ep.035 最悪な酒癖
既にランは謝辞を述べ、岸田の横に座り乾杯の用意をしている。
ハルナは改めて裕一の横に座ると、営業用の笑顔で、
「ありがとう、稲ちゃん。ウチ、嬉しいわぁ」
と照れてみせた。
裕一はニヤニヤ笑い、
「ハルナちゃん、俺に一目惚れしたやろ?好き好きオーラ出てるから、理解るねん。素直になれよ」
《はぁ?何?この気持ち悪い勘違いヤローは?めっちゃキモいんやけど・・・》
ハルナは呆れ、どうとでも取れる対応をした。
「もぅ、稲ちゃん、上手いんやから~。あちこちのキャバ嬢にそーやって、口説いてるんでしょ~」
ハルナは、裕一の二の腕を優しく抓る。
更に裕一は勘違いして、鼻の下を伸ばした。
ハルナは視線を岸田とランに移し、目配せする。
「さっ、乾杯しよ!稲ちゃん、岸ちゃん」
ハルナとランは、ウーロン・ハイの様なウーロン茶を可愛く持ち上げ、
「男前な稲ちゃんと、ダンディな岸ちゃんに出会えた素敵な夜に!」
「カンパーイ!」
岸田がランと、裕一がハルナと、話だして暫くすると、ボーイが請求金額が書いたメモをさりげなく置く。
ランが岸田に渡す。
岸田が裕一に尋ねた。
「どうします?ボン?」
裕一はハルナをじぃーっと眺め、いやらしい想像をしてから、吐き捨てるように言った。
「岸田、延長や。それから、ボトルも入れたるわ」
裕一は、何故かハルナを気に入っている様である。
「そん代わり、アフター付き合えや!何時に終わるねん?」
「えー、どうしようかなぁ・・・。なんか目的がアヤしぃなぁ~」
ハルナが、じぃーっと疑いの眼差しで、裕一を見つめる。
「もちろん、メシ食って、ホテル行くんや。何回でもイカせたるわ」
《このアホ、もう酔っ払ってる?》
ハルナははぐらかした。
「もー、稲ちゃん、エッチやねんから~」
瞬間、裕一がハルナの右胸を掴んだ。
「さっきから思ってたんや、お前、ええ乳してるやんけ」
《このドアホ、あんだけのビールでマジ酔っ払ってる!最悪な酒癖や!》
ハルナが、裕一の頬を思いっきり叩いた。
「おどれ・・・」
ハルナが言葉を遮る。
「か!」
「あー?」
「だから、蚊!」
ハルナは手の平を見せる。
季節外れの蚊が潰れて死んでいた。




