ep.034 迷惑料としてのウーロン・ハイ・ダブル
「稲ちゃんと岸ちゃんて、呼んでいいですか?」
ランが営業用の潤んだ目で二人を見つめる。
裕一と岸田は頷いた。
《なんや?このねちっこいなぶり回す気持ち悪い視線は?》
ハルナが裕一の視線に気付き、にっこり微笑む。
裕一は、視線を隠すために一気にビールをあおる。
炭酸が心地良かった。
「お代わりくれや!」
ハルナは、ビールのお代わりを手早くつぐ。
岸田は、ランを必死で口説きつつ、裕一をちらりと見る。
「ボン、さすがですねぇ。酒にお強い、かないませんや。男は、こーでなくっちゃなぁ・・・。ランちゃん、俺にもお代わりくれるかい?」
ランが、岸ちゃん強~いと合いの手を入れ、すぐにビールのお代わりをついだ。
ハルナが、裕一に囁く。
「ウチらも、何か頂いて構いませんか?」
「どーしょーかなぁ。今晩、ヤらせてくれるんやったら、かまへんで。へへへっ」
ハルナは冷静である。
「じゃあ、結構です。イランわ」
岸田が慌てて、
「ハルナちゃん、今のボンお得意の冗談やがな。ね?ボン?」
裕一はハルナの肩に手を回し、
「ハルナちゃん、冗談だよ。冗談。君があんまり可愛いから、からかってみたんや。好きなん飲めや」
「いいんですか?」
ハルナとランは仲良くハモる。
「アタシ、ウーロン・ハイ」
「ウチも~」
ハルナは、注文メモにウーロン・ハイ・ダブル、ハルナ&ランと書いた。
ハルナは、右手を高々と挙げた。
「ホナ、遠慮なく~。お願いしまーす」
ボーイが注文メモを取って行った。
実際には、ウーロン・ハイでなく、ウーロン茶が出てくるのである。
しかも、今回は倍の料金であった。
《悪いけど、ボラせてもらうわ・・・。アンタらキモいから迷惑料な!》
ウーロン・ハイを装ったウーロン茶が出てきて、2分もしない頃だろうか、フリーの交代を告げるアナウンスが流れた。
ハルナとランが立ち上がった。
二人とも営業用の潤んだ目で、裕一と岸田を見つめ、まずはランが、
「岸ちゃん、今日はありがとうございました。凄く楽しかったです」
続いてハルナが、
「稲ちゃん、ありがとう。また来てね。今から次の女の子くるから、楽しんでください」
ハルナとランは深々と頭を下げた。
二人が振り返り、立ち去ろうとした瞬間、裕一が声をかける。
「ハルナちゃんにランちゃん、お前ら、おれや」
ハルナとランは目配せした。
《うわぁ、最悪・・・》




