの通り足りない分、ウチの給料から引いて」
とだけ告げて、控室に消えて行った。
《まだまだ稼ぐでぇー。しかし、あの山崎ってヤーサン、思いの外、ええ男やね。あの組長と補佐よりは、ずっと威厳あるわ。せやけど、親が替えれないって大変やなぁ・・・。とりあえず、ジュース飲んだら、化粧直そ!》
ハルナの夜は、まだまだこれからなのである。




